CA1768 - 多元的デジタルアーカイブズのVR-ARインターフェイスデザイン手法 / 渡邉英徳

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カレントアウェアネス
No.312 2012年6月20日

 

CA1768

 

 

多元的デジタルアーカイブズのVR-ARインターフェイスデザイン手法

 

首都大学東京システムデザイン学部:渡邉英徳(わたなべ ひでのり)

 

1. はじめに

 本稿では、既存のデジタルアーカイブ群とユーザコミュニティをマッシュアップし、VR-AR(仮想現実-拡張現実)インターフェイス上に表示する「多元的デジタルアーカイブズ」のインターフェイスデザイン手法について述べる。この「多元的デジタルアーカイブズ」のユーザは、複数のデジタルアーカイブを横断的に閲覧しながら、コンテンツ相互の時空間的なつながりや身近な場所との関わりを把握し、アーカイブ群の内容について、より深く知ることができる。

 

2. 多元的デジタルアーカイブズ

 既存のデジタルアーカイブは、単体の公文書館などの収蔵資料をデジタル化し、その保管とネットワークを通じた利用を可能にするものとして、単独ユーザによる資料の個別利用を前提にデザインされてきた。一方、アーカイブズ学においては、ネットワークが普及した現代の社会状況に即した記録保存のモデル「レコード・コンティニュアム」(以下、RCMという)が提唱されている(図1)(1)

図1 レコード・コンティニュアム

図1 レコード・コンティニュアム

出典:註(2)

 

 図1の次元4において、複数のアーカイブの統合と、ユーザコミュニティによる集合記憶化がおこなわれ、アーカイブ群の内容に対するより深い理解が生みだされる。しかし、既存のアーカイブズデザイン手法においては、複数のアーカイブの統合と、ユーザコミュニティとの連携が配慮されておらず、RCMに適合しなかった。著者らは、RCMに適合するアーキテクチャを「多元的デジタルアーカイブズ」と定義し、その成立要件を以下のようにまとめた。

1. デジタルアーカイブ群の統合
 個別に存在する複数のデジタルアーカイブを統合し、相互に参照しながら閲覧できるようにする。

2. ユーザコミュニティとの連携
 1に付随するユーザコミュニティと連携し、コミュニケーションの機会を提供する。

3. コンテンツを一元表示するユーザインターフェイス
 1と2のコンテンツを一元表示し、各々の時空間的な関連性を把握しやすくする。

 著者らは、これらの要件を充たすシステムと、仮想空間内にコンテンツを表示するVRインターフェイスのデザイン手法を考案(3)し、長崎(4)・広島原爆(5)、東日本大震災(6)や沖縄戦を題材とした実装例を制作してきた。さらに広島原爆、東日本大震災、沖縄戦の事例においては、実空間にコンテンツを重層表示するARインターフェイスも試験的に実装した。次章以降では、2011年7月10日に公開した「ヒロシマ・アーカイブ」(7)VR-ARインターフェイスデザイン手法について解説する。なお本稿ではシステムについての解説は割愛した。詳細については論文(8)を参照されたい。

 

3. VRインターフェイス

 「ヒロシマ・アーカイブ」では、広島女学院同窓会編纂の被爆証言集など、11のデジタルアーカイブ群が統合されている。著者らは、すべてのデジタルアーカイブのコンテンツを単一のデータベースに格納し、時空間メタデータにもとづいて、Google Earthにマッピングした(図2)。写真コンテンツは、現在の地形や建物モデルと立体的に重層表示した(図3)。ユーザは、マウス操作とタイムスライダー操作を併用して、VRインターフェイス上の時空間を自由に移動しながら、コンテンツを閲覧することができる。このデザイン手法により、複数のアーカイブが統合され、コンテンツ間の時空間的関連性が提示されている(図4)。

図2 全コンテンツの重層表示

図2 全コンテンツの重層表示

図3 写真と地形の立体的重層表示

図3 写真と地形の立体的重層表示

図4 コンテンツ間の時空間的関連性の提示

図4 コンテンツ間の時空間的関連性の提示

 さらに著者らは、デジタルアーカイブ群とユーザコミュニティを連携させるために、原子爆弾や核兵器に関するTwitter上のツイートを収集し、Google Earthにマッピングした(図5)。

図5 ツイートのマッピング

図5 ツイートのマッピング

 このデザイン手法により、デジタルアーカイブ群とユーザコミュニティのコンテンツが統合され、各々の時空間的関連性が提示されている。

 これまでに述べたVRインターフェイスのデザイン手法により、第2章で挙げた「多元的デジタルアーカイブズ」の成立要件がすべて充たされている。

 

