CA995 – 米国法律図書館員の処遇 / 三浦良文

カレントアウェアネス
No.187 1995.03.20


CA995

米国法律図書館員の処遇

図書館員の処遇は,古くて新しい問題である。米国の法律図書館員の処遇等に関しては,1970年代から専門図書館協会(SLA),研究図書館協会(ARL),米国弁護士会(ABA)等による様々な調査が実施され,多くの報告がなされた。そしてわずかずつではあるが,改善に向けて努力されつつあるのが現状である。

しかし一方では,米国法律図書館協会(AALL)のヘイゼルトン(Penny Hazelton)会長が,「1990年に行った調査によると,法律図書館員の初任給はABA会員のものより,約3,000ドル低い」と同協会の会報で述べたように,その処遇に関してはいまだに多くの問題点が存在しているのも事実である。一方,今日の法律図書館員の状況については,断片的な調査は多々存在するが,平均年収,性別の処遇,業務内容等についての包括的な調査はなされていなかった。そこで,クリーブランド大学法律図書館のマルムキストは,その状況を少しでも明らかにするために,1991年に全米の法律図書館に対してアンケート調査を行った(回答数は184館中111館で,回答率60.3%)。調査事項は次の5項目である。1)全国,地域別,さらには図書館の規模による法律図書館員の平均年収,2)性別による平均年収,身分保証等の格差はあるか,3)どのような学位をどれくらいの人が取得しているか,4)大学図書館の組織において,法律図書館員はどのような地位にあるのか,5)現在の地位につくまで何年かかり,何年位とどまっているのか。

まず,法律図書館員の給料に関しては,全体の平均年収は約40,700ドルとなっているが,管理職を除いた額は僅か35,200ドルにすぎない。過去20年間で比較してみても平均年収は増加しているが,管理職の方が増加の幅が大きくなっている。地域別にみると北東部の州が最も高く,中西部は低い。規模別では,蔵書が40万冊以上の図書館での年収は高く,逆に20万冊以下の所では平均を下回っている。

女性法律図書館員の給料は以前に比べると急速に伸びていることが分かった。またそれに伴って,女性管理職の数も大幅に増えている。実際,この調査に回答を寄せた管理職の半数以上が女性であった。男性の方が女性に比べて短い年限で管理職になる(15年以内に管理職になった割合−男性56.0%,女性40.0%)など,格差は多少なりとも存在するが,20年前と比較すると劇的に減少しているといえよう。

法律図書館員の取得している学位は,その数,種類ともに,男女とも年々増え続けている。殆どの法律図書館員(95.9%)は修士号を持ち,83.8%が図書館学,42.4%が法律学で修士以上の学位を取得している。また,その半数以上は,両方の学位か,それ以上の数の学位を取得している。男女の内訳は,男性の場合は女性より法律学の学位を持っているものが多く,女性では図書館学が多くなっている。

身分保障に関しては,半数以上の法律図書館員(58.4%)は終身在職権を持たない。何らかの終身在職権を持っているのは約3分の1であり,16.2%が教員職,16.5%が司書職での在職権となっている。終身在職権を持たないことは,多くの法律図書館員がその将来について不安を感じている理由の一つとなっている。

また,法律図書館員の多くは頻繁に異動する。調査対象の半数近く(48.7%)が,現在の地位について2〜3年である。かつて図書館員はなかなか異動しないものであり,またそれはごく自然なこととして受け止められていた。しかし今では,長くいるのは管理職であり,平均的な経験年数は全体でも7〜11年となっている。

以上のような調査結果から,この20年で確かに法律図書館員の平均年収も上昇し,女性の管理職への進出も大幅に増加しているといえよう。しかし,管理職を除いた年収はいまだに低い水準にあり,女性管理職も男性に比べて,より長い年月を経てようやく辿り着くといった有様なのである。またこの間,法律図書館員の取得学位も増えてはいるが,それが給料や身分保障に跳ね返ってきていない。

多くの法律図書館員が不安定な立場にあるといえる。今後の法律図書館員に対する処遇面等での改善は,法律図書館の将来を左右する課題になるであろう。

三浦良文(みうらよしふみ)

Ref: Malmquist, Katherine E. Academic law librarians today: survey of salary and position information. Law Libr J 85 (1) 135-183, 1993
Hoeppner, C. J. Trends in compensation of academic law librarians, 1971-91. Law Libr J 85 (1) 185-203, 1993