CA1896 – 動向レビュー:共同運用による図書館システム導入の新たな可能性 / 上野友稔,香川朋子,片岡 真

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カレントアウェアネス
No.331 2017年3月20日

 

CA1896

 

 

共同運用による図書館システム導入の新たな可能性

電気通信大学学術情報課:上野友稔(うえの ともき)
お茶の水女子大学図書・情報課:香川朋子(かがわ ともこ)
国立情報学研究所:片岡 真(かたおか しん)

 

1. はじめに

 日本の学術機関で運用する図書館システムは、冊子資料の書誌ユーティリティであるNACSIS-CATを中心とした構成により30年以上の歴史を持つ。図書館システムは安定、成熟した状態にある一方、急速に進展した電子リソースの管理やサービスの利活用など、学術情報流通の変化に十分に対応できていない。

 本稿では、これまでの図書館システム全体が抱える課題を概観し、近年海外で導入が進む図書館サービスプラットフォーム(LSP;CA1861参照)(1)の共同運用について、上野と香川による米国の地域コンソーシアムOrbis Cascade Alliance(OCA)(2)への訪問調査の報告とともに紹介する。さらに日本の大学図書館における共同運用による図書館システム導入の新たな可能性について、考察する。

 

2. これまでの図書館システムの限界

 現在の図書館システムには次の課題がある。

2.1. 単館運用の行き詰まり

 多くの大学では、図書館システムを自館で調達し、サーバを置いて自館向けにカスタマイズされたものを運用している。そのため、各大学ではシステム調達や運用管理を行うシステム管理者を置くなどの体制を整備してきた。しかし、近年では資料の電子化の進展に対応して、新規サービスの導入やそれらのサービスと図書館システムの連携など、図書館システム機能の高度化が求められている。また電子的なサービスに対するセキュリティ対応や個人情報保護への配慮も必須であり、高い専門性が必要となっている。一方で、各大学の運営費交付金削減に伴い、図書館でも人員や予算の削減が進んでおり、上記システムの高度化等を進めるためには業務やシステムの効率化を行う必要があるが、そのための人員が確保できないというジレンマに陥っている(3)

 

2.2. システムの分散化

 現在の大学図書館システムは、海外では1970年代に購入・目録・雑誌受入などの業務をコンピュータ上で処理することを目的に別々のモジュールとして開発され、1980年代後半にコアモジュールとOPAC(資料検索システム)を統合した初期の図書館システム(Integrated Library Systems:ILS)が登場した(4)。その後、1990年代後半以降資料の電子化が進展するにつれて、ILSとは別に、ナレッジベース(CA1860参照)を中心とした電子リソースを管理・提供するシステム(電子ジャーナルのAtoZリスト、リンクリゾルバ、電子情報資源管理システム(ERMS)、ディスカバリサービス(CA1772E1604参照))が多くの図書館で導入された。さらに、大学構成員の研究成果を公開する機関リポジトリ、歴史的な所蔵資料をデジタル化し公開するデジタルアーカイブなども構築・運用されてきた。日本でも導入数などに違いはあるが、同様の流れで導入が進んできた。このような状況が、システム運用や人的コストの増大を招いており、また、ディスカバリサービスへのアクセスポイントの統合が不十分な状況では、ユーザに資料検索の煩雑さを感じさせている。

 

2.3. 電子リソース対応とデータ共有の停滞

 ユーザから電子ジャーナルの利用可否を尋ねられた際、適切な回答ができない、ということがサービスの現場でしばしば発生している。これは、各機関が契約している電子リソースのタイトル・アクセス範囲・利用条件が適切に管理されていないことに起因している(5)

 電子リソース管理のために自館で作成したスプレッドシートを更新し、OPACやウェブサイトのAtoZリストに登録している大学も多い。しかし、日々更新される情報をすべて手作業で更新し続けることは現実的に困難なため、適切なユーザサービスが提供できない状況を招いている。その課題を解決するためには、運用可能なワークフローの確立と、共通的な情報をシステムを用いて効率的に共有する方法について、検討する必要がある(6)

 

