E913 – ALA,「過去1年間で最も優れた英語の図書館研究論文」を発表

カレントアウェアネス-E

No.148 2009.04.22

 

 E913

ALA,「過去1年間で最も優れた英語の図書館研究論文」を発表

 

 米国図書館協会(ALA)の図書館研究ラウンドテーブル(LRRT)はこのほど,過去1年間に出版された英語の図書館研究論文のうち,最も優れたものに贈られる賞“Jesse H. Shera Award for Distinguished Published Research”の2009年の受賞論文を発表した。受賞したのは,“Library Quarterly”誌の78(3)号に掲載された,テキサス大学情報学部のウェストブルック(Lynn Westbrook)助教による「文脈内における危機情報ニーズの理解:親密なパートナーによる暴力からの生還者の場合」(Understanding Crisis Information Needs in Context: The Case of Intimate Partner Violence Survivors)である。

 親密な関係のパートナーによる暴力(IPV)の被害者は後を絶たない。この論文に引用されている数値によると,米国の18歳以上の女性のうち,毎年約530万人がその被害に遭っているという。ウェストブルック助教は,IPV被害者にとって,仕事,医療,メンタルヘルス,公営住宅,刑事裁判などの社会サービスに関する情報は必須であるものの,そうした情報へのアクセスが十分に保証されているとはいえないことを指摘する。さらに,公共図書館はコミュニティの情報アクセスを支援する重要な公共機関であるにもかかわらず,一般的にその機能が十分活用されていないことに着目し,今後公共図書館がIPV被害者に対して効果的なサービスを提供するのに資するため,IPV被害者特有の複雑な情報ニーズを深く理解することをこの研究の主眼としている。

 この目的のため,ウェストブルック助教は,IPV被害者のコミュニティによるインターネット掲示板への書き込みと,57人の関係者(避難施設のスタッフ,IPVからの生還者,警察官など)に対するインタビューの2種類の研究データを収集し,集めたデータを,公共図書館サービスと関連付けながら,「日常生活における情報探索理論」(everyday life information seeking theory:ELIS theory)に照らして分析している。この結果得られた知見は,IPVの5つの状況(「虐待の確認」「警察への最初の接触」「避難施設への最初の接触」「離別の準備」「避難施設退所後」)のそれぞれにおける,被害者の情報ニーズ,情緒的課題,必要とされる専門知識,情報源として整理されている。例えば「虐待の確認」では,

  • 情報ニーズ…虐待に関する社会的・法的規範の理解
  • 情緒的課題…羞恥,罪の意識,(加害者が変化することへの)希望
  • 専門知識…虐待のサイクル,刑法
  • 情報源…ウェブサイト,書籍,IPV生還者,カウンセラー

と整理することができる。そして,IPV被害者はそれぞれの状況を順序立てて移行していくわけではない。場合によって色々な局面の間を行き来し,それに応じて情報ニーズも変化していく点を特徴としている。

 IPV被害者の情報ニーズを分析,整理した上でウェストブルック助教は,図書館がIPV被害者に必要な情報を提供できる施設へと変貌していくために必要な条件として,「地域の社会サービスに関するデータベース整備」「IPV被害者に配慮した図書館のポリシーやサービスの展開」「図書館スタッフの訓練」の3つを挙げている。

Ref:
http://www.journals.uchicago.edu/doi/abs/10.1086/588443
http://www.ala.org/ala/newspresscenter/news/pressreleases2009/march2009/orsshera.cfm
http://www.ala.org/ala/mgrps/rts/lrrt/index.cfm