CA719 – 革命後のルーマニアの図書館 / 古屋勝仁

カレントアウェアネス
No.138 1991.02.20


CA719

革命後のルーマニアの図書館

1989年12月,ルーマニアで起こった革命は,我々に驚きと,その後に続く東欧諸国での変革を予感させる出来事であった。特に,ブカレスト大学図書館の火災と蔵書の焼失は,世界中の図書館関係者にとって衝撃的な出来事であった。そうした興奮も冷めやまぬ,1990年1月,スウェーデン及びデンマークの国立図書館長は,ルーマニアの図書館を共同で援助することで合意した。援助計画は,以下のような趣旨に沿って推進された。

  1. 蔵書を再構築し,図書館サービスを改善するための援助をする。
  2. 個々の図書館に対して,当面の必要に応えるための有効な設備の援助をする。
  3. スカンジナビアの図書館とルーマニアの図書館との間の接触の可能性をさぐる。

この計画を進めるに当たり,スウェーデンとデンマーク両国の専門家2名が3月11日から18日までの間,ブカレストを訪問しルーマニア図書館の現状を調査した。そのレポートの中から,国際的にも良く知られている,3大図書館,すなわち,国立中央図書館,アカデミー図書館,ブカレスト大学図書館の現状について報告したい。

ブカレストにおける図書館に関する責任の分断は,国立中央図書館,アカデミー図書館,ブカレスト大学図書館という3大図書館間での役割が明確でなく,競合する形になっていることが原因となっている。3館共に,ルーマニアの出版物の法定納本図書館であり,国の中心となる総合図書館として運営されてきた。1970年までは,文化事業省が,3館の調整機能を果たしていたが,現在はそれもない。市場開放経済ヘの移行の中で,3館が現状のままで並立することは不可能であろうが,歴史的経緯と責任の分断とによって,分担収集といった蔵書構築面での協調関係を作ることが難しくなっている。しかし,今後,相互の協調が是非とも必要である。

アカデミー図書館は,ルーマニアの歴史及び文化,そして全国書誌の作成に重点を置いている。一方,国立中央図書館は,図書館界全体の中心的役割を果たしている。両図書館共に,国の図書館統計上では国立図書館として扱われてきた。

1) 国立中央図書館

国立中央図書館は,1832年に創設され,1955年に,現在の名称に改められた。国立中央図書館は,ほぼ全ての分野に渡る外国文献を網羅的に収集すべく努めている。(現在800万冊以上の蔵書を持つ)

国立中央図書館の役割は次のようなものである。

  1. 全主題を網羅する全国書誌の刊行
  2. ルーマニア図書に関する集中目録サービス
  3. 公共図書館のためのサービスセンター
  4. 学術図書館や大規模公共図書館に収集された外国文献の総合目録の作成
  5. 人文学,科学分野の資料文献案内の作成(外国の定期刊行物の索引−分野によっては,大学図書館や専門図書館で整理されるが,目録の作成,印刷は国際中央図書館でなされる)
  6. 重複資料の配布センターなど,その他の国立図書館機能

国立中央図書館は,他の図書館の政策に影響を及ぼすことはできないが,他館は,中央図書館への報告を義務づけられている。

革命以後,多くの図書館長が辞任に追い込まれている。現在の国立中央図書館の館長,副館長も新任である。今後も更に変革が予想される。

あらゆる設備,特に写真複製設備が必要である。同館は,従来の交換相手が,再度,接触を図ることを希望している。

2) ルーマニア・アカデミー図書館

アカデミー図書館は,総合的な蔵書を持つ主要な学術図書館である。ルーマニアにおける1930年までの遡及的書誌の編集がその役割である。1918年までのものに関しては,出版途中である。多くの外国文献は,伝統的にアカデミー図書館を通じての国際交換によって得られるが,この15年間は,非常に減少している。

アカデミー図書館は,人文学や芸術,ルーマニアの歴史,文化に重点を置いている図書館でもある。また,科学や生命科学,農林業の分野にも素晴らしい蔵書を誇っている。しかし,残念ながら,百科事典,辞書,参考図書など全ての分野において時代遅れである。(最も新しいケミカル・アブストラクト誌は,1981年のものである。)

この図書館にも,技術設備がすぐにでも必要である。

3) ブカレスト大学図書館

この図書館は,共産党本部と広場に近かったため,一昨年の12月に焼け落ちてしまった。秘密警察が図書館の隣の建物を占拠し,軍隊の一部が,広場に集まっていた群衆を目標とするため屋根に飛び移った。軍隊が反撃に転じた時,屋根に飛び火し,図書館は,講堂を除いて焼失してしまった。目録は助かったものの,4つのインキュナビュラと全てのマニュスクリプトを含む50万冊が失われた。幸運にも,75%の蔵書は,他の場所や大学内にある他の小図書館に保管されていたため被害を被らなかった。現在,図書館は,仮の場所で運営されている。

1957年以降の外国文献,更には,ブカレスト大学の学位論文,参考図書も全て焼失した。最も悲しむべきことは,掛替えのないマニュスクリプトが失われた事である。ルーマニアでは,詩人や作家が,自らの原稿を大学図書館に納めるのが伝統となっているが,国民的詩人,ミハイ・エミネスクの原稿を含めた全てが失われた。

また,この図書館は,ブカレストの中でも最も近代化された図書館であったが,コンピュータ,写真製本設備,テレックス,テレファックスなど全てが失われた。

主建物の再建は,順調であり,新しく建物に翼部が加えられ,建物の背後には,新しい書庫が建てられ,将来の増設に備えて可能な限りの設備が備えられる。

ブカレスト大学図書館では,1957年以降の外国文献や参考図書を必要としている。

古屋勝仁(ふるやかつひと)

Ref: Hojsgaard, Ulla, Assistance to Romanian Libraries. Copenhagen, IDE, 1990.