表 日本における電子リソース基盤構築の活動

2000
年度
「総合目録データベースにおける電子ジャーナルの取扱い(暫定案)」の策定(7)
2001
年度
「電子ジャーナル(ScienceDirect及びIDEAL)書誌レコードの作成」(8)
2007~2008
年度
国立情報学研究所(NII)と複数機関によるERMSの実証実験(9)
2012~2013
年度
学術コンテンツ運営・連携本部図書館連携作業部会および下部ワーキンググループが大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)(10)と協力して実施した「電子リソース管理データベース(ERDB)の構築プロジェクト」(11)

 

 日本では、これまで大学図書館とNIIが連携して電子リソース基盤構築に努め(表参照)、NACSIS-CATを通じた一部電子ジャーナルのILLでの活用や、数機関でのERMS導入に繋がった。しかし、電子リソースの契約からライセンス管理、アクセス提供までの一連のワークフローを確立するまでには至らなかった。現在この活動は、「大学図書館と国立情報学研究所との連携・協力推進会議」(12)を母体とする「これからの学術情報システム構築検討委員会」(13)の電子リソースデータ共有作業部会(以下、作業部会とする。)が引き継いでおり、筆者らも参加している(14)。作業部会では、日本で刊行された電子リソースのデータ共有サービス(Electronic Resources Database-JAPAN:ERDB-JP;E1678参照(15))の運用を行うほか、日本で契約される電子リソースデータの管理及び活用やデータ共有の方法について、検討を進めている(16)

 

3. 図書館サービスプラットフォーム(LSP)の台頭

3.1. LSPによる課題解決

 第2章で見た課題解決の切り札として、海外ではLSPの導入が拡がっている。システムはクラウド上で提供されるため、自機関へのサーバ設置は不要となる。また様々な形態の資料を扱うためのワークフローがサポートされており、ILS、ERMS、ナレッジベースなど複数の現行システムを統一したプラットフォームに置き換えることが可能となる。2015年に米国の252の図書館で導入されたシステムでは、Ex LibrisのAlmaが171機関、Innovative社のSierraが27機関、OCLCのWorldShare Management Services (WMS)が20機関となっており、北米研究図書館協会(ARL) 加盟館の内、新規システムを導入した8機関はいずれもAlmaを選択している (17)

 

3.2. LSPの共同運用

 LSPは、Almaを中心に、コンソーシアムでの導入も加速している。2012年に米国のコンソーシアムOCAでの導入を皮切りに、BIBSYS(ノルウェー)、JULAC(香港)、GSLG(スウェーデン)など25か国31コンソーシアムでAlmaの導入が続いている。コンソーシアムでの導入が進む理由の一つとして、各種データを共有する仕組みを有していることがある。Almaは3つのゾーンと呼ばれるデータ格納の仕組みを持っており、概略は図1のとおりである。

 コミュニティゾーンのデータはAlmaの全利用機関向け、ネットワークゾーンはコンソーシアム機関向け、機関ゾーンは各機関向けに提供されるゾーンである。このゾーンの区分けによって、例えばコンソーシアム契約による電子ジャーナルパッケージのタイトル・利用条件などの共有が、システムを通して行える。なお、Almaは2017年初頭から、品質に定評のあるProQuestのナレッジベースを利用することとしており(18)、より品質の高いデータが利用可能となることが期待される。

 一方、WMSのコンソーシアムでの導入は、米国ニューメキシコ州の16機関からなるLIBROS academic library consortium(2014年~)及び米国北東部の7機関から構成されるHELIN Library Consortium(2017年~)に留まっており、また、Sierraは2014年に米国ウィスコンシン州のWISPALS Library Consortiumへの導入のみとなっている。これらの状況から、LSPの共同運用においてもAlmaが事実上のスタンダードとなっていることが伺える。

 

図1 Almaによる目録/アクセスデータのフロー

 

4. 共同運用の先駆的事例OCA

 OCAは、米国オレゴン州、ワシントン州、アイダホ州に拠点を置く39大学から構成されるコンソーシアムである。上野と香川は、2016年10月にその構成機関であるワシントン大学、シアトル大学、シアトルパシフィック大学を訪問し、システムの共同運用に関する調査を行なった。本章では、その概要を報告する。

 

