CA1505 – 動向レビュー:図書館員教育の国際動向 / 中村香織, 三浦太郎, 山形八千代, 石井奈穂子, 刈田朋子

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カレントアウェアネス
No.277 2003.09.20

 

CA1505

動向レビュー

 

図書館員教育の国際動向

 

 情報通信技術の進展や経済状況の悪化など図書館を取り巻く環境の変化は,図書館員教育プログラムのあり方にも大きな影響を及ぼしている。本号では,米国,ドイツ,フランス,オランダ,台湾における取組み事例について紹介する。

 

1. 図書館職員の研修ニーズを探る −米OCLCによる研修市場調査−

 OCLCは,米国の調査会社であるOutsell社に依頼し,図書館職員研修に関する調査を行った。目的は,図書館の研修ニーズを把握し,OCLCがどのようにそのニーズに応えることができるかを,特にウェブを用いた研修に焦点を当てて探ることである。2000年7月から2001年6月までのデータによると,OCLCが系列の図書館サービス機関で行った研修のうち,約3分の1が遠隔研修となっていた。OCLCでは図書館職員のための研修を継続的に行っており,今回の調査に先立つ2002年4月には,「職員育成に果たすOCLCの役割に関する作業部会(Task Force on OCLC’s Role in Staff Development)」を設置している。

 調査は,2002年8月20日から同年9月13日まで,ウェブを通じて行われた。主な対象は,学術図書館,中規模の大学や研究所の図書館,大規模公共図書館,専門図書館とされた。期間内に得られた回答は2,112件で,うち32%は米国外からの回答であった。回答分析は主に,1)需要と市場機会,2)市場浸透と市場機会,3)現在行われている研修,4)研修予算,以上の観点から行われた。以下に分析結果の概要を紹介する。

(1)需要と市場機会について

 現在のところ,講師主導の研修や会議への参加といった伝統的形態に比べ,ウェブなどを用いた新しい形態の研修は普及度も重要性の認識も低い。職員の所属機関もまた,新しい形態の研修よりも伝統的形態の研修に参加する職員をより援助する傾向がある。しかし,ウェブ研修は遠隔学習形式の中では最も普及しており,1年以内にウェブ研修を利用する意思のある人も少なくない。ウェブ研修参加の潜在的な動機は,仕事において専門的能力の開発が要求されていること,という回答者が約5分の1を占める。回答者の3分の1は個人的に能力開発計画を立てており,分野は「情報技術・コンピュータ」が最も多かった。

 1年のうち研修に費やす日数は平均で約5日であり,69%の人は適切な研修機会が得られているという。しかし,専門的能力の開発に必要なだけの時間があるという人は60%で,適切な時期に研修がある,参加に必要な財源があると考える人は半数以下であった。全体としてウェブ研修への需要はあるが,十分な機会が提供されているとは言いがたい。

(2)市場浸透と市場機会について

 ウェブ研修を利用する意思のある人の内訳を見ると,自分以外の職員の研修についても助言や計画ができ,職員の研修の選択に影響を与える立場にある「影響者(influencers)」が59%を占めたのに対し,自分個人が受ける研修についてのみ計画できる立場の「消費者(consumers)」は28%であった。加えて,管理的立場にある人も他の職員より多かった。よってウェブ研修の浸透度を高めるために,「消費者」に直接働きかけるより管理職や「影響者」に働きかける方が効果的かもしれないと指摘されている。また,「影響者」が選んだ職員育成計画の評価基準で最も多かったのは「図書館サービスの質」であったことから,研修を働きかける際には,研修の結果,サービスの質が向上することに焦点を当てるとよいとしている。

 研修の開催情報を得る手段で最も多かったのは専門職の協会(57%),次いで図書館ネットワーク(52%)であった。ここでは研修のマーケティングにおける協会やネットワークとの提携可能性が示唆されている。

 研修テーマごとのニーズについては,所属機関の職員に必要なテーマを尋ねた場合と自分自身に必要なテーマを尋ねた場合とでは結果が違っていたが,双方に共通して需要が高かったのは,「データベース検索」,「図書館マーケティング」,「コンピュータ,ネットワーク,OS」などであった。一方,ある程度需要が高いものの現在受講できない研修のテーマには,「電子図書館構築」,「コレクションの構築と管理」,「図書館の機械化」などが挙げられた。これらが比較的市場浸透率の高いテーマと言うことができるだろう。

