CA1360 – 英米における研修の最新動向−遠隔研修を中心に− / 大城善盛

カレントアウェアネス
No.257 2001.01.20


CA1360

英米における研修の最新動向―遠隔教育を中心に―

図書館員をはじめとする図書館・情報のスペシャリストに対する研修の重要性については,継続専門職教育(continuing professional education)ラウンドテーブルが設置されるくらいIFLAで早くから認識されている。そのラウンドテーブルは,1997年に第3回国際会議をコペンハーゲンで開催し,第4回を2001年にボストンで開催することになっている。また,「継続専門職教育」は1999年にバンコクで開催されたIFLA大会の全体会における講演テーマにもなっており,講演者ワインガンド(D. E. Weingand)氏は研修の必要性として,情報サービスの世界は競争的であり,図書館は他の機関よりも,よりよく,より速く,より安いサービスをしなければならないことを挙げている。図書館情報学の学位(学士や修士)の効力はせいぜい3年程度であるので,能力を維持することと新しい技能を学ぶことの2点はすべての図書館員等に課された最優先事項である,と論じている。そして,研修の方法としては,教育機関の正式科目,ワークショップやセミナーに参加する方法などがあるが,それらは実際の教室で行われる場合と遠隔教育で行われる場合とがあるという。

最近の情報技術の急速な進展により,欧米の高等教育界では遠隔教育が急速に広まってきている。米国の国立教育統計センターは1997年時点での遠隔教育の状況を調査し,報告書を出している。それによると,米国では44%の高等教育機関が遠隔教育を実施している。そして,遠隔教育を行っているすべての機関でインターネット技術が利用されている。

Peterson社のデータベース,'Distance Learning'(http://www.petersons.com/dlearn/)をキーワード「図書館学」で検索すると,15以上の大学がヒットする。その中で,イリノイ大学やシラキュース大学など5つの大学で遠隔学習により修士号を取得することが可能である。また,ユタ州立大学とニューファンドランド・メモリアル大学(Memorial University of Newfoundland)では,スクーリングやオリエンテーションなしの完全なWeb授業のみで資格を取得することができる。すなわち,北米ではWeb授業の発達により,学位や資格の取得をめざそうと,または単に科目履修を目的としようと,職場で働きながら研修が受けられるような環境が整ってきている。

英国では1996年に,英国図書館がインターネットを利用した図書館員等の研修について調査を行い,報告書を出している。調査の背景として,インターネットによる研修は,仲間からの孤立,時間的・地理的制約,主題領域における知識の分散化,職場における専門化などの問題を解決できることが指摘されている。調査は,世界の主たる200の図書館情報学教育機関を対象に行われ,71機関から回答が寄せられた。71機関のうち70%が研修プログラム,40%が遠隔研修プログラムを実施している。実施形態は短期講座が多く,テーマは専門主題と情報技術が多い。また,電子メール,ゴーファー,フォーラムなどのインターネット技術が使われている(1996年時点ではWeb形態は未発達である)。報告書で他に注目すべき点は,全般に専門職研修の重要性はあまり認識されておらず,専門職団体が積極的に動くべきだ,という指摘である。

その後,英国でも情報技術の進展はめざましく,1998年には,図書館員等を対象とした対面(授業)なしのWebのみによる遠隔研修が登場している。これは,NetLinkSというプロジェクトの一部として,シェフィールド大学で行われているものである。

同志社大学文学部:大城 善盛(おおしろぜんせい)

Ref: Weingand, D.E. Describing the elephant: what is continuing professional education? IFLA J 26(3) 198-202, 2000
Lewis, L. et al. Distance Education at Postsecondary Education Institutions: 1997-98. U.S. Dept. of Education.1999.12.[http://nces.ed.gov/pubs2000/2000013.pdf] (last access 2000.9.10)
Leach, K. et al. The Use of Information Networking for Continuing Professional Development. British Library Research and Development Department. 1996. 85p
Levy, P. An example of Internet-based continuing professional development: perspective on course design and participation. Educ Inf 17(1) 45-58, 1999