4.1. 選定から導入まで

 共同運用の決定にあたり、OCAでは詳細な調査及び検討が実施された(19)。例えば、2010年には全参加機関のILS運用費用の調査分析が実施され、共同運用によりシステム経費及び運用にかかる人件費の両面を削減すべきとの方向性が示された(20)。また、2011年には具体的な移行体制やプロセスなどの推奨指針を記した最終報告書(21)及びシステムベンダ向けのRequest for Information(情報提供依頼書)(22)が策定され、10社からの情報提供を受けている。こうした過程を経て、2012年に当時の全構成機関である37大学の館長による投票でAlmaの導入を決定した。選定にあたり、運用実績のあるILSとどちらを選択すべきかが最大の論点となったが、提案のあった4社の内、システムの共同運用という当初の目的を最も達成し得ると判断されたのがAlmaであった。

 導入にあたり、37機関を4つのコーホートと呼ばれるグループに分け(23)、1コーホートにつき約半年程度の移行期間を設ける手法を採用した(24)。Almaが先進的かつ前システムと比較して複雑なシステムであったため、第1コーホートのメンバーであるワシントン大学を始め、どの機関も導入に相応の労力を投じていた。

 

4.2. 共同運用の実態

 OCAは1993年の設立以来、資料の迅速な相互利用のために総合目録システムを共同構築するなど、20年以上に渡りコンソーシアム内のリソース共有を推進してきた歴史を持つ(25)。Almaの共同運用により、機関を超えた業務の共有化(クロスアクティビティ)の流れが一層加速した点を、OCAでは最も評価している。様々な規模の大学が加盟している中、大規模大学の人的資源も含めたリソースを全体で共有しやすくなっており、リソースの最適化が実現しつつある。

 また、書誌レコード、電子リソースの利用条件データの雛型(ライセンステンプレート)、設定した条件に基づき発注などを行う管理用レコードがネットワークゾーンで共有されており、さらに、サーバが1つのクラウドシステムに統合されたことで、コスト削減やシステム管理負担の軽減が図られている。

 システムの契約はコンソーシアム事務局が担っており、各機関はOCA年会費とともにシステム経費として40%の固定費に60%の過去3年間の学生FTE(フルタイム換算値)の平均による傾斜を加味した変動費を加えたものを支払うことで、機関間における不平等感の解消に配慮している(26)

 

4.3. Almaの運用事例

運用事例として、日本でも普及しつつあるPDA(Patron-Driven Acquisitions;CA1874参照)及びOCAで重視されているILL業務について紹介する。

(1)PDA

 PDAの実施にあたり、予算や実施期間、分野、購入基準とするアクセス回数などを設定した管理用レコードをネットワークゾーンから取り込んで利用するか、自館で独自に設定する。登録された管理用レコードに基づき、発注や請求書の送付をシステム間で自動送付する機能であるEDI(Electronic Data Interchange)及びEOD(Embedded Order Data)によって、出版社・書店との発注レコードが送受信され、ディスカバリサービスPrimo上でユーザが利用可能となる。ユーザが利用した回数は出版社・書店に蓄積され、PDAが終了すると購入タイトル以外の書誌レコードは自動で削除される仕組みとなっている(図2)。ワークフロー全体がほぼ自動化されており、Almaの特性であるシステムによる業務の効率化の一端が見て取れる。

 

図2 OCAにおけるPDA運用事例

 

(2)ILL業務

 システムの共同運用によって、各機関で作成したILLレコードやユーザ名、貸借履歴等の共有を行っており、業務の効率化につながっている。より秘匿性の高い個人情報については、OCA内のパスワード管理下にあるウェブサイトにて共有するなどのセキュリティ面での配慮も行っている。OCA内のILLはAlmaで完結しているものの、Alma導入機関以外とはOCLCのILLモジュールILLiad(27)やWorldShare(28)、RapidILL(29)、DOCLINE(30)など複数のシステムを各機関で併用している。ILLiad等とは自動連携を行っており、人的ミスの防止につながっている。

(3)参加機関での評価

 OPACやAtoZリストなど、資料形態によって個別に提供していたサービスをPrimoに一元化したことで、ユーザの利便性が飛躍的に向上したことをどの機関も高く評価していた。書誌レコードをPrimoにインデックスさせるための正規化ルール(31)の一部は、コンソーシアムレベルで設定している。また、Primo Toolkitにより、ユーザインターフェースやファセット、検索窓などは、各機関のコレクションの特性に応じたカスタマイズが可能となっている(32)(33)。一方で、例えば雑誌受入のような伝統的な業務の一部を詳細にカスタマイズしていた機関では、移行前のシステムの方が使いやすかったという意見もあった。

 

