E378 – WIPO開発アジェンダをめぐる議論

カレントアウェアネス-E

No.66 2005.09.21

 

 E378

WIPO開発アジェンダをめぐる議論

 

 8月16日,国際図書館連盟(IFLA)と図書館電子情報財団(eIFL)は共同のプレスリリースを発表し,世界知的所有権機関(WIPO)の今後の方針を話し合う政府間調停会合が不調に終わったことへの失望を表明した。

 会合は,2004年のWIPO総会でアルゼンチン等が提案した開発アジェンダ(E253参照)を議論する目的で設置されたもので,各国政府やNGOが参加して,2005年4月から7月にかけて3回開かれたものである。開発アジェンダは,発展途上国に配慮した知的財産権制度の構築,権利者と利用者の権利保護のバランスを図ることなどにWIPOの活動をシフトさせるもので,著作権制度や特許権制度を含む知的財産権制度全体の枠組みを見直す壮大な試みである。

 その中で,中心的な検討課題となったのは「知識へのアクセス(Access to Knowledge: A2K)協定」の呼びかけであった。A2K協定は,知的財産の私有化,情報の囲い込みの傾向を批判し,この情報社会,デジタル環境の中で新しい創造,技術革新,教育・研究,経済発展を促すため,情報へのアクセスの権利を明確に保障しようとするものである。ジュネーブ宣言(CA1562参照)の流れをくむ,研究者や市民団体,各国政府関係者によって構想され,草案も作成されている。IFLAも会合に参加し,権利者側と利用者側のインターフェイスとなってきた図書館にとっても,著作権の例外・権利制限規定を明確に位置付けようとするA2K協定は重要な意味を持つとして支持していた。

 第3回会合において継続審議が主張され,集中的に議論するこの会合をあと1年継続することでまとまりかけたが,米国および日本が2年に1度開かれる常任委員会への付託を主張し,コンセンサスが得られなかった。9月末の総会に勧告を提出することはできなかったが,議論の広まりを考えると今後もこうした動きは活発になっていくと思われる。

Ref:
http://www.ifla.org/III/clm/p1/CLM-pr16082005.htm
http://www.ifla.org/III/clm/copyr.htm#PositionPapers
http://www.wipo.int/meetings/en/details.jsp?meeting_id=8487
http://www.ipjustice.org/WIPO/IPJ_Report_on_IIM3.shtml
http://www.access2knowledge.org/cs/
http://www.cptech.org/a2k/
http://www.indicare.org/tiki-read_article.php?articleId=102
E253
CA1562