E1684 – 図書館における青少年へのメディア指導:ALSC白書から

カレントアウェアネス-E

No.283 2015.06.25

 

 E1684

図書館における青少年へのメディア指導:ALSC白書から

 

 米国図書館協会(ALA)の児童サービス部会(Association for Library Service to Children:ALSC)が2015年5月8日に発表した白書“Media Mentorship in Libraries Serving Youth”(以下白書)では,図書館における青少年及びその家族のためのメディア指導に関してまとめられている。白書は,(1)先行する調査,文献等の総括,(2)図書館員が青少年をはじめとした,地域社会の人々のメディアリテラシーを養う「メディア指導者」(media mentor)として果たすべき責務及び図書館等がメディア指導者養成のために採るべき方策についてのALSCの立場,という2点で構成されている。また,ALSCのウェブサイト上では,2014年8月に,ALSCなどが実施した,(1)図書館と児童の関係や,図書館でのタブレット等のメディア利用に関する調査の結果,(2)北米の図書館におけるメディア指導の実践例などが掲載されている。本稿では,これらに触れつつ,白書の内容について紹介する。なお,「デジタルメディア」とは,アプリケーションや電子書籍のほか,放送メディア,ストリーミングメディア,ソフトウェアプログラムも含むものである。

 2014年8月の調査は,米国の公共図書館を対象としたもので,青少年向けのサービスにおける各図書館のメディア使用方法に焦点が当てられ,415の図書館ないし図書館組織が参加した。白書でもこの調査結果について言及されているが,図書館が使用する機器については,「タブレット」という回答が全体の40%と最も多く,また,機器の活用方法については,71%が児童向けのプログラム(読み聞かせの時間など)に機器を用いているとの結果であった。また,58%が青少年向けのサービスやプログラムでのメディア利用を拡充する計画があるという。

 従来,図書館は児童や家族のリテラシー向上に関し,その需要に応じたプログラムやサービスを提供してきた。白書では,デジタルメディアリテラシーを向上させる取組みを図書館がサービスの一環として行うべきであることが主張されている。具体的には,図書館がメディア活用のモデルを提示するべきであること,一方で,児童によるメディア利用に際して,図書館員が一定程度介入する必要があることが指摘されている。また,児童のメディア利用については誰と一緒に,どのように使用するか,という点も重要な要素であることが言及されている。

 これに関し,ALSCのウェブサイトには,北米の図書館の実践例が掲載されていて,

  • 読み聞かせの時間に,デジタル音楽・画像などを活用する,あるいは児童の読み書きや歌などにタブレットを用いる例
  • 図書館員が選んだ,児童の発達に適切なアプリケーションの使用方法について,児童と保護者を対象に説明・実演するプログラム(“Appy Time”や“Appvisory”などといった名称)
  • 保護者が児童と一緒にデジタルメディアを利用する際の注意事項について,(1)パンフレットを作成する例,(2)利用者対応や図書館のプログラムの際に紹介できるよう,図書館員を教育する例
  • 図書館員が厳選したアプリケーションを用いて,低学年の小学生を対象とし,「宇宙」,「恐竜」など,テーマに沿った学習や発見を促すプログラムや,小学生以上を対象とし,プログラミングの学習など,コンテンツ作成に関するスキルを養うプログラム
  • 館内備え付けの端末を使用したデジタルストーリーテリング
  • 図書館員が,読み書きをはじめたばかりの児童と保護者,宿題をする児童など利用者のタイプに応じて精選したコンテンツを収録したタブレット等を貸し出す例
  • パンフレットや,図書館のウェブサイトあるいはPinterestの活用を通じた,アプリケーションやツールリストの提供
  • 図書館がティーンエイジャーのためのデジタルメディア等に関する研修プログラムを実施し,児童を対象としたプログラムを実施する際にアシスタントを務めてもらう取組み

などが紹介されている。

 最後に,白書では,ALSCの立場として(1)図書館において,青少年等へのサービスの担当者は地域社会におけるメディア指導者としての責務を果たすべきであり,(2)メディア指導者は,児童やその家族のメディア利用及びその意思決定を支援するべきであり,(3)図書館司書養成課程は,将来メディア指導者としてサービスを提供するための研修とリソースを実施する必要があり,(4)メディア指導者として従事するための研修プログラムの実施や,図書館内部でのサポートが行われるべきである,との提言がなされている。特に,4点目について,職業能力開発の充実は,図書館全体の責務であり,個人の能力向上の取組みも奨励されるべきである,としている。

 白書では,図書館での青少年へのメディア指導に関し,積極的に取組むべきであることが言及されている。日本でも,一般家庭にスマートフォンやタブレットが普及しつつある。デジタルメディアをはじめとしたメディアの指導についての取組みが,国内の図書館でも広がることを期待したい。

関西館図書館協力課・葛馬侑

Ref:
http://www.ala.org/news/press-releases/2015/05/alsc-releases-white-paper-media-mentorship-libraries-serving-youth
http://www.ala.org/alsc/sites/ala.org.alsc/files/content/2015%20ALSC%20White%20Paper_FINAL.pdf
http://www.ala.org/alsc/sites/ala.org.alsc/files/content/Media%20Mentorship%20in%20Libraries%20Serving%20Youth_FINAL_no%20graphics.pdf
http://www.ala.org/alsc/sites/ala.org.alsc/files/content/YCNML%20Infographic_0.pdf
http://www.ala.org/alsc/mediamentorship