4.4. 先行事例からの知見

 導入にあたってワークフローの分析やポリシーの策定、障害対応など、多大なタスクが発生し、OCAのフルタイム専属スタッフ10名でも十分に対応できず、大学側に大きな負担が生じたという反省があった。そのことから、コンソーシアム機関の間で綿密なコミュニケーションを取ることや導入体制の整備が必要であり、各機関では導入前に貸出期間などの運用ルールの整理を行うべきとのアドバイスが得られた。また、ネットワークゾーンと機関ゾーンを同時に構築した点が最も困難であったため、先に機関ゾーンを導入し、その後ネットワークゾーンと紐づける方が望ましいとの意見もあった。さらに、コーホートモデルは有効であり、大規模大学では様々な課題が抽出されやすいため初期のコーホートに設定するなど、機関規模に応じて工夫すると効果的であるとの意見もあった。契約先であるEx Librisに対しては、機能改善の事項が多い一方、導入の長期化に伴って開発ペースが減速する傾向にあるため、優先事項を明確に伝える交渉も重要とのことであった。一方で、システム面ではデータを共有しやすい環境が整備されたものの、OCA事務局の人的資源の不足により共有すべき対象を拡大できていないという実情もあった。

 OCAでは、当初の5年契約終了後もAlmaの共同運用を継続する意向のようである。先行事例が無い中、様々な困難を経ながらも改革を成し遂げ、共通のシステム基盤を手に入れていた。現在もEx Librisに対してネットワークゾーンの機能改善を要求するなど、更なる業務改善やユーザサービスの向上を目指している。

 

5. 加速する共同運用の流れ

 次に、OCA以外のコンソーシアムでの共同運用の事例を紹介する。

5.1. 各国のコンソーシアムでの共同運用

(1)ノルウェー

 Alma共同運用の中でも最大規模となるのがノルウェーのBIBSYS(34)で、100以上の機関から構成される国レベルのコンソーシアムである。BIBSYSは長い間独自構築によって業務のシステム化を行なってきたが、2010年から2012年までに行われたOCLCとWMSのAPIによる独自構築システムとの接続実験を経て、2013年にEx Librisとの契約を交わした(35)。Primoに続き2015年第4四半期からはオペレーションの統一を目的としてAlmaを展開し、コンソーシアム全体で利用されている(36)

(2)ドイツ

 ドイツの3つの主要なコンソーシアムであるBSZ、VZG及びhbzでは、コスト削減を図るために合同コンソーシアムを形成し、ネットワークゾーンを活用した書誌共有システムを構築している(37)。ドイツでは法律により国外のサーバにデータを置くことが禁止されているため、国内にデータセンターを構築して対応している。

(3)英国

 英国ウェールズの高等学術機関から構成されるWHELFでは、11機関6つの既存システムからの移行を進めている(38)。WHELFでは、OCLC Numberなどコンソーシアム内で共有された標準的な識別子がなかったため、ネットワークゾーンの構築が難航した。

(4)アイスランド

 アイスランドは、国家予算の逼迫のため、アイスランド国立・大学図書館と約290の大学図書館及び公共図書館等でコンソーシアムを形成し、Ex LibrisのILSであるAlephを活用した図書館システムGegnirと、PrimoによるディスカバリサービスLeitir.is(39)を共同運用している。2011年のPrimo導入時は、各図書館のレコードに限定した検索やAlephからの即時反映などが問題となり既存のOPACとの併用が続いていたが、2016年2月からはPrimoによる Leitir.isに一本化している(40)

 

5.2. 共同運用がもたらすもの

 このように、各コンソーシアムがLSPの共同運用に移行する目的や過程は様々であるが、上述のWHELFが挙げているように、共通するメリットがある。

コスト削減のメリット
 ・システムをコンソーシアムで調達することによるベンダからの値引き
 ・クラウド利用によるハードウェアのコスト削減(41)
 ・参加機関のコレクション構築や図書館サービスのためのシステムを共有することによる長期的なコスト削減

コスト削減以外のメリット
 ・データ登録オペレーションの統一による、参加機関のコレクション全体への横断的なアクセス
 ・保守性の高いクラウド利用による安定運用
 ・業務のワークフロー改善によるサービス向上
 ・資料貸出や電子リソースのライセンス管理に関する互恵的な協力機会の増大
 ・コンソーシアムで共有された統計情報を活用したサービス改善

