E1697 – NII,“CiNii Dissertations”を試験公開

カレントアウェアネス-E

No.286 2015.08.06

 

 E1697

NII,“CiNii Dissertations”を試験公開

 

 2015年6月11日,国立情報学研究所(以下NII)は,日本国内の大学および独立行政法人大学評価・学位授与機構が博士の学位を授与した論文(以下博士論文)のメタデータを,CiNiiインターフェース(CA1691参照)において無料で検索することができる“CiNii Dissertations”を試験公開した。

 2013年4月の学位規則改正により,博士の学位を授与された者は博士論文のインターネットを利用して公表することが義務付けられた(E1418参照)。具体的な公表方法については,学位を授与した機関が運営する機関リポジトリ,もしくはそれに相当するサーバに登録することが原則とされ,今後機関リポジトリに博士論文本文が数多く登録されていくこととなる。また,博士論文の公表は,論文の質を保証するための相互参照を可能にすることを目的としており,大学における機関リポジトリの重要性が飛躍的に高まるとともに,機関リポジトリに登録された博士論文へのアクセシビリティを高めることが,学術情報流通の基盤整備の要として求められるようになってきたといえる。

 国内機関リポジトリの登録情報については,学術機関リポジトリデータベースを通じてNIIが収集している。このデータベース内の博士論文メタデータと国立国会図書館(NDL)が収集している博士論文のメタデータを統合することで,国内の博士論文に関する一元的かつ網羅的な検索環境の実現を目指した。また,ユーザインタフェースは検索画面の情報量を可能な限り削り,本文リンクの存在を明示的にした。2004年のCiNii Articles公開後10年の間に改良が積み重ねられ,CiNii Booksでも採用されているデザインを継承することで,初心者でも直観的に迷わず検索できるシステムを目指した。

 収録しているメタデータは,機関リポジトリに登録されている博士論文(約13万件)のほか,NDL-OPACに登録されている1923年9月以降の国内博士論文(約60万件),NDLが1991年度から2000年度までに受け入れ,電子化した「国立国会図書館デジタルコレクション」(約13万件)(以下デジタルコレクション)の3データベースである。3データベース内に同一の博士論文が存在する場合は統合処理を行い,1つの論文データとして表示している。検索は,この統合された論文のメタデータを対象としている。また,デジタルコレクションと機関リポジトリ収録の博士論文に関しては本文フルテキストへのリンクデータがあれば,当該論文の論文情報へのリンクボタンを表示しており,デジタルコレクション由来のデータについてはサムネイル画像も表示している。

 その他,今後の検討事項も含め,以下のような実装になっている。

(1)データ更新頻度

 現在のところ月1回としている。

(2)レスポンシブWebデザイン

 レスポンシブWebデザインの概念を取り入れ,CSSフレームワーク“Bootstrap”を用いてデザインした。これにより,PCのみならず,スマートフォンでも最適化された画面で検索することが可能となった。なお,CiNii Articles及びCiNii Booksでも対応予定である。

(3)API

 CiNii Articles,CiNii Booksでは,通常の検索利用に加え,構造化されたデータを機械処理が可能な形で利用できるようにAPIも提供している。CiNii Dissertationsでは,OpenSearch,OpenURL(CA1482参照),RDF,JSON-LDの4つに加え,さらにResourceSync(CA1845参照)を試行的に提供している。

 ResourceSyncは,メタデータ交換用プロトコルとして図書館界で広く用いられているOAI-PMHの後継規格として策定が進められているプロトコルであるが,ウェブの世界のデファクトスタンダードとして普及しているsitemapプロトコルをベースとしたよりシンプルな規格となると思われる点に今後の可能性を感じ,試行提供することとした。

 今後,本公開に向けこれらの仕様やドキュメント等を整備していく予定である。

 この他に,実装されているものの試験公開では提供していない機能として,全文検索機能がある。博士論文の本文データを収集し,OCR処理を施して全文検索できるようにするもので,関係機関と調整し,実現したいと考えている。

 CiNii Dissertationsは,サービスの検討着手が2014年6月,試験公開が2015年6月と,比較的短期間に設計・実装がなされた。まずはCiNii Dissertationsに触れてもらおうという意図で試験公開としたが,統合処理の条件見直し等のデータクレンジングを実施し,10月に本公開する予定である。本公開後も,ユーザからの要望や利用動向を踏まえたサービス改善を考えている。また,今後は博士論文以外の機関リポジトリ登録情報へのアクセシビリティの向上も検討していきたい。

 最後に,データ提供でご尽力くださったNDLの関係各位並びに機関リポジトリに博士論文コンテンツを登録してくださっている各位に御礼申し上げたい。

国立情報学研究所・上村順一,古橋英枝

Ref:
http://ci.nii.ac.jp/d/
https://support.nii.ac.jp/ja/news/cinii/20150611
http://getbootstrap.com/
E1418
CA1691
CA1482
CA1845