CA774 – 電話帳に著作権はない / 清水隆雄

カレントアウェアネス
No.147 1991.11.20


CA774

電話帳に著作権はない

1991年3月27日,アメリカ合衆国連邦最高裁判所は,全員一致で,電話帳のホワイトページ(注,日本の個人別電話帳に相当する)におけるアルファベット順の名前と住所のリストは,連邦著作権法の保護の対象とならない, という趣旨の判決を下した。

裁判の経過は次のようなものである。

カンザス州には11の電話会社があり,そのそれぞれが電話帳を発行しているが,州全体を統一したものはなかった。これに目をつけたフェイスト社が,州全体をカバーする電話帳を出版しようと思い,各電話会社に電話帳のコピーを申し入れた。このうち10の電話会社はこれを認めたが,ルーラル社だけは拒否した。しかし,フェイスト社は,ルーラル社の許可が得られないのにもかかわらず,同社の電話帳をコピーし,州全体をカバーする電話帳に一部組み入れてしまった。このためルーラル社が提訴,一審のカンザス州連邦地方裁判所では著作権の侵害を認め,フェイスト社に6,000ドルの罰金,二審の第10巡回区連邦控訴裁判所もこの判決を支持した。すなわち,この段階までは,電話帳の著作権は認められていた訳である。

しかしながら,この度の最高裁の判決(オコンナー判事執筆)は,下級審の判決をくつがえし,次のように述べている。

まず,著作権については「著者及び出版者が単に事実を集めたからと言って,それが保護の対象となる訳ではない」「著作権の保護は,事実を明らかにするための努力に対してよりも,むしろ事実を選択し,配列するというような独創性に対し与えられる」と述べている。そして電話帳のホワイトページの著作権については,「名前や住所をアルファベット順に並べることは,著作権の保護に関する最低限の基準を満たしていない。そこには創造性の最低限の痕跡も見られないからである」と述べ,否定している。

そして,「人名録,コンピュータのデータベース,その他ただ単に事実だけをとりまとめたものは,そこに何らかの最小限度の創造性が示されていなければ,コピー及び再発行することができる」すなわち「加工されていない単なる事実は,随意にコピーすることができる」と判示した。

ブラムソンはこの判決の趣旨を次の三点に整理している。

  1. 加工されていない事実は著作権の保護の対象にならない。
  2. 事実を「選択又は配列」した中に「ある程度の創造性」があれば,データベースは著作権の保護の対象になる。しかし,事実そのものをコピーすることについては,著作権の保護の対象とならない。
  3. 著作権保護の「知的労働(sweat of the brow)」理論(1909年の著作権法では,「あらゆる著作物」を知的労働の成果とみなして,その保護対象としていたため,単に事実を編纂したものもその対象とされていた。しかし1976年の改正により,「あらゆる著作物」という文言は「著者の独創的な著作物」という文言に変えられた)は死んだ。

これまでは,例えば不動産のリストのようなコンピュータのデータベースは著作権法の対象となっていた。また「知的労働」の理論によれば,データ作成者は,データを管理し,使用する権限を有し,その他の者がそれを勝手にコピーすることはできなかった。この度の判決により,それが大きく変った訳である。

今後,予想される事態について,ブラムソンは次のようにまとめている。

  1. この度の判決は,新聞,CD-ROMなど,事実を編纂したもの全てに適用される。
  2. 著作権を有するデータベースでも,著作権者の行った「選択又は配列」についてはコピーできないが,その中の事実については罰せられることなく,コピーできる。
  3. データベースのような事実を編纂したものの著作権は手厚く保護されている訳ではない。
  4. データベースをダウンロード又はコピーする場合,データベースが事実を「選択又は配列」したものである場合は,全部を行うことができない。しかし,その中の事実については行うことができる。
  5. しかしながら,トレード・シークレットとして保護されるべきデータのコピーや,不正競争とみなされるコピー行為は認められないだろう。

今回の判決によって,最も深刻な影響を受けると思われる,データベース販売会社の中には早くも「事実を集積するための努力に資本を投下することを再検討しなければならない」と述べるところが現れている。

清水隆雄(しみずたかお)

Ref : Bramson, Robert S. Feist v. Rural Telephone case rocks database industry !
NFAIS Newsletter 33 (6) 78-80, 1991
Information Hotline 23 (6) 1, 5-13, 1991. 7
LC Information Bulletin 50 (15) 297, 1991. 7. 29
Los Angeles Times 1991. 3. 28
New York Times 1991. 3. 28