 こうしたメリットを得るために、各コンソーシアムではマネジメント体制を整備し、各図書館では業務フローや人員配置の変更を行っている。また、Ex Librisが月次で提供するシステムアップデートによって、継続的な機能拡充を実現している。その背景には、図書館予算が逼迫する中で、研究データ管理などの新たなニーズへの対応が迫られており、図書館の存続をかけた事業の転換が求められている事情がある。この状況は日本においても同様であるため、次章では日本におけるLSPの共同運用の可能性について、考察したい。

 

6. 日本におけるLSPの共同運用の可能性

6.1. コンソーシアムを軸とした電子リソース業務のワークフロー確立

 JUSTICEなどのコンソーシアム向け提案の電子ジャーナルタイトルリストや利用条件などをシステムに登録することで、各参加機関とのデータ共有を効率的に実施できる可能性がある。また、各機関では電子ジャーナルのパッケージ購入中止や、電子書籍購入の拡がりによって、利用条件の管理が欠かせなくなってきており、LSPのワークフロー管理機能が有効に機能することが期待される。さらに、発注や受入を出版社との自動通信で実現するEDIや、書誌情報を自動入手するEODの仕組みが進展すれば、これまで手作業で行ってきた業務を自動化できる。

 

6.2. 総合目録の基盤システムとしての活用

 LSPは、コンソーシアムレベルでのデータ共有機能の活用により、NACSIS-CATの代替ともなり得る可能性がある。現在のNACSIS-CATは日本独自で開発したシステムであるため、運用コストが高い。LSPのようなパッケージシステムの利用により、運用コスト削減に加え、国際的な学術情報流通の促進にもつながることが考えられる。

 また、これを書誌データ基盤として(42)、各大学の図書館システムをLSPの共同運用に変更出来れば、諸外国の先行事例で見られるように、2章で挙げた課題解決につながる可能性がある。それにより、各機関がシステム管理・データ作成に充てていた人員を、新たなニーズへの対応に充てることも可能となる。

 

図3 日本でのLSP共同運用の可能性

 

7. おわりに

 これからの学術情報システム構築検討委員会が提示する「これからの学術情報システムの在り方について」では、進むべき方向性として(1)統合的発見環境の提供、(2)メタデータの標準化、(3)学術情報資源の確保が示されている(43)。一方LSPは、電子情報資源と印刷体を区別することなく統合的に管理する機能を有しており、さらにKBART(CA1784参照)やONIX-PL(CA1747参照)、OAI-PMH(CA1513参照)などの標準化されたデータ交換への対応や豊富なAPI提供など、外部システムとのデータ連携の自動化も強く意識されたシステムである。作業部会では、「これからの学術情報システムの在り方について」が示す方向性の具体化に向け、JUSTICEと協力して電子リソース部分を中心にAlmaの機能検証を開始している。

 特定のサービスがデータを囲い込む時代ではなく、コミュニティが協力してユーザの目線に立ったサービスを構築していく時代が到来している。それを実現する基盤として、LSPがさらなる議論を生み、図書館サービスの発展につながるよう、活動を続けて行きたい。

 

(1)Breeding, Marshall. Library Services Platforms: A Maturing Genre of Products. Library Technology Reports. 2015, 51(4), 38p.
https://journals.ala.org/ltr/issue/download/509/259.

(2)Orbis Cascade Alliance.
https://www.orbiscascade.org.

(3)狩野英司, 吉田大祐. 図書館システムを取り巻く課題と今後の展望 : 「図書館システムに係る現状調査」の結果を踏まえて. 三菱総合研究所所報. 2012, (55), p. 208-226.
http://www.mri.co.jp/NEWS/magazine/journal/55/__icsFiles/afieldfile/2012/03/19/jm12031112.pdf.
単館運用の行き詰まりの状況は、2010年の日本図書館協会による調査などで指摘されており、システムの共同化、クラウド化などが提言されているが、これまで際立った進展はみられていない。

(4)Kinner, Laura and Rigda, Christine. The Integrated Library System: From Daring to Dinosaur?. Journal of Library Administration. 2009, 49(4), p. 401-417.
https://faculty.washington.edu/rmjost/Readings/ils_from_daring_to_dinosaur.pdf.

(5)“電子リソースデータ共有作業部会での検討状況”. 国立情報学研究所.
http://www.nii.ac.jp/userimg/libraryfair2016/2016_LFF_3.pdf.

