E1520 – 「単発」図書館利用者講習の有効性<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.251 2013.12.26

 

 E1520

「単発」図書館利用者講習の有効性<文献紹介>

 

Elizabeth R. Spievak; Pamela Hayes-Bohanan. Just Enough of a Good Thing: Indications of Long-Term Efficacy in One-Shot Library Instruction. The Journal of Academic Librarianship. 2013, 39, p. 488-499.

 大学生の情報リテラシーや図書館利活用スキルの獲得,向上には継続的に講習やワークショップを受講できる環境が提供されていることが理想的である。しかし北米の大学図書館では時間や予算,人員の都合で,図書館員が授業に招かれておこなう出張講座のような形式の「単発」の利用者講習を提供しているだけのことも多い。では,このような「単発」講習はどれほど効果的なのだろうか。“The Journal of Academic Librarianship”誌第39号に掲載されているスピーバック(Elizabeth R. Spievak)氏とヘイズ=ボハナン(Pamela Hayes-Bohanan)氏の論文は,その問いに答えようとするものである。

 米国マサチューセッツ州ブリッジウォーター州立大学の心理学部の教員スピーバック氏と同校図書館のヘイズ=ボハナン氏は実験心理学の手法を導入した図書館・情報利用の調査をおこなった。対象としたのは同校の心理学系授業の受講生から募った学部生119名で,大学入学後1年未満の学生が多く,年齢は18歳から46歳で平均は19.5歳だった。対象者の内訳は女性93人,男性26人であり,全体の83%が白人系だった。

 筆者らは「遺伝子組み換え食品」でグーグル検索した結果の画面(1ページ目のみ)の印刷,検索結果中から選んだUSAトゥデイ(一般紙)の記事,ブログ記事,政府系サイト内のページ,学術記事,ウィキペディア記事等6点を印刷したもの,質問票等からなる調査セットを用意した。対象者はこのセットを使用して各ウェブページで提供されている情報をどのように評価するかについての質問に答えたが,その際,ウェブサイトに対する反応や態度に関する調査であるとの説明を受け,情報や図書館利用に関する調査であることは終了後まで知らされなかった。また回答にあたっては,学部1年次授業のレポート課題,上級生向けのリサーチ課題,個人利用のためという3つの架空の状況のうち,指定された1つを想定するよう求められた。その後,課題レポート執筆時等に必要な情報の第一入手先(図書館員,同級生,友人,担当教員,家族からひとつを選択),大学図書館の利用経験(レファレンス質問をした,本を借りた,図書館内のカフェで飲食した等から複数回答),大学の授業内で図書館員による図書館資源に関する講習を受けた経験の有無等の図書館利用関連の質問にも回答した。

 論文中で筆者らも述べているが,先行する研究の中には単発の図書館利用講習の有効性を疑問視するものも多い。しかし筆者らが主張するように,今回の調査は情報選択・図書館利用に関する知識を「明示的」ではなく「潜在的」なものと扱った点に新規性がある。つまり講習の有効性を,受講者が習った方法や用語を記憶しているか,他人に説明できるかで計測するのではなく,実際の反応や行動に差が表れるかで測ろうとしたところが意義深い。筆者らは今回の調査結果は単発の講習にも十分な効果があることを示しているという。図書館員の出張講座を一度でも受けたことのある学生(119人中71人)はウェブ検索の結果として提示された情報の信頼性をより豊富な基準を用いて分析しており,ウィキペディアの信頼性を低く評価する等適切と思われる取捨選択をしていた。また図書館利用に関しても,講習を受けたことがない学生に比べてレファレンスの利用,本の貸出,データベースの利用率が有意に高かった。逆に図書館内カフェでの飲食や授業での図書館内教室の使用といった「図書館の建物の利用」は図書の貸出やレファレンス利用といった図書館サービスの活用には繋がっていないことも明らかになった。

 日本でも学生の主体的な学びを推奨する動きがあり,それに伴って授業と図書館の連携や,ラーニング・コモンズのような「学びの場」を提供する動きも盛んになっている。本論文の報告は授業と図書館,教員と図書館員のより積極的な連携の有効性を示唆したものであるが,同時に,アクセスしやすい場所を作るだけでは大学図書館のコアサービスの利用増に結びつかないという可能性も示しているように思う。もちろん,今回の調査は対象者が実際のPC操作をしない実験的環境でおこなわれたものであり,対象者の多様性や背景に関する分析も限定的である。また調査票の内容もラーニング・コモンズ的な図書館を念頭に置いたものではない。大学図書館の構成要素や授業と図書館の関係が変化しつつあるいま,個々の取り組みを評価する本研究のような研究・調査が多くの図書館でおこなわれ,共有されることが待たれる。

ワシントン大学セントルイス東アジア図書館・小牧龍太

Ref:
http://dx.doi.org/10.1016/j.acalib.2013.08.013