E1656 – 長崎市立図書館「がん情報サービス」PV作成に込めた想い

カレントアウェアネス-E

No.277 2015.03.05

 

 E1656

長崎市立図書館「がん情報サービス」PV作成に込めた想い

 

 長崎市立図書館(長崎県)では,「がん情報サービス」を紹介するプロモーションビデオ(PV)を作成し,2014年10月から広報に活用してきた。“「らしく」いてほしい”という想いが,今回のPVを作る上でのコンセプトである。これまで「がん情報サービス」に携わり,様々な経験をする中で市民ひとりひとりが「自分らしく生きる」ことの大切さを感じたからだ。

 そもそも,PV作成のきっかけには,当館で行っている「がん情報サービス」の存在が市民になかなか浸透しないという状況があった。図書館に訪れる市民でもサービスの存在を「知らなかった」という声が多く,「図書館でがん情報を提供しているとは思いつかない」と言われることもあった。そこで,市民にサービスを広め活用につなげるため,PRの一環としてPVを作成した。

 当館の「がん情報サービス」は2011年6月に誕生した。長崎県のがんによる死亡率は全国ワースト10位に入るという高さにも関わらず,がん検診率は10~20%と低い(2011年時点)。これを地域の課題であると捉え,がんに関する情報を求める市民のために「がん情報コーナー」を設けたのがこのサービスの始まりだ。サービスの提供により,健康について自ら考え行動し,情報を収集できる市民を育成することを目標としている。「がん情報サービス」の主な取り組みは,「がん情報コーナー」の設置,レファレンスサービス,「図書館でがんを学ぼう」講座の実施であり,また,初めての試みとして今年度から「図書館deサロン」を行っている。現在,行政や病院など地域の各関係機関と連携をしてサービスを提供している。

 著者は日々レファレンス業務を担当しており,実感として,「がん情報サービス」を始めてから,急にがんについてのレファレンスサービスの件数が増えたわけではない。多くの市民は,ある程度自分自身で「がん情報コーナー」で情報を探しているようだった。それでもレファレンスサービスを利用する市民は一定数存在する。がん患者や家族等,その立場は様々で,置かれた状況もそれぞれ違う。ある日「自分が投与される抗がん剤について知りたい」と神妙な面持ちの男性が来館した。いくつかの参考資料を見せてある程度調べ方を教えると,男性は,黙々と資料を見比べた。病院で説明を受けた時は何となく尋ねにくく,自分で調べる事は出来ないのかと考えていたそうだ。「これで一つ治療に臨む準備ができた」と帰られた時の表情には,最初にカウンターに来た時よりも柔らかさが見えた気がした。“知ること”が人を笑顔にした瞬間だった。

 初の試みである「図書館deサロン」は,患者や家族が交流する“がんサロン”に,図書館ならではの要素を加えたものだ。「がん情報コーナー」やレファレンスサービス,講座は,利用者が正しい情報を得るための支援である一方,「図書館deサロン」はより良く生きるヒントを見つけるための支援である。初対面の人同士が打ち解けられるような簡単なレクリエーションや,様々なジャンルの本を準備して当日を迎えたが,どのような内容になるか予想がつかなかった。第一回目の日,がん患者,がん患者の家族,健康な市民を含む5名の参加者が集まって,お互いのことを話したり,気になる本を一緒に見たりと和やかに交流をした。参加者の女性はアンケートに「がんの話をするかと思っていたら思いがけず楽しく,他の人の趣味などを知って自分も生活を充実させようと思った。」と感想を述べていた。「図書館deサロン」では,人や本を通して,楽しさや安らぎ,新しい価値観に触れることが出来る。実施して初めて,科学的根拠に基づいた正しい情報を与える事だけが,「がん情報サービス」ではないということに気付き,誰もが誰かの支えになり得ることを知った。

 これらの経験を通して気づいたのは,病気になっても「自分らしく生きる」ことがひとりひとりの人生を充実させるために大切だということ,そして「がん情報サービス」の取り組みが,そのための支援であるということだ。PVでは,初めて「がん情報サービス」を知る人にも身近に感じてもらえるように,館内や実際の講座の写真とともに,図書館ができることを紹介している。当館スタッフが作詞した,オリジナルソング「明日の風」は「支えること」「支えられること」の大切さをテーマに,歌詞に想いを込めた。がんになった時,本人も家族もきっと大きな不安と向きあわなければならないだろう。その気持ちはそれぞれにしか分からないし,乗り越え方も様々だと思う。でももし,気になることや不安に思うことがあったら,支えになれる図書館でありたい。そして,図書館を中心とした支援の輪が広がり,地域全体で「らしく生きる」ための支援ができればと考える。

長崎市立図書館・森ふゆ子

Ref:
http://www.pref.nagasaki.jp/bunrui/hukushi-hoken/iryo/keikaku-iryo/gan-keikaku/106745.html
http://www.trc.co.jp/information/150108_nagasaki.html
https://www.youtube.com/watch?v=Wqvui5NaYVM
https://www.youtube.com/watch?v=BH6g_HBSfCQ