カレントアウェアネス-E
No.112 2007.08.29
E674
大きいリポジトリ,良いリポジトリ? <文献紹介>
Carr, Leslie ; Brody, Tim. Size Isn’t Everything: Sustainable Repositories as Evidenced by Sustainable Deposit Profiles. D-Lib Magazine. July/August 2007, 13(7/8). http://www.dlib.org/dlib/july07/carr/07carr.html, (参照2007-08-28).
現時点では,機関リポジトリの評価指標として,登録されているアイテム数が最も一般的に用いられている。しかしながら,「リポジトリとは大学がそのコミュニティの構成員に提供するものである」という立場に立ち,「コミュニティの構成員にどれだけ受け入れられているのか」を指標とすべきであるという考えもある。
サウサンプトン大学のカー(Leslie Carr)とブロディ(Tim Brody)はこの立場から,「継続してリポジトリにアイテムが登録されていれば,そのリポジトリはうまくコミュニティに受け入れられている」とする。そして,リポジトリにアイテムが登録された総日数(登録日数)および分野の広がりを指標として,ROAR(Registry of Open Access Repositories)に登録されている登録アイテム数が上位の20リポジトリを対象に,2006年分のデータの分 析を行った。
この分析によると,登録アイテム数が18万と世界最多のケンブリッジ大学のリポジトリは,ごく短期間に大量に登録されたものであり,分野も偏っている。したがって継続的な登録の成果とはいえない。一方,サウサンプトン大学のリポジトリは日常的に継続して多分野にわたってアイテムが登録されており,その数も順調に増えている。興味深いことに,ROARに登録されているリポジトリを登録日数を基準にして再ランク化すると,登録アイテム数上位20に入っていたリポジトリのうち12がランク外になり,より小規模なリポジトリがランクインするという。
継続的な運営と成長による持続可能なリポジトリが望ましいと考えるならば,単に登録アイテム数だけではなく,登録日数の多さも重要な指標となろう。また総合大学と単科大学,文科系の大学と理科系の大学では,生産される研究成果の種類や量は当然異なるため,設置された機関リポジトリを単純に登録アイテム数だけで比較してもそれほど意味はなかろう。このような観点から見ると,「単に登録レコード件数の増加だけではなく,リポジトリ構築,利用にかかる諸活動を総合的に評価する」として,「リポジトリ構築運用に係る整備状況」,「コンテンツ収集・利用の促進に関する活動」,「インプット」,「アウトプット」を評価項目とした機関リポジトリの評価システムを開発している日本の千葉大学と三重大学の取り組みは,大いに注目される。
(慶應義塾大学非常勤講師:三根慎二)
Ref:
http://roar.eprints.org/
http://www.dspace.cam.ac.uk/
http://eprints.soton.ac.uk/
http://www.nii.ac.jp/irp/info/2006/debrief/4-5chibadai.pdf