CA882 – ECにおけるデータベースの法的保護の検討状況 / 篠原ミカ

カレントアウェアネス
No.166 1993.06.20


CA882

ECにおけるデータベースの法的保護の検討状況

ECでは現在,欧州統合の動きを背景に,著作権にかかわる各種の分野についてもハーモナイゼーションが図られている。すでに採択された,「コンピュータ・プログラムの法的保護に関する指令」(1991年5月14日採択),「貸与権および貸出権ならびに知的所有権の分野における著作権に関連する一定の権利に関する指令」(1992年11月19日採択)をはじめ,著作権にかかわるいくつかの指令が検討されている。

データベースについても1992年4月15日,EC委員会はその法的保護に関する指令を理事会が発するよう求める提案を,理事会に対して行った。この委員会提案による指令案は,前文と本文14条から成っている。

この指令案の第1条において,データベースは次のように定義されている。

「データベースとは,電子的手段を用いて配列,蓄積およびアクセスされる,著作物またはデータの集合物ならびにシソーラス,インデックス,情報の入手または表示のためのシステム等データベース操作に必要な電子的データをいう。データベースの作成または操作において使用されるいかなるコンピュータ・プログラムもこれに該当しない。」

データベースは,「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」の第2条第5項の定める編集物として,著作権によって保護される(指令案第2条第1項,以下指令案の条文を示す)。さらに,データベースが著作権による保護を受けるためには,独創性,つまりデータベースのデータの「選択または配列」に関して作成者本人の「知的創作性」が必要とされる(第2条第3項)。この点については1992年11月24日に経済社会評議会が採択した指令案についての意見の中で,「知的創作性」が認められない,いわゆる「額に汗」して作成されたデータベースにも,商業目的の複製対象となる程のものであれば,それ相応の労力と費用を要しており,著作権による保護を認めるべきではないかと指摘されている。

この指令案が定めるデータベースの保護は,データベースを構成する個々の著作物またはデータに関する権利になんらの影響を与えるものではない(第2条第4項)。個々のデータが著作権または著作隣接権等によってすでに保護を受けている場合には,データに対する著作権等が,データベース自体の保護とは別に認められている(第4条第2項)。

この指令案の大きな特徴は,データベースの個々のデータが著作権等によって保護されていない場合に,新しい特別の「不正な抽出を阻止する権利」を設けて,データベースの作成者の同意を得ずに,商業目的をもって,データベースから全データまたは「実質的な」部分のデータを抽出することを防止する権利を,データベース作成者に認めたことにある。この権利は,データベース自体が著作権によって保護されているか否かに関わらない(第2条第5項)。「不正な抽出を阻止する権利」の保護期間はデータベース自体の公開後10年である(第9条第3項)。前述した経済社会評議会の意見においては,新しいデータが徐々に追加されていくというデータベースの性質上,保護期間については個々のデータごとに決められるべきであると指摘されている。

この「不正な抽出を阻止する権利」が制限され,第三者の要請があればデータを抽出して利用する権利を与えなければならない場合が第8条に規定されている。データベースが公開されていて,かつ他に情報源がないとき(第8条第1項),情報提供を行う公共機関によって作成,公開されているとき(第8条第2項)である。

著作権に対するECの主要な関心は,著作権の経済的側面,とりわけEC内の関連産業の発展をはかることに向けられている。上記経済社会評議会の意見においては,新しい「不正な抽出を阻止する権利」はECのデータベース産業の発展にとって必要な保護を提供していない。新しい独立した権利としてではなく,データベースの「著作権」に組み入れることによって,十分な保護を与えるべきである。あるいは独立した権利として残す場合でも,著作権並みの保護期間を保障し,第8条第1項の制限規定については,これを外して不正競争防止の観点から対応することが望ましいと強調されている。

この指令案の中には上記のほかに,データベースの著作者(第3条),データベースの著作権(第5条),データベースの著作権の制限(第6条,第7条)等の規定が設けられている。データベースに限定されない,著作権全般にかかわる一般的な問題は,この指令案においては扱われていない。

篠原ミカ(しのはらみか)

Ref: Proposal for a Council Directive on the legal protection of databases. OJC 156, 23. 6. 1992; COM (92) 24 final-SYN393
Opinion on the proposal for a Council Directive on the legal protection of databases. OJC 19, 25. 1. 93
Oppenheim, Charles. Legal issues for information professionals.Part II. The new European Draft Directive on database copyright. Information Services & Use 12 (3) 275-282, 1992
Liedes, Jukka ヨーロッパにおける著作権の発展−ヨーロッパ共同体とヨーロッパ経済地域における著作権発展の現状−コピライト32 (12) 2-7, 1993