(3)現在行われている研修について

 現在最も利用されている研修は,地域の図書館ネットワークの研修(71%),職場内の研修(70%),図書館協会の研修(62%)の順に多く,最も良質と考えられているのは協会の研修である。民間機関の提供する研修を利用しているのは約3分の1である。

 現在の研修に対する考え方をみると,回答者の97%が図書館員のための継続教育には賛成であり,継続教育を受ける第一の理由は「時代の変化についていくこと」とする人が多い。また,「影響者」にとっては「能力格差の縮小」も同様に重要な理由となっている。

 さらに,これまでに受けたウェブ研修に対する満足度は非常に高い。ウェブ研修の利点では,86%が挙げた利便性,費用効果の高さ(82%),ウェブでなければ受講できなかった講座を受講できること(71%)などがあった。問題点では,困難なこととして,時間を作ること(42%),適切な講座を探すこと(32%),費用の獲得(32%),利用できる講座の情報入手(26%)などが上位を占めた。インターネット接続環境などの技術基盤はそれほど問題にされていないことが明らかになった。

(4)研修予算について

 図書館の研修受講のための平均予算額は年12,067ドルで,館の運営予算総額の約0.5%である。翌年の研修予算が削減されると考える人は,増額されると考える人より多い。しかし今後3年間について尋ねると,増額を予測する人の方が多くなっている。

 一人当たりの研修費用については,現在の年平均額は531ドルだが,妥当とみなされた額の平均はそれより高い692ドルであった。一方,ウェブ研修は費用効果が高いとみなされており,妥当とされる額は1回平均171ドルで,講師主導の研修の285ドルに比べて低くなっている。

 OCLCは,この調査報告が,図書館員や研修に関する決定を行う人たちに仕事の助けとなる情報を提供するとともに,研修機会を提供する人たちに図書館のニーズに応えるよう働きかけるものになることを期待している。さらに,前述の作業部会と引き続き協力し,調査結果を今後のOCLCの活動に生かす方法を明らかにしていくとしている。

 調査では,研修に関する様々な問題が挙げられたものの,図書館員の研修意欲は全体的に高いことが窺える。研修提供側だけでなく研修を受ける側にとっても,この調査結果が良い刺激となるのではないだろうか。

関西館事業部図書館協力課:中村 香織(なかむらかおり)

 

Ref.

Wilkie, Katherine. et al. OCLC Library Training and Education Market Needs Assessment Study. Burlingame, Outsell, 2003, 119p.

OCLC. “FY01 Network Training Survey”. (online), available from < http://www.oclc.org/oclc/uc/pdf/Network_Training_Survey_by_B_Juergens.pdf >, (accessd 2003-07-08).

OCLC. “News : OCLC Library Training & Education Market Needs Assessment Study”. (online), available from < http://www.oclc.org/promo/unlimited/edu01b.htm >, (accessd 2003-07-08).

 

2. ドイツの図書館学教育改革

 近年,ドイツでは経済の低迷と州財政の逼迫事情を反映して大学再編が進められ,その余波は司書養成講座の閉鎖や統合にまで及んでいる。以下,変革にさらされるドイツ図書館学教育の動向について報告する。

 ドイツの図書館学教育は,< 1 >専門学校(Fachschule)での職業教育,< 2 >大学での「上級職(gehobener Dienst)」司書教育,< 3 >「高等職(Hoeherer Dienst)」司書教育の3つのレベルに大別できる。高等職とはある学問分野でディプロームやマギステルといった第一学位を得て,その上で図書館学関連課程を修めた司書のことであり,上級職は図書館学関連の学位のみを取得した司書を指す。大規模な図書館で館長や部局長などの職位に就くためには,高等職の資格が必要とされる。

< 1 >専門学校での職業教育

 1998年,情報専門職として「メディアおよび情報サービス職員(Fachangestellten fuer Medien- und Informationsdienste : FaMI)」が新設された。これは,限りなく増え続ける書籍や電子情報の効果的活用に資するため設けられた専門職であり,資料館,図書館,情報と資料,写真や絵画資料,医学関係資料の各領域を対象としている。司書職とは別に養成される。教育期間は3年で,最初の2年間は専門学校で理論面の教育が共通に行われ,3年目から専門領域の教育や実習が始められる。共通講座では,情報選別能力の育成,データベース構築,コミュニケーション・ネットワークの分析,マーケティング理解などが目指される。専門学校以外にも,カールスルーエ情報センター
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やドイツ医学ドキュメンテーション研究所
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などの教育機関で養成が行われている。