(6)“JUSTICEの目的及び事業”. JUSTICE.
http://www.nii.ac.jp/content/justice/overview/#anc0.

(7)総合目録データベースにおける電子ジャーナルの取扱い(暫定案). NACSIS-CATニュースレター. 2000, (1), p. 4-5.
http://catdoc.nii.ac.jp/PUB/nl2/No1/0103.htm.

(8)電子ジャーナル(ScienceDirect及びIDEAL)書誌レコードの作成. NACSIS-CATニュースレター. 2001, (5), p. 9.
http://catdoc.nii.ac.jp/PUB/nl2/No5/0509.htm.

(9)“電子情報資源管理システム(ERMS)実証実験平成20年度報告書”. 国立情報学研究所目録所在情報サービス.
https://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/about/infocat/pdf/erms_report_h20.pdf.

(10)大学図書館コンソーシアム連合:JUSTICE.
http://www.nii.ac.jp/content/justice/.

(11)“学術コンテンツ運営・連携本部 図書館作業部会報告書”. 次世代学術コンテンツ基盤共同構築事業.
http://www.nii.ac.jp/content/archive/pdf/content_report_h23_with_glossary.pdf.

(12)大学図書館と国立情報学研究所との連携・協力推進会議.
http://www.nii.ac.jp/content/cpc/.

(13)これからの学術情報システム構築検討委員会.
http://www.nii.ac.jp/content/korekara/.

(14)“電子リソースデータ共有作業部会”. これからの学術情報システム構築検討委員会.
http://www.nii.ac.jp/content/korekara/about/erdbwg/.

(15)ERDB-JP.
https://erdb-jp.nii.ac.jp.

(16)“これからの学術情報システム構築検討委員会電子リソースデータ共有作業部会内規”. これからの学術情報システム構築検討委員会.
http://www.nii.ac.jp/content/korekara/about/erdbwg/rule/rule_erdbwg.pdf.

(17)Breeding, Marshall. Library Systems Report 2016. American Libraries Magazine. 2016, 47(5).
https://americanlibrariesmagazine.org/2016/05/02/library-systems-report-2016/.

(18)“Content Operations – February 2017 Enhancements”. ExLibris.
https://knowledge.exlibrisgroup.com/Alma/Release_Notes/0099_2017/110_February_2017/Alma_February_2017_Release_Notes/09Content_Operations_-_February_2017_Enhancements.
なお、2015年12月にProQuest社はEx Librisの買収を完了している。

(19)“RFP for a Shared Library Management Service”. Orbis Cascade Alliance.
https://oldsite.orbiscascade.org/index/rfp.

(20)“Shared Integrated Library System Team (2010)”. Orbis Cascade Alliance.
https://oldsite.orbiscascade.org/index/silst.

(21)“Shared Integrated Library System Team (2011)”. Orbis Cascade Alliance.
https://oldsite.orbiscascade.org/index/shared-integrated-library-system-team-2011.

(22)“RFI for a Consortial Library Management Service”. Orbis Cascade Alliance.
https://oldsite.orbiscascade.org/index/rfi.

(23)Ping Fu., Carmen, Julie.. Migration to Alma/Primo: A Case Study of Central Washington University. Chinese Librarianship : an International Electronic Journal. 2015, (40).
http://www.iclc.us/cliej/cl40.htm.

(24)OCAにおけるAlma導入スケジュールは、以下の通りである。

第1コーホート
(2013/6運用開始)
第2コーホート
(2013/12運用開始)
第3コーホート
(2014/6運用開始)
第4コーホート
(2014/12運用開始)
・Linfield College
・Marylhurst University
・Pacific University
・University of Washington
・Western Washington University
・Willamette University
・Concordia University
・Eastern Washington University
・Evergreen State College
・Lewis & Clark College
・Portland Community College
・Reed College
・Saint Martin’s University
・Seattle Pacific University
・University of Idaho
・Warner Pacific College
・Washington State University
・Clark College
・Mt Hood Community College
・Oregon Health & Science University
・Oregon Institute of Technology
・Portland State University
・Southern Oregon University
・University of Oregon
・University of Portland
・University of Puget Sound
・Western Oregon University
・Central Oregon Community College
・Central Washington University
・Chemeketa Community College
・Eastern Oregon University
・George Fox University
・Lane Community College
・Oregon State University
・Seattle University
・Walla Walla University
・Whitman College

“Cohort plan for the Shared ILS implementation”.Orbis Cascade Alliance.
https://oldsite.orbiscascade.org/index/shared-ils-cohort-plan.
2016年10月時点で2機関が追加で加盟している。

(25)“History of the Orbis Cascade Alliance”. Orbis Cascade Alliance.
https://www.orbiscascade.org/history-of-alliance.

