E1761 – 第26回保存フォーラム「保存と展示の両立を考える」<報告>

カレントアウェアネス-E

No.297 2016.02.04

 

 E1761

第26回保存フォーラム「保存と展示の両立を考える」<報告>

 

 2015年12月18日,国立国会図書館(NDL)は,東京本館において第26回保存フォーラム「その展示,本を傷めていませんか?-保存と展示の両立を考える-」を開催した。保存フォーラムは資料保存の実務者による知識の共有,情報交換を意図した場である。

 図書館・文書館では,啓蒙活動や広報の一環として,所蔵資料の展示が積極的に行われるようになってきている。貴重資料など長期保存が求められる資料を展示する場合は,資料への負荷を軽減するための対策が必須である。しかし国内には資料展示を行う際の留意点や,展示環境,展示方法等に関する情報が少なく,各館が手探りで,かつ限られた予算・人員・時間の中で取り組んでいるのが現状であるとみられる。そこで,第26回保存フォーラムでは「紙資料の長期保存と展示の両立」をテーマとし,展示を行う際の環境管理などの基本的な知識や,資料の特性に応じた展示方法や工夫している取組などについて,情報共有を図ることとした。

 最初に東京文化財研究所の加藤雅人氏から紙資料の劣化と展示環境について総論的な講演があり,次に実例報告として一橋大学附属図書館,印刷博物館,菊陽町図書館(熊本県),NDLの館種を異にする4館からの発表があった。当日は100名以上の参加があり,活発な質疑応答が行われ,関係者の関心の高さがうかがえた。以下,講演と事例報告の内容について簡単に紹介する。

●講演「紙資料の展示環境」(東京文化財研究所・加藤雅人氏)

 加藤氏は紙を専門とする研究者である。最初に紙媒体の図書館資料の劣化とその原因についての解説があり,次に理想的な展示環境構築のための考察がなされた。

  加藤氏の定義によれば,図書館資料の劣化とは,モノとして取り扱いができなくなる強度の低下と文字などの視覚情報が見えづらくなる光学特性の変化であり,その原因は「生物」「熱」「光」「酸素」「水」「時間」などだという。展示においては鑑賞を第一の目的とする一方,マニュアルなどの数字に従うよりも,展示環境に即してできる限り劣化の原因を減らしていくのが重要であるとされ,先述の劣化要因それぞれについて対策の指針が示された。最後に,現場でできる対処として,展示ケースや調湿材,紫外線をカットする材料の使用,展示期間の制限が挙げられた。

 ●実例報告1(一橋大学附属図書館・福田名津子氏)

 同館は専用の展示室を持ち,常設展のほか,貴重資料を出品する特別展および企画展を行っている。展示は福田氏の属する図書館研究開発室が担当している。保存と展示の対立局面を認めたうえで両者のバランスを勘案し,展示の際には「最小限の物理的負荷」「魅せる展示による集客」に焦点を当てているとのことだった。また,展示の種類と条件の類型化を図りつつ,最新の展示技法・保存技術を学ぶ必要性が指摘された。最後に同館の展示の変遷として,2010年から2015年までの間に開催された3つの事例が写真と共に報告された。 

●実例報告2(印刷博物館・石橋圭一氏)

 常設の総合展と,2015年7月にヴァチカン図書館などから資料を借りて開催された企画展についてそれぞれ解説があった。同館は凸版印刷株式会社の企業博物館で,石橋氏を含め7人の学芸員が在籍している。総合展では紙資料も含む印刷関連の資料を展示しており,人感センサーの照明を併用し通常時の光量を減らしたり,ポスターのように演色性の高さが重要なものにはLED照明を使用したりするなどの配慮をしているとの報告があった。企画展ではヴァチカン図書館の貸出規則に従い展示ケースや温湿度等の環境を設定し,時に提案や調整も行いつつ展示を開催したとのことだった。

 ●実例報告3(菊陽町図書館・松本和代氏)

 同館は少女雑誌コレクションを有する町立図書館で,正規職員4名と臨時職員12名で運営している。コレクションの周知のために展示室にあるガラスケースを使用して年に2回企画展を実施し,その他の期間は常設展を開催しているが,人員が限られるために長期間の展示になりがちであることや,特殊な資料を展示・管理する際の知識が得難いことなどの課題が報告された。 

●実例報告4(NDL・山口佳奈)

 NDLからは,2014,2015年度の展示について事例報告を行った。NDLでは,各部署が協働し企画・運営する全館規模の展示を年1回行っている。2014年度は環境のよい展示室で行ったが,2015年度は新館2階の目録ホールに展示ケースを設置して開催したため,それぞれの環境管理方法の違いと共通する指針について報告した。 

 最後の質疑応答では,展示ケース内の温湿度管理や展示支持具の選択等の具体的施策,貴重書展示の際の監視体制等について質疑が交わされた。

 当日の配布資料はNDLの「資料の保存」のページで公開している。

収集書誌部資料保存課・植原亜莉奈

Ref:
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/preservation/coop/forum26.html
http://www.lib.hit-u.ac.jp/rdo/http://www.printing-museum.org
http://www.kikuyo-lib.jp/hp/08_menu.htm
http://www.ndl.go.jp/jp/event/exhibitions/1207039_1376.html
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