< 2 >大学での「上級職」司書教育

 ドイツには351大学(2001年現在)が存在する。このうち次頁に挙げる総合大学1校と専門大学(Fachhochschule : FH)9校に司書養成の講座が置かれている。修学期間は7〜8学期であり,たいていは期間中に半年間の実習が義務づけられる。卒業生はディプローム(専門大学の場合にはディプローム(FH))の学位が与えられ,上級職に就くことができる。

 フランクフルトには1967年から学術図書館高等職および上級職を養成する図書館学校(Bibliotheksschule)が置かれていたが,2000年にこれがダルムシュタット専門大学に統合された。図書館学に関わる教科は「情報および知識マネージメント学科」に取り込まれたが,学術図書館高等職の資格付与は廃止され,上級職に相当する情報経済学士(Diplom- Informationswirt/ -in)(FH)のみが付与されている。

 シュトゥットガルトには,戦後1946年4月という早い時点で南ドイツ図書館学校が再開され,これが1970年の大学組織改編とともに図書館情報専門大学へと移行したのちも,公共図書館司書の養成を中心的に行ってきた。しかし2001年に印刷メディア専門大学と合併し,メディア専門大学と改称されている。

 司書養成の講座の縮小,改編も随所に見られる。ケルンでは,1946年夏から西ドイツ図書館学校が再開され,1949年にはケルン大学にノルトライン・ヴェストファーレン州の図書館司書養成所が置かれた。1971年以降はケルン専門大学で公共図書館司書,ケルン大学で学術図書館高等職・上級職の養成に力が注がれてきたが,近年になってケルン大学における養成課程がなくなり,またケルン専門大学の図書館情報学科は言語学科と統一され「情報・コミュニケーション学科」へと改組された。同学科では図書館学士(Diplom- Bibliothekar/ -in)(FH)や情報経済学士(FH)などの学位を取得することができる。

 司書養成カリキュラムの変更も顕著である。従来のカリキュラムは,公共図書館,学術図書館,専門図書館など図書館制度に則った編成であったが,情報環境の変化を背景に情報やメディア,さらには市場意識が強く反映されるようになった。講座内容の変化にともない,講座名に「図書館制度」や「図書館システム」といった言葉が使われることは稀になっている。

< 3 >「高等職」司書教育

 高等職となるための講座を開講しているのは,目下のところ上記10大学のうちバイエルン行政専門大学だけである。

 これ以外に,修士課程を修了して高等職に就く道もある。ドイツでは1998年に高等教育大綱法(Hochschulrahmengesetz)の第4次改正が行われ,ディプロームやマギステルといったドイツ固有の学位のほか,国際的に通用する修士号(マスター)を取得することができるようになった。ベルリンのフンボルト総合大学やいくつかの専門大学で,図書館学修士の講座が開講されるようになっている。シュトゥットガルトのメディア専門大学でも,図書館およびメディア・マネージメントの分野で「情報・メディアコミュニケーション学修士」の資格講座が用意されている。修士号を持つ者は原則として高等職に就けるが,専門大学で修士号を取得した者は一定の実務経験の上で初めて高等職に任じられる。

 2000年にはノルトライン・ヴェストファーレン州学校・教育・研究省の指導のもと,ケルン専門大学に図書館情報学修士課程が開設された。従来ケルン大学で行われた学術図書館高等職養成に代わり,3学期間で修士号を授与する体制が整えられた。ただし,専門大学でディプローム(FH)の学位を取得していても受講することはできず,大学で学位を取り直すことが要件である。

 このほか,フンボルト総合大学では図書館学分野において博士学位や大学教授資格を得るための研究をすることができる。

東京大学大学院教育学研究科:三浦 太郎(みうらたろう)

 

Ref.

FH Darmstadt. “Informations- und Wissensmanagement an der FH Darmstadt”. (online), available from < http://www.iud.fh-darmstadt.de/fachbereich/nfd_artikel_2002.htm >, (accessed 2003-07-10).

