カレントアウェアネス-E
No.272 2014.12.12
E1634
オンライン資料の納本制度の現在(1)フランス
ウェブサイトや電子書籍など,オンライン上の情報をどのように収集し,次世代に残していくのかは大きな課題である。『カレントアウェアネス-E』では,オンライン上の情報資源に関する納本制度や関連する取組みなどの現在の動向について,国別に紹介していきたい。
●概要
フランスの法定納本制度は伝統的に国立図書館が担ってきたが,収集する資料の多様化(例えば1977年には映画フィルム,1992年にはラジオ・テレビ放送,1993年にはCD-ROM等の媒体に情報を固定した資料であるパッケージ系電子出版物が納本対象に加わっている)に伴い,現在は,図書をはじめとする刊行資料はフランス国立図書館(BnF),放送は国立視聴覚研究所(INA),映画フィルムは国立映画センター(CNC)という形で,分担して行われている。納本対象として最も新しく加わったインターネット上の情報資源については,BnF及びINAが納本図書館として機能している。
フランスにおけるインターネット資料の実験的な収集は,すでに1999年の段階でBnFが開始しているが(CA1490参照),その制度的収集は,2006年8月1日施行の「情報社会における著作権及び著作隣接権に関する法律」(通称DADVSI)によって初めて定められ(CA1614参照),2011年12月19日施行の納本制度に関する政令(décret)によって詳細な規定が盛り込まれることとなった。なお,正確に言えば,フランスで納本制度を定めているのは文化遺産法典(Code du patrimoine)の第3章であり,DADVSI及び2011年政令は,インターネット資料の収集に係る内容を盛り込む形で,文化遺産法典の改正内容を定めたものである。
なお,この制度的収集においてINAが担当するのは,オンデマンドによりインターネットで配信されるラジオ・テレビ番組及びその配信サイト等に限られるため,紙幅の関係から,以下ではBnFにおけるインターネット資料の収集について述べることとする。
●収集対象
BnFが収集の対象とするインターネット資料は,文化遺産法典のR132-23条に規定されており,大きく次の2種類に分けられる。
(1)フランス及びフランスの海外県・海外領土のドメイン(「.fr」「.re」「.nc」等)を持つウェブサイト
(2)その他のドメイン(「.com」「.org」「.net」等)のウェブサイトのうち,フランス国内に拠点を持つ自然人及び法人が作成したもの,又はフランス国内で作成されたもの
つまり,商用のウェブサイトにせよ,個人のブログにせよ,また有償・無償を問わず,広く「フランスのウェブサイト」全てが収集対象となっていると言うことができる。なお,この収集対象にはオンラインで配信される電子書籍も含まれるが,コンテンツを配信するサイトの単位で収集を行い,閲覧デバイス自体の収集は行わない。また,ある電子書籍と同じ内容のものが紙媒体やパッケージ系電子出版物として出版されていたとしても,それぞれ別物として扱われ,電子書籍が収集対象から外されることはない。
一方,収集対象とならないものは,電子メール,SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サイト)のプライベートスペース及びイントラネットとされている。
●収集方法
BnFのインターネット資料収集は,年に1度機械的に行われる「大規模収集」と,何らかのテーマやプロジェクトに基づき選択的に行われる「選択的収集」に分けられる。いずれも自動収集であるため,伝統的な納本と異なり,コンテンツの発信者側が行う作業は基本的に発生しない。ただし,技術的な問題がある場合等は,BnFと発信者の間でやり取りが発生することもある。収集されたインターネット資料は,BnFの研究者向け閲覧室の端末で2008年から閲覧に供されている。
●数字で見る現況
2013年のウェブサイトの収集実績は,大規模収集が400万サイト,17億URLで計56テラバイト,選択的収集が7億URLで計42テラバイトであった(いずれも圧縮後の数字。また,後者のデータ量が比較的大きいのは動画等を多く含むためである)。2013年末現在で,累積のインターネット資料の総量は212億ファイルに上る。
●最近の動向
2012年10月,欧州出版社連盟(FEP)及び欧州国立図書館長会議(CENL)は「非印刷資料の法定納本及び自発的納本システムの実施に関する宣言」を採択した。この宣言は,電子出版物,インターネット資料等の納本制度のあり方の標準的な枠組みを提案するものであるが,これとほぼ時を同じくして,フランスでは同年9月にBnF,フランス出版協会及び文化通信省の3者が協同ワーキンググループ(以下,WG)を設けることが決定された。WGは,インターネット経由でのデジタル資料の自動収集,出版者によるデジタル納本の仕組み,紙資料と同等の内容を持つデジタルファイルの納本のあり方といった事項について検討を続けており,その一つの成果として,現在,電子書籍の納本システムの構築が進んでいる。一般に電子書籍は配信サイトの深層にある等の理由で,自動収集がうまく機能しないことが多いため,むしろ配信業者が主体となって納本を行うことができる仕組みを整備すべきという観点から,BnFによる電子書籍のオンライン納本システムの開発作業が行われており,2014年末又は2015年はじめにリリースされる予定である。今後の展開が注視される。
利用者サービス部音楽映像資料課・大沼太兵衛
Ref:
http://www.bnf.fr/fr/professionnels/depot_legal/a.dl_sites_web_mod.html
http://www.internationalpublishers.org/images/stories/news/DLD.pdf
http://webapp.bnf.fr/rapport/pdf/rapport_2013.pdf
http://www.legifrance.gouv.fr/affichCode.do?cidTexte=LEGITEXT000006074236
http://www.legifrance.gouv.fr/affichTexte.do?cidTexte=JORFTEXT000000266350
http://www.legifrance.gouv.fr/affichTexte.do?cidTexte=JORFTEXT000025002022
http://www.institut-national-audiovisuel.fr/actualites/webzine/depotlegalweb.html
http://www.bnf.fr/documents/dl_declaration_cenl_fep_vf.pdf
http://www.implications-philosophiques.org/actualite/une/une-simple-adaptation-lheritage-du-depot-legal-face-a-la-mutation-numerique/
http://library.ifla.org/id/eprint/830
http://library.ifla.org/830/1/087-derrot-en.pdf
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_1011163_po_TKS_NO34_7.pdf?contentNo=1&alternativeNo=
CA1490
CA1614