E1331 – 図書館情報学分野の雑誌の格付けは?<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.221 2012.08.23

 

 E1331

図書館情報学分野の雑誌の格付けは?<文献紹介>

 

Judith M. Nixon, Core Journals in Library and Information Science: Developing a Methodology for Ranking LIS Journals. College & Research Libraries. (2012年7月16日受領,プレプリント)

 米国の大学図書館では,司書が,他の教育担当の大学教員と同じく,大学教員の地位を有する制度となっているところがある。このような教員の地位を有する司書(faculty librarian)は,例えば6年間ほどの試用期間中に業績を上げることにより,教育職としての昇進やテニュア(終身雇用権)の獲得を目指す。この過程において,学術雑誌への論文掲載の実績は,広く採用されている評価指標の1つである。

 米国のパデュー大学図書館のJudith M. Nixon氏によれば,このような制度において,雑誌の“格付け”を示すリストが存在すれば,司書がどの雑誌に原稿を投稿するのかを決める際,あるいは,昇進等の判断を行う者が業績を判断する際に役立つという。そこでNixon氏は,格付けリストの作成とその作成方法の確立に関する研究に取り組んだ。その成果が2012年7月,College & Research Libraries誌のウェブサイトにプレプリントとして公開された。

 同論文によると,図書館情報学分野の雑誌は,査読付きのものだけでも250誌を下らない。雑誌により購読者数や影響力にも差があり,評価もまちまちである。一方で,米国図書館協会(ALA)は,雑誌の格付けに取り組んでおらず,司書や評価者は,過去の研究文献に示されたリストを参考にしているという。この状況を踏まえNixon氏はまず,過去の研究文献をレビューし,基準の選定に取り組んでいる。

 過去この問題に取り組んだ研究文献は8件あるという。そのうち3件は専門家の意見を研究したものであり,5件は引用分析研究である。前者のうち最初に行われたものは,1980年代にDavid Kohal氏とCharles H. Davis氏によるものである。両氏は,図書館情報学大学院等の学部長と研究図書館の館長の意見を集約し分析した。この研究はその後,同じ方法で2度行われ,最新のものは2005年に行われたThomas E.NisongerとCharles H. Davis両氏によるものとなっている。後者の引用分析研究は,前者が専門家の意見に基づく主観的なものであり,実際の雑誌の重要性に合致したものかどうかの疑問もあることを踏まえ,客観的な数値による分析を志向して行われたものである。

 これらの研究成果を踏まえ,Nixon氏は,1つの基本基準と7つの可変的な基準を採用することとした。基本基準は,(1)査読付き論文もしくは招待論文を掲載する雑誌であること,である。また可変基準は,(2)学部長意見,(3)館長意見,(4)採択率50%以下であること,(5)発行部数が5,000部以上であること,(6)パデュー大学の教員が過去10年に2度以上論文を掲載していること,(7)インパクトファクターを有するもの(CA1559参照),(8)Google Scholarのデータにより算出されたh指数が7以上のもの(E889参照),の7つである。

 その上で,ProQuest社の逐次刊行物データベースUlrichsWebから図書館情報学分野の雑誌の情報を取得し,可変基準に適合しているかどうかを確認していった。その結果,College & Research Libraries誌やReference & User Service Quarterly誌など18誌が,6つないし7つの可変基準に適合した。これらは,第1階級とされた。またLibrary Hi Tech誌やReference Services Review誌など37誌が,2つから4つの可変基準に適合した。これらは第2階級とされた。これら第1階級,第2階級の雑誌は,すべて基本基準である査読付きという条件を満たすものである。基本基準はみなさないものの2つ以上の可変基準に合致するものは,第3階級と位置付けられた。ここにはAmerican Libraries誌や, D-Lib Magazine誌など8誌が含まれている(論文中リストアップされているのは7誌)。

 Nixon氏が論文の中で述べているように,格付けリストは,毎年変化するインパクトファクターなどを含んでいる点において適宜更新する必要のあるものであり,また,パデュー大学の司書の投稿数に関する指標などを含んでいる点において他の大学図書館がそのまま採用できるものではないものと考えられる。しかし,多数存在する雑誌の中から優先的な投稿先として一定数の雑誌が抽出されたこと,また併せてその抽出方法の案が示されたことは,米国の他の大学図書館にとっても参考にし得るものであると思われる。

(関西館図書館協力課・依田紀久)

Ref:
http://crl.acrl.org/content/early/2012/07/23/crl12-387.short
http://ulrichsweb.serialssolutions.com/
CA1559
E889