FH Stuttgart. “Geschichte der HdM”. (online), available from < http://www.hdm-stuttgart.de/hochschule/geschichte/ >, (accessed 2003-07-10).

Rohde, Renate. “Zur Geschichte der bibliothekswissenschaftlichen Ausbildung in Berlin”. (online), available from < http://www.ib.hu-berlin.de/inf/geschbw.htm >, (accessed 2003-07-10).

FH Koeln. “Librarianship and Information Science”. (online), available from < http://www.fh-koeln.de/english/institutions/dep22/22Bibwesen.htm >, (accessed 2003-07-10).

Peisert, Hansgertほか(小松親次郎ほか訳). ドイツの高等教育システム. 東京, 玉川大学出版部, 1997, 290p.

Teichler, Ulrich(山崎博敏編訳). ドイツの高等教育制度と卒業生の雇用.広島大学大学教育研究センター,2000,79p.

Vodosek, Peter(金城まりえほか訳). ドイツにおける図書館司書の養成教育. 京都大学生涯教育学・図書館情報学研究. (2), 2003, 171-192.

Krauss-Leichert, Ute(吉次基宣訳). 変革期のドイツ司書教育. Doitsu-lis. (3), (メーリングリスト), 入手先 < yoshitsugu@tokyo.goethe.org >, (入手2003-04-12).

 

3. フランスにおける司書教育のあり方をめぐって −DCBの評価−

 国立高等情報科学図書館学校(Ecole nationale superieure des sciences de l’information et des bibliotheques: Enssib)における教育のあり方について,2000年から2年にわたって再検討が行われた。

 Enssibは,1992年に国立高等図書館学校(Ecole nationale superieure des bibliothecaires: Ensb。1964年創設)の後を受けて発足したフランスで唯一の図書館管理職養成のための高等専門教育機関で,図書館上級司書免許(Diplome de conservateur de bibliotheque: DCB)等の資格取得を目的とした教育を行っている。

 さて,Enssibの核とも言うべきDCBの教育内容については,当初より,在校生,卒業生のみならず図書館界や関係省庁からも厳しい批判の声が挙がっていた。Enssibではこうした状況を踏まえてDCBの評価への着手を決定し,1994年,ボルドー市立図書館長ボティノー(Pierre Botineau)氏を座長とするワーキング・グループが設置された。グループは翌年『DCB:そのカリキュラムの評価』と題する報告書を提出,教育は重大な機能不全に陥っており,将来の上級司書を養成するにはあまりに不十分であることを指摘した。そして,より構造化された,一貫性のある,明確な教育計画を目指すよう勧告するとともに,Enssibは自己点検・自己評価できる手段を持つことが必要であると結論づけた。Enssibでは,グループの提言に従ってDCB刷新の努力を続けること,という1999年から2002年期の文化通信省との取り決めに従い,学術委員会の中に3つの委員会(DCB検討委員会,図書館員の初期教育検討委員会,図書館員の継続教育検討委員会)を設置した。「真の教育スタッフの構築」,「学生一人一人の要望にあわせた教育」を実現するためである。

 DCB検討委員会は,国民教育省の図書館監督官ゴーティエ=ジャンテス(Jean-Luc Gautier-Gentes)氏を座長とし,2000年から2002年にかけて5回にわたって開かれた。委員会では,学校側が作成した資料を参考にしながら,DCB第10期生76名(2001年−2002年期。教育期間は18か月)に適用される教育の評価を行い,Enssibの学術委員会に報告書を提出した。

 女性が多いこと,ほとんどが文科系であるという共通点を除けば,年齢,経歴,知識,図書館での勤務経験の有無も様々な10期生への教育評価,提言は以下のようなものである。

