CA1425 – 英国図書館「新しい戦略の方向」 / 田中誠

カレントアウェアネス
No.266 2001.10.20


CA1425

英国図書館「新しい戦略の方向」

英国図書館(BL)は今年6月13日,将来構想「新しい戦略の方向(New Strategic Directions)」を発表した。今後5年から7年を見すえて作成されたこの文書は,デジタル図書館サービスと他機関との協同を特徴としていた「戦略計画1999-2002(Strategic Plan for 1999 to 2002)」(1999年発表)をより進展させた内容となっている。発表にあたってブリンドリー(Lynne Brindley)館長は次のように述べている。「当館は常に様々なサービスで全国的な図書館システムを支えてきた。この文書は,将来においても図書館界との関係を維持するためにそれらのサービスが変化してゆくことを提案している。この戦略は我々と,我々がより密接に協同することを求めているすべての図書館にとっての挑戦である。」

将来構想の中心となるのは,三つの「実現戦略(Enabling strategies)」と,二つの「主要戦略(Main strategies)」である。「実現戦略」の第一として挙げられている「利用者戦略」では,BLが供給するものの価値や目的にかなうよう利用者と相互協力する,サービスの利用可能性と適切性を高めることにより利用者層を拡大する,とされている。具体的事業としては,利用者にとって価値のあるサービスがより容易に利用できるよう,サービス提供の総合的な手法を開発することなどが挙げられている。

第二の「実現戦略」である「パートナーシップ戦略」では,BLの活動に利害関係を持つ組織と効果的な協力関係を構築,維持する,とされている。具体的事業としては,すでにある協同関係を確固たるものとし,特に重要なものについては,より関係を深めてゆくことなどが挙げられている。

第三の「実現戦略」は「Web戦略」である。それが適切な場合には,利用者の要望に沿って旧来型のサービスをインターネットに移行させる,インターネットなしではできない新たなサービスを提供する,インターネットを通じて利用者層を拡大する,とされている。具体的事業としては,インターネットをBL全体の最新情報の一次的情報源として用いること,必要な文献・情報の申込から他機関等への依頼の回付まで,情報探索の過程すべてを支えるインターネットによるサービスを開発することなどが挙げられている。

これら「実現戦略」が目標を示したものだとすれば,「主要戦略」は手法を示したものといえる。「主要戦略」の第一は「コレクション戦略」であり,現在および将来の世代のために可能な限り完全なものとなるよう,英国内出版物の収集範囲を広げる,電子形態で出版されるものが増加することを踏まえ,電子出版物の収集を増やす,利用者のニーズに注目しながら,調査用資料の収集・提供・保存において,利用可能な資料の幅を広げるために他の図書館との連携を強化する,とされている。なかでも,利用頻度の調査結果をもとに,利用の少ない資料を提供する責任は他の図書館と分担できるとし,資料の選択的収集および他の図書館と協同して分散的な利用提供を行うとする点が注目される。

「主要戦略」の第二は「アクセス戦略」である。ここでは,BLのコレクションをより多くの人が自分の都合のよいときに都合のよい方法で利用できるようなアクセスを可能にする,利用者のニーズの変化に合わせ,別の提供方法があるサービスは見直す,館種を問わず他の図書館と協同することにより英国全体の図書館サービスの提供に貢献する,世界的な図書館ネットワークの一部として英国内外の資源を提供できるようにする,学習と娯楽の機会の提供を拡大する,とされている。

また,これらの主要戦略の実現のために,以下のような方向転換が図られる――(1)自前の収集・保存・記録から協同へ,(2)外国語資料の広範な収集から集中的収集へ,(3)コレクションの重視からアクセス手段の改善によるその価値の顕在化へ,(4)他機関の資源への限定的なアクセス提供からアクセス提供の拡大へ,(5)媒介者としての図書館員の重視からインターネットを通じて直接利用できるようになった研究者や情報探索を行う人々の重視へ,(6)一般公衆への限定的サービス提供からコレクションをより広範に楽しんでもらうことへ。

以上のような内容に加えて,この文書では,将来構想を支える基盤として,人的資源,情報システム,施設にも言及している。さらに,財政の問題にも触れている。

この文書が発表されると,タイムズ紙は「BLは網羅的な収集・保存政策を終わりにするかもしれない」との見出しで記事を掲載した。この記事では,分散的な収集・提供方針に対して,国民を失望させるものだとする常連の利用者の意見と,場所と資源の制約を理由に「我々は何もかもを行うことはできない」とするBLの広報担当者の発言が紹介されている。

また,この文書の発表と同時にBLは,将来構想について,利用者や図書館など広く関係者に対し,インターネットなどを通じてアンケート調査を行った。8月3日に締め切られたこの調査には5,500に上る回答が寄せられ,結果はまとまりしだい公表される予定になっている。

田中 誠(たなかまこと)

Ref: BL. New Strategic Directions. [http://www.bl.uk/shape.html] (last access 2001. 8. 31)
The Times 2001. 6. 14