カレントアウェアネス-E
No.249 2013.11.07
E1497
第61回日本図書館情報学会研究大会シンポジウム開催報告
2013年10月13日,東京大学本郷キャンパス赤門総合研究棟において,第61回日本図書館情報学会研究大会シンポジウム「これからの図書館情報学教育を考える」が開催された。3名のパネリスト,2名のコメンテーターを迎え,コーディネーターは著者が務めた。約120名の参加があった。
日本図書館情報学会では,「これからの図書館情報学研究と教育」というテーマで2003年10月に創立50周年記念事業シンポジウムを開催した。本シンポジウムは,ちょうど10年後の60周年記念である今年,改めて,図書館情報学教育について検討しようとするものである。
この10年間,学会員を中心とし,情報専門職養成に向けて様々な研究が行われた。2003年度から3年間に亘って「情報専門職の養成に向けた図書館情報学教育体制の再構築に関する総合的研究(LIPER)」が実施されたのをはじめとして,LIPER2,LIPER3と継続的に研究が行われている。しかしながら,いまだに図書館への就職は難しく,また,情報専門職が職として確立しているとは言い難い状況であり,図書館情報学教育の体制が再構築されたとは言えない。本シンポジウムでは,図書館情報専門職に関わる問題,教育体制の課題を共有し,学会として今後の活動の方向性について議論することを目的とした。
シンポジウムでは,まず,司書資格を中心とした図書館関連資格に関する歴史的経緯,日本における他の専門職制度の成立の状況,海外の図書館情報学教育という3つの観点から,大谷康晴氏(日本女子大学)による「日本の図書館関連資格に関する歴史的経緯と文部科学省の動向」,青柳英治氏(明治大学)による「司書資格との比較を通して見た管理栄養士制度成立の特徴」,三輪眞木子氏(放送大学)による「海外の図書館情報学教育の動向」と題した講演が行われた。大谷氏の講演では,LIPER報告でも指摘されていた,図書館情報学教育が館種別の教育に分散しつつあること,ヘルスサイエンス情報専門員,日本図書館協会の認定司書など,情報専門職に関連する民間資格,名称付与が増えてきており,1970年代から続いていた司書資格中心の教育体制の枠組みが,2000年代以降,崩壊しつつあることが指摘された。青柳氏の講演では,管理栄養士は,職能団体や養成施設間での調整,議論を通して,戦略的に「管理栄養士」という職を確立したのに対し,司書資格の成立に関してはそのような構造が見られないという指摘があった。また,三輪氏の講演では,北米,欧州,アジアの教育制度,カリキュラムの特徴などの紹介があり,これらの地域においては専門資格が館種別に設定されていないこと,教育の国際化に関して日本の図書館情報専門職教育システムの国際的な透明化や図書館情報領域を包括する資格制度の構築などの必要性が指摘された。
後半のディスカッションでは,講演した3名のパネリストに加え,コメンテーターとして下田尊久氏(藤女子大学),酒井由紀子氏(慶應義塾大学)が登壇した。図書館情報学教育が館種別への教育に分散しつつある現状に対して,下田氏からは,いわゆる司書養成課程における図書館情報学教育は司書養成だけでなく,積極的な意味で学部,専門教育を下支えする教育となり得るという発言があった。酒井氏からは,NPO法人日本医学図書館協会で策定中のヘルスサイエンス分野の情報専門職に必要な知識とスキル,モデル活動の提示を含めた「専門職能力開発プログラム」について紹介があった。関連して,同プログラムの認定資格の基礎と位置づけるにふさわしい図書館情報学のコア領域の教育の重要性が指摘された。フロアからは,他の図書館関連資格が検討されていること,職域を広げることの重要性,供給側だけでなく需要側のニーズの把握に関する発言などがあった。
本シンポジウムでは,講演,ディスカッションを通して,様々な観点から図書館情報学教育に関する問題,課題が示されたが,その中でも,LIPERでも示された司書の養成だけではなく情報専門職養成を想定したコア領域の教育プログラムの重要性,また,司書資格だけを対象にするのではなく世間のニーズに対応して職域を広げていくことの重要性などの課題については共有できたと考えられる。今後は,これらの課題を図書館情報学教育において,どのように反映させていくかが問題であり,引き続き,議論を続けていくことが必要である。
(九州大学附属図書館研究開発室准教授/
統合新領域学府 ライブラリーサイエンス専攻・石田栄美)
Ref:
http://hdl.handle.net/10097/35926
http://hdl.handle.net/2261/53511
http://www.jslis.jp/events/20130316Symp.html
http://www.jla.or.jp/portals/0/html/kyoiku/2007_1_nemoto.pdf