  1. 教育目標:「DCB取得者は教育課程修了後,どんな能力を身につけているべきか」についてEnssibは明確に答えられず,「上級司書」の標準的な定義を示すことができなかった。
  2. 教育の状況:授業,実習,研修は,一見バランスの取れた配置になっている。また,学校における研究活動の経験は,将来上級司書となる学生にとっては不可欠なものであるが,その意味が学生たちによく理解されておらず,教育課程の最後に提出する研究報告も,単なる報告や調査と研究が混同されている。学校と指導教官の注意が必要である。Enssibでは技術のための技術の教育が先行し,理論と研究がなおざりにされており,それが学校に危機的状況をもたらしている。
  3. 教育課程の構成:8つのユニットに分けられた教育課程は,そのこと自体に異論はないにしても,統一性と一貫性を欠く危険性がある。
  4. 教育課程の内容:以下のテーマの欠如,あるいは存在の希薄さ。「図書館の使命」,「図書館の行政的・法的背景」,「図書館員としての職業倫理」,「図書館員という職業の展望」,「マネジメント,特に人事管理」,「図書館に勤務する職員の身分規定と管理」,「公衆とサービス」,「相互協力」,「報告と評価」。実情にあっていない「図書館資料」と,単なる技術的アプローチに終わっている「情報学」の2つの科目。また,授業の中で大学図書館に比べて地方自治体の図書館が低く扱われているとの指摘が学生からあった。
  5. 教育スタッフ:学校に勤務する教育スタッフが図書館の日常業務を知ることは大切である。定期的な教育スタッフの入れ替えが,Enssibにとっても関係者にとっても望ましい。
  6. 監視と評価の手段:Enssibは委員会に「図書館職監視委員会」の創設を提案した(ここでいう「図書館職」とは,Enssibを卒業した上級職の司書を指す)。Enssibでは図書館職に関する研究は未発達であり,是非準備をすすめてもらいたい。

 委員会の教育評価,提言は上記のボティノー・ワーキング・グループのそれをかなり色濃く反映している。教育のより一層の専門化,理論と実践のバランスをとること,いくつかの基礎的な領域についての教育の構造化などである。

 委員会がその任期の間に取り上げられなかった,入学試験,学校の中での研究活動の位置,必修教育と選択教育との配分などは,今後の検討課題となった。

恵泉女学園大学図書館:山形 八千代(やまがたやちよ)

 

Ref.

Gautier-Gentes, Jean-Luc. Evaluation du diplome de conservateur. Bull Bibl Fr. 48(1), 2003, 16-27.

Gautier-Gentes, Jean-Luc et al. “Recrutement des personnels de categorie A”. (online), available from < http://www.education.gouv.fr/syst/igb/thematiques/thematiques2001.htm >, (accessed 2003-05-20).

Comite national d’evaluation (CNE). L’Ecole nationale superieure des sciences de l’information et des bibliotheques. Profil. (10), 1997, (online), available from < http://www.cne-evaluation.fr/WCNE_pdf/profil10.pdf >, (accessed 2003-05-22).

Comite national d’evaluation(CNE). L’Ecole nationale superieure des sciences de l’information et des bibliotheques: Rapport d’evaluation. 1996, (online), available from < http://www.cne-evaluation.fr/WCNE_pdf/ENSSIB.pdf >, (accessed 2003-06-15).

 

4. オランダTicerの研修プログラム

 「あなたなら,この大学を,この図書館を再建するために何をしますか?どのようなアドバイスができますか?」2002年7月大阪で開催されたTicerの「明日のリーダーのためのデジタル・ライブラリー管理」セミナーで,ワークショップはこのような問いかけで幕を開けた。デジタル時代における図書館員の役割を考察すべく,また電子図書館構築に向け先進的な取組みを進めているTicerを紹介する。

(1)Ticer設立の歴史・経緯−ティルブルグ大学との関係−

 Ticer(Tilburg Innovation Centre for Electronic Resources)B.V.は,オランダのティルブルグ大学が100%出資して設立した民間会社である。オランダ南部のティルブルグ市にあるティルブルグ大学(Katholieke Universiteit Brabant)は,ヨーロッパでも早くから電子図書館構想を戦略的に推進してきた大学として知られている。「ユーザのデスクトップから電子情報へのアクセスを」をスローガンに,1992年に新図書館を建築した際,館内に450台の利用者用ワークステーションを設置し,様々な電子情報源をすべての学内構成員に開放した。電子図書館構築に向けたプロジェクトは,図書館員だけではなく,計算機センターのスタッフもメンバーとして加わったことが成功の一因であった。

 その後,33を超える国々から,ティルブルグ大学における電子図書館の取り組みやITインフラ整備に関して見学が相次いだ。増加するその要求を満たすべく,大学とは別の組織で請け負うことを可能にするために,1995年,図書館と計算機センターが共同で設立したのがTicerである。現在では年間50万ドルを超える利益があり,それらは大学内での新たな取り組みの原資となっている。

