カレントアウェアネス-E
No.273 2014.12.24
E1642
第25回保存フォーラム「続けられる資料保存」<報告>
2014年12月5日,国立国会図書館は,東京本館において第25回保存フォーラムを開催した。保存フォーラムは資料保存の実務者による知識の共有,情報交換を意図した場である。
図書館や文書館における資料保存業務は,資料や情報の長期的な利用を保証し,コレクションをつくりあげていく活動であり,組織全体で問題意識や方針を共有し,地道な取組を継続することが必要である。しかし,資料保存業務が有志の趣味的な活動にとどまっていたり,方向性を見失って停滞するなど,安定して継続させることが難しいという声を多く聞く。専任の部署や担当者を置く機関はごく少数で,頻繁な人事異動があることもネックのようである。そこで,今回は「続けられる資料保存-まねしてみたいマネジメントの工夫-」をテーマとし,京都大学文学研究科図書館の古森千尋氏の講演後,参加者の意見交換を行った。
「続けるコツ,繋ぐコツ-京都大学の資料保存活動」と題した古森氏の講演では,京都大学内を横断する委員会型の組織(図書館業務改善検討委員会の一部会)によって,約50の図書館・室の資料保存業務を支援する取組が紹介された。保存環境を向上させるためのマニュアルとチェックリストを作成し,年1回の書庫環境調査を2007年度から継続して,状況の把握とともに担当者の気づきを促すよう工夫している。また,資料保存に関する学内事例の収集,研修等により必要な情報や知識を蓄積し,Webサイトを通じて学内に提供している(一部は一般公開)。特にトラブル事例については,どこかで起こったことはほかでも起こりうるととらえ,原因を解明した上で,対処法を前述のマニュアルに盛り込んでいる。部会の活動は,人事異動等によって人の入れ替わりがあることを前提としており,書庫環境調査では毎年未経験者を交えることで,後任を育成するとともに新鮮な意見を取り入れ,マニュアルを毎年改訂しているとのことである。
京都大学においても,活動を継続させる困難さは他の機関と同様である。部会の活動は通常業務のかたわら行われており,担当者の数も部会発足時より減っている。そのような状況で2007年から活動を継続できているのは,担当者の工夫と合理的な思考によるところが大きいと思われる。主体はあくまでも各図書館・室であり部会はそのサポートに徹すること,保存環境の向上と情報提供を部会の重要課題とみなし,個々の職員の修復技術向上は課題としないこと,等の割り切った活動が印象的であった。
講演後の意見交換では,大学図書館や県立図書館の参加者から,複数の組織に分かれる機関で知識や情報を共有することの難しさ,施設管理など他の担当者と意識を合わせていく必要性が指摘された。貴重資料や専門的な事項については外部専門家への問合せを積極的に行っているという事例も紹介された。
京都大学の図書館の資料保存活動は,専任担当者がおらず,頻繁な人事異動があるという,どの図書館にもありがちな状況の中で着実に取り組んでいる事例で,他の機関でも応用できるようなポイントが多くあると思われる。
当日の配布資料は国立国会図書館の「資料の保存」のページで公開している。
収集書誌部資料保存課
Ref:
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/preservation/coop/forum25.html
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/preservation/pdf/forum25_text1.pdf
https://www2.kulib.kyoto-u.ac.jp/preservation/
http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/98050