(26)Helmer, John F., Bosch, Stephen., Sugnet, Chris., Tucker, Cory. Innovation through Collaboration – The Orbis Cascade Alliance Shared Library Management Services Experience: An Interview with John F. Helmer. Collaborative Librarianship. 2012, 4(4).
http://digitalcommons.du.edu/collaborativelibrarianship/vol4/iss4/6.

(27)“ILLiad”. OCLC.
https://www.oclc.org/illiad.en.html.

(28)“WorldShare”. OCLC.
http://www.oclc.org/worldshare.en.html.

(29)“RapidILL”. Rapid ILL.
http://rapidill.org/.

(30)“DOCLINE”. U.S. National Library of Medicine.
https://www.nlm.nih.gov/docline/.

(31)“Norm Rules Working Group”. Orbis Cascade Alliance.
https://www.orbiscascade.org/discovery-delivery-wg-norm-rules.

(32)“Systems Documentation”. Orbis Cascade Alliance.
https://www.orbiscascade.org/systems-documentation.

(33)Moore, Dan., Mealey, Nathan. Consortial-Based Customizations for New Primo UI. Code4Lib Journal. 2016, (34).
http://journal.code4lib.org/articles/11948.

(34)BIBSYS.
http://www.bibsys.no/en/.

(35)Breeding, Marshall. BIBSYS Selects Alma. Smart Libraries Newsletter. 2014, 34(1).
https://librarytechnology.org/repository/item.pl?id=18818.

(36)“Library Services Platform for BIBSYS”. BIBSYS.
http://www.bibsys.no/library-services-platform-for-bibsys/.

(37)“Three Major German Consortia and Ex Libris Join Forces for an Alma-Based Common Bibliographic Data Zone”. Ex Libris.
http://www.exlibrisgroup.com/default.asp?catid={916AFF5B-CA4A-48FD-AD54-9AD2ADADEB88}&details_type=1&itemid={C7BB79B4-C707-431C-A3AA-EA7E65EA920C}.
Bibliotheksservice-Zentrum Baden-Wurttemberg (BSZ).
http://www.bsz-bw.de/index.html.
Gemeinsamer Bibliotheksverbund and Verbundzentrale des GBV (VZG).
http://www.gbv.de/.
Hochschulbibliothekszentrum des Landes Nordrhein-Westfalen (hbz).
https://www.hbz-nrw.de/.

(38)“WHELF Shared LMS”. Wales Higher Education Libraries Forum.
http://whelf.ac.uk/sharedlms/.

(39)“Leitir.is”. Consortium of Icelandic Libraries.
http://leitir.is.

(40)Sveinsdottir, Sveinbjorg., Hringsdottir, Dogg.. Annual Report from the Consortium of Icelandic Libraries for Igelu National User group (INUG) 2016.
http://igelu.org/wp-content/uploads/2016/09/Iceland-INUG-report-2016.pdf.

(41)純粋なハードウェアに加え、システム管理などのコストを含めた場合であると思われる。

(42)LSPは冊子も含めたデータ共有の仕組みを持っており、CATPによるデータ交換に対応することで、国内の既存図書館システムとの連携も可能となる。また、同じLSPを利用する海外機関によるNACSIS-CATの目録データ活用も期待できる。

(43)“これからの学術情報システムの在り方について”. これからの学術情報システム構築検討委員会.
http://www.nii.ac.jp/content/korekara/archive/korekara_doc20150529.pdf.

 

[受理:2017-02-16]

 


上野友稔,香川朋子,片岡 真. 共同運用による図書館システム導入の新たな可能性. カレントアウェアネス. 2017, (331), CA1896, p. 22-28.
http://current.ndl.go.jp/ca1896
DOI:
http://doi.org/10.11501/10317597

Ueno Tomoki, Kagawa Tomoko, Kataoka Shin.
Shared Library System Brings Out the Potential of Scholarly Communication.