E1171 – 研究と研究者に対して図書館の持つ価値とは(英国)

カレントアウェアネス-E

No.192 2011.04.28

 

 E1171

研究と研究者に対して図書館の持つ価値とは(英国)

 

 2011年3月23日,英国の研究情報ネットワーク(RIN)と英国研究図書館コンソーシアム(RLUK)は共同で“Value of Libraries for Research and Researchers”と題するレポートを公表した。レポートの目的は,英国の大学等による研究を支援するために図書館が備えている重要な特徴を明らかにすることにある。レポートでは,研究者に対して図書館が提供するサービスと,図書館が属する機関の行っている研究に対して図書館が果たす貢献の,それぞれの価値について体系的に分析されており,その結果として以下の10項目が挙げられている。

  • 研究者が勤務先の研究機関を選ぶには多くの判断材料があり,図書館もその一つに数えられる。優秀な研究者に勤務先として選んでもらうためには,図書館も質の高いサービスを提供することが求められている。
  • 研究者が研究助成を獲得したり研究契約を結んだりするための支援は,図書館にも可能であり,それによって研究機関の研究費を増やすことにつながる。
  • 多くの図書館では,研究者との緊密な関係を構築し,学術コミュニケーションに関する新たな技術とモデルの利用促進を行うことで,研究者がソーシャルメディア等の新しい技術を最大限活用できるようにしている。
  • リポジトリは研究機関の可視性を高め,機関の行っている研究の評判を高めるものである。リポジトリを運営する図書館は,リポジトリに登録するということを研究者に促し,研究機関全体で効率的に登録を行う体制を築く役割を担うようになってきている。
  • 図書館は所属する研究機関の研究環境を改善する支援を行うようになってきている。このような,図書館がこれまで担ってきた役割の範囲の外のことにも関わろうとすることは,所属機関の全体の研究活動の改善に貢献することにつながる。
  • 図書館の主題スペシャリストが研究者との連携を強化すれば,主題スペシャリストはコンサルタントとしての任務を果たすことにつながる。
  • デジタル技術の導入により図書館員がサービスの前面から退き,研究者から疎遠になってきているが,それに危機感を抱いた図書館が改めて研究者との連携強化を模索している。その結果として,図書館サービスや研究者の満足度等の向上につながることになる。
  • 自分の研究室をもたない研究者や図書館の紙資料が必要な研究者にとって,図書館は研究場所である。そのような研究者のための研究スペースの提供を行っている図書館がある。
  • 研究機関の予算削減や電子ジャーナル購読費用の高騰等により,これまでと同じように,図書館がコンテンツや資料を購入し続けることが困難になってきている。このような状況の中で資料購入問題に戦略的に取り組むことは,図書館が研究者のニーズにより効率的に応えることにつながる。
  • 図書館とは,大学が広め保持してきた学問のエートスを物理的に表現したものであると現在の研究者は認めているが,デジタルネイティブである将来の研究者にとっては必ずしもそうではない。図書館が研究に貢献するものであるものとしてその意義を示すためには,図書館の価値は学界や学問の価値の基礎であり表象として存在すると主張することが重要である。

Ref:
http://www.rin.ac.uk/our-work/using-and-accessing-information-resources/value-libraries-research-and-researchers
http://www.rluk.ac.uk/content/value-libraries-research-and-researchers
http://www.rin.ac.uk/system/files/attachments/value_of_libraries_for_screen_1.pdf
http://www.rin.ac.uk/system/files/attachments/Value_of_Libraries_-_Annexes.pdf