(2)Ticerの活動内容

 当初,ティルブルグ大学への見学者に対応するために設立されたTicerであったが,現在ではその活動内容を大きく広げ,各種セミナーの開催や図書館業務のコンサルタントを主な業務としている。

 設立の翌年には,ティルブルグ大学を会場としたサマースクールが57人の参加者を得て開催された。ティルブルグ大学で開催するメリットとして以下の点が認識されている。

  • 図書館や事務室内を見学しながら,コースを進められること
  • 学内の情報基盤を活用して,セミナーが進められること
  • ティルブルグ大学の図書館員や計算機センター職員と直接議論する機会が持てること

 以降サマースクールは毎年開催されており,内容は技術的なものから,デジタル・ライブラリー構築に向けた事例研究へとシフトしてきている。

 同時に,Ticerでは世界各国でセミナーも開催している。こちらはサマースクールよりも短期間で,テーマも限定して開催されている。

(3)「明日のリーダーのためのデジタル・ライブラリ管理」セミナーに参加して

 2002年7月,アジア地区としては初めてのTicerセミナーが,ソウル,東京,大阪で開催された。エルゼビア・サイエンス社との共催で,ティルブルグ大学図書館長,カリフォルニア大学バークレー校図書館副館長,スウェーデン国立図書館の図書館員による講義およびワークショップが行われた。講義の中で,カリフォルニア大学バークレー校においては,図書館の役割を文書の配信およびレファレンスのゲートウェイと置き,単なる倉庫としての役割ではなく,空間や場所にとらわれないサービスを提供しているという内容が非常に印象に残った。

 ここで冒頭の問いかけに戻ることになる。どこの大学でも直面しがちなシチュエーションを与えられた架空の大学について,図書館機能の建て直しに向け,セミナーの参加者自身がコンサルタントとして,図書館と学習支援施設の今後のビジョンを提示し,それを実現するための提案を行うというものである。5〜8人ずつのグループに分かれ,提案書をまとめた上で,各グループ5分程度でプレゼンテーションを行うという形で進められた。討議をはじめる前に,ティルブルグ大学図書館長より「出来るだけシンプル,かつゲーム感覚あふれる提案にしてほしい」とのコメントもあった。

 セミナーへは,大学図書館だけではなく専門図書館からも参加していたため,様々な立場から討論を行うことができた。課題は非常に難しく,即座に答えの出るものではなかったが,このワークショップを通して,自らのユーザを知りそのニーズをつかむことの重要性を再認識し,ニーズをビジョンへと昇華させる経験をすることができた。

 Ticerが目指しているのは,まさにこの点で,自ら戦略を立て,能動的に,自らの手で図書館を運営し得る図書館員を育成することであり,これを達成するために,経営的な視点を現場に提供しうるカリキュラムが各種セミナーで組まれているのである。

 ここで再度,自分自身に問いかけたい。「私なら,この大学を,この図書館を活性化させるためにどのようなプランが考えられるだろうか?」

立命館大学総合情報センター:石井 奈穂子(いしいなほこ)

 

Ref.

Geleijnse, Hans. et al. Developing the library of the future : the Tilburg experience. 2nd rev. ed. Tilburg University Press, 1996, 125p.

Prinsen, Jola G.B. The International Summer School on the Digital Library: Experiences and Plans for the Future. D-Lib Magazine. 5(10), 1999. (online), available from < http://www.dlib.org/dlib/october99/prinsen/10prinsen.html >, (accessed 2003-07-01).

Roes, Hans. Digital Libraries and Education. D-lib Magazine. 7(7/8), 2001. (online), available from < http://www.dlib.org/dlib/july01/roes/07roes.html >, (accessed 2003-06-25).

永田治樹. 大学におけるディジタル図書館−英国並びにオランダの大学図書館での試み. ディジタル図書館. (5), 1995, 19-28. (online), available from < http://www.dl.ulis.ac.jp/DLjournal/No_5/nagata/nagata.html >, (accessed 2003-06-26).