編集事務局註:
ヒロシマ・アーカイブの全景は以下のとおりです。Google Earthのプラグインをインストールしてご利用ください。

ヒロシマ・アーカイブ全景

 

4. ARインターフェイス

 「多元的デジタルアーカイブズ」のコンテンツには時空間メタデータが付与されており、AR技術を用いることで、ユーザの現在地周辺の実空間に重ねあわせて表示することができる。ユーザは、前述したVRインターフェイスに加えて、本章で説明するARインターフェイスを用いることで、アーカイブ群の内容と身近な場所との関わりについて知ることができる。

 著者らが実装したARインターフェイスでは、ユーザの位置情報と方位をもとにして、すべてのコンテンツがスマートフォン等のカメラビュー上に表示される(図6)。広島にいるユーザは、コンテンツが存在する方角と、現在地からの距離を把握することができる。これにより、アーカイブ群の内容と、ユーザの身近な場所との関わりが提示される。

図6 AR表示

図6 AR表示

 さらに、広島以外の場所にいるユーザは、現在地を「仮想の爆心」(仮想的な爆心地)として設定し、周囲の空間にマーカを再マッピングすることができる。図7はお台場海浜公園付近を「仮想の爆心」に設定し、マーカを再マッピングした様子である。

図7 「仮想の爆心」表示

図7 「仮想の爆心」表示

 この「仮想の爆心」機能により、広島以外の場所にいるユーザでも、アーカイブ群の内容と、ユーザの身近な場所がもつスケールを重ね合わせて把握できる。

 

5. おわりに

 これまでに制作した実装例はインターネット上で公開されており、累計で70万件以上のアクセスを集めた。また、第14回文化庁メディア芸術祭など、複数の展覧会で実展示をおこない、多数の鑑賞者に触れてもらう機会を得た。以下にユーザの感想の例を示す。

被爆者の方のお名前や顔写真、被害を受けた主な施設の写真が、その被爆場所や所在地ごとに表示されており、またクリックすると体験談が表示されたり、地図を上空からあるいは斜めからなど多角的に見ることができるので、被害を受けた範囲などがリアルにわかる仕組みになっている。

 著者らは、アクセスログ、インターネット上のユーザの感想、そして実展示における鑑賞者の行動を比較分析した結果、考案したVRインターフェイス手法は妥当であると考えている。詳細については論文(9)を参照されたい。

 2012年度は、VR-ARインターフェイスの実証実験を長崎原爆と沖縄戦を対象におこなう。VRインターフェイスを「事前学習」に、ARインターフェイスを「現地踏査」にそれぞれ用いた、平和教育ツールとしての展開が予定されている。今後も実装例の制作や実用展開を図りながら、デザイン手法の精度を高めていきたい。

 

(1) ケテラール, エリック. 未来の時は過去の時のなかに: 21世紀のアーカイブズ学. 児玉優子訳. アーカイブズ学研究. 2004, (1), p. 20-35.

(2) 渡邉英徳ほか. Nagasaki Archive: 事象の多面的・総合的な理解を促す多元的デジタルアーカイブズ. 日本バーチャルリアリティ学会論文誌. 2011, 16(3), p. 497-505.

(3) 渡邉英徳ほか. Nagasaki Archive: 事象の多面的・総合的な理解を促す多元的デジタルアーカイブズ. 日本バーチャルリアリティ学会論文誌. 2011, 16(3), p. 497-505.

(4) Nagasaki Archive制作委員会. “Nagasaki Archive”. http://nagasaki.mapping.jp/, (参照2012-04-05).

(5) ヒロシマ・アーカイブ制作委員会. “ヒロシマ・アーカイブ”. http://hiroshima.mapping.jp/, (参照 2012-04-05).

(6) 東日本大震災アーカイブ. http://shinsai.mapping.jp/, (参照 2012-04-05).

(7) ヒロシマ・アーカイブ制作委員会. “ヒロシマ・アーカイブ”. http://hiroshima.mapping.jp/, (参照 2012-04-05).

(8) 渡邉英徳ほか. Nagasaki Archive: 事象の多面的・総合的な理解を促す多元的デジタルアーカイブズ. 日本バーチャルリアリティ学会論文誌. 2011, 16(3), p. 497-505.

(9) 渡邉英徳ほか. Nagasaki Archive: 事象の多面的・総合的な理解を促す多元的デジタルアーカイブズ. 日本バーチャルリアリティ学会論文誌. 2011, 16(3), p. 497-505.

[受理:2012-05-07]

 


渡邉英徳. 多元的デジタルアーカイブズのVR-ARインターフェイスデザイン手法. カレントアウェアネス. 2012, (312), CA1768, p. 2-4.
http://current.ndl.go.jp/ca1768