 

5. 台湾国家図書館の遠隔教育プログラム

 台湾行政院の教育部は1998年を「生涯学習年」とし,理念を形にするため『学習社会推進白書(邁向学習社会白皮書)』を公布し,生涯学習を社会目標とした。同時に,現代の高度情報化社会においては,市民の情報リテラシーの向上が必要であり,それには図書館情報の効率的な利用が不可欠であるとして,国家図書館(CA1083参照),中国図書館学会,各大学図書館情報学部,各種図書館,各教育機関が共同で市民の生涯学習と情報リテラシー教育に積極的に貢献していく方針を固めた。

 台湾では,インターネット人口が2000年末にはすでに626万人(全人口の27%)を超え,インターネットを通じた遠隔教育が盛んに行われている。その中で,国家図書館は2000年に「情報リテラシーおよび図書館情報学専攻遠隔教育開始協同計画(合作建置資訊素養及圖書資訊學專業非同◆遠距教學計畫)」を策定した。計画書では以下の3点に重点が置かれている。

  • 市民の情報リテラシー向上による国際競争力の増強
  • 情報科学技術による学習環境の地域格差の縮小
  • 遠隔教育の基盤システムの構築,他機関との協力によるカリキュラムの作成

 この計画書に基づき,遠隔教育プログラム「国家図書館遠距学園」を2000年12月に発表した。

 この国家図書館遠距学園は他の遠隔教育システムとは異なり全て無料で提供されている。すなわちインターネットに接続して国家図書館遠距学園のホームページにアクセスさえできれば,いつでも自由に学習を開始することができる。また,各講座は開設から最低5年間保存され,その間はいつでも利用することができる。

 創設当初は,小学生以下の子どもや一般向けの図書館情報リテラシー講座や教養講座が開設された。しかし,市民すなわち図書館利用者のより高度な要求に応えるためには,図書館員はより専門的な能力と最新の知識を身につける必要があるとし,国家図書館は2001年に「図書館情報リテラシーおよび図書館情報学専攻課程遠隔教育開始計画(建置圖書資訊利用素養及圖書資訊學專業課程非同遠距教學計畫)」を策定し,図書館員を対象としたカリキュラムを開設した。

 図書館員を対象に公開されているのは,「図書館情報学専攻課程」と「遠隔教育または図書館情報学シンポジウム・セミナー課程」である。これらは一般向け講座と同様にいつでも無料で受講・聴講でき,図書館員は日常業務に従事しながら専門能力を高め,進んだ学術スキルを身につけることができるようになっている。なお図書館員を対象にしているが,図書館情報学を専攻している学生が日頃の学習の補助として受講することも可能である。

 遠距学園では学生登録をしなくても全講座について聴講ができるようになっているが,ハンドルネームや電子メールアドレス等を登録すると,各講座の試験が受験できたり,教師や他の受講生との討論に参加できるようになる。また受講生個人のページに受講講座の履修進度や試験の点数などが表示され,学習に役立てることができるようになっている。

 「図書館情報学専攻課程」のうち2003年7月現在受講が可能な講座は,「利用者サービス」「レファレンスサービスとレファレンス情報源」など基礎的な図書館情報学の講座や,「ビデオ・マルチメディア資料製作および保管管理」「中国語の文字セットと文字コード」など比較的新しいテーマに関する講座の計10科目である。各講座とも10章前後に分かれており,基本理論から実務,図書館界の進展動向までの解説がなされている。各章はPowerPointなどの講義のレジュメと講義の音声映像ファイルからなる。講師は主に台湾各大学の図書館情報学あるいは関連分野の教員と国家図書館の職員が担当している。

 「遠隔教育または図書館情報学シンポジウム・セミナー課程」では,過去に関係学会などで行われた各シンポジウム・セミナーの講演や討論のレジュメと音声映像ファイルが公開されている。

 2002年12月には,インターネットへの接続が困難な地域に対する配慮と国家図書館遠隔教育課程の一層の普及を目的とし,「図書館情報学専攻課程」の講義をまとめたCD-ROMが出版された。

 生涯学習に対する関心が高まるなか,図書館はどのような役割を負うべきか,また,時代の変化に対応できる図書館員をどのように養成していくべきかという,図書館が現在直面する二つの問題に対して,台湾の国家図書館の取り組みはわが国にとっても大いに参考になることであろう。

関西館資料部アジア情報課:刈田 朋子(かりたともこ)

 

Ref.

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中村香織, 三浦太郎, 山形八千代, 石井奈穂子, 刈田朋子. 図書館員教育の国際動向. カレントアウェアネス. 2003, (277), p.12-18.
http://current.ndl.go.jp/ca1505