E2436 – Code4Lib JAPANカンファレンス2021,オンラインにて開催

カレントアウェアネス-E

No.423 2021.10.28

 

 E2436

Code4Lib JAPANカンファレンス2021,オンラインにて開催

東京農業大学学術情報課程・村上篤太郎(むらかみとくたろう)

 

   2021年9月11日から12日にかけて,Code4Lib JAPANカンファレンス2021が開催された。9回目となる本カンファレンスは2020年(E2289参照)に引き続いて,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響によりオンライン会議システムZoomを用いた開催となった。参加者は,過去最高の155人(Slack登録ベース)であった。参加者が事前に登録をすることになっていたSlackの2021confチャンネルでは,終始活発な投稿が行われた。本稿では,筆者が関心を持った発表について一部紹介し,報告としたい。

  プレカンファレンスの一つである吉本龍司氏(株式会社カーリル)・田辺浩介氏(物質材料研究機構)による「無料で蔵書目録を作ってみよう」には,36人が参加した。無料サービスの「カーリルToolBox:バーコード連番印刷」,「Next-L Enju」(オープンソースの図書館システム)を使って,ISBN等から国立国会図書館(NDL)書誌データ等を検索・流用して,各自の蔵書目録を作る体験が行われた。なお,司書課程の演習授業でも活用したいという意見が複数あり,終了後も45分ほど意見交換が続いた。

  基調講演1件目は,UDトーク開発者の青木秀仁氏(Shamrock Records株式会社)による「UDトークで実現するコミュニケーションのアクセシビリティ」であった。字幕作成機能や翻訳機能によりコミュニケーションにおけるユニバーサル・デザインの支援を行う会話の見える化アプリであるUDトークについて,実際に使用しながら講演が行われた。音声認識による文字化の速さを目の当たりにし,さらには多言語翻訳等によるコミュニケーションの広がり等,インクルーシブな環境の実現が求められる現時点において,アクセシビリティの手段としては最適であることも実感できた。なお,本カンファレンスのほとんどで,UDトークによる字幕が公開され,実行委員をはじめ参加者が協力して適宜文字修正を行った。

  基調講演2件目の,吉原大志氏(歴史資料ネットワーク(史料ネット:CA1743参照)/兵庫県立歴史博物館)による「災害と地域歴史遺産」では,史料ネット設立の経緯,史料ネットが何をしているのか,資料保全活動のこれから等について,神戸の史料ネットの活動に即して講演された。日本社会においては,歴史資料が個人や自治会内で保管されている実態が多く,博物館,図書館,文書館で認識されていないという問題点等も紹介された。

   2日目に開催されたグローバルセッション(2件)は,Code4Lib JAPANでは初めての試みとして,日本人による英語での口頭発表であった。その1件目の,子安伸枝氏(saveMLAK Covid-19 Libdataチーム)による「現在(いま)をアーカイブするsaveMLAKによるCOVID-19の影響調査2020-2021」(E2283参照)では,COVID-19流行下における全国の公共図書館等を対象とした動向調査について,網羅的・継続的に図書館の変化を時系列で把握できること等が報告された。前述したUDトークでも英語を確認することができ,かつ日本語翻訳も表示できるため,必要に応じて参照することができた。発表者は初めての英語での発表ということであったが,今回の企画は,今後の国際会議における発表の前哨戦としての位置づけを確立していくものと思われた。Slackのチャンネルでは,米国の大学図書館員の参加者も確認でき,さらには,その後の通常発表セッションの内の1件は,オーストラリアの大学図書館員の発表であり,本カンファレンスがグローバルなコミュニケーションを目指していることがうかがえた。なお,通常発表セッションは,「アーカイブ」「開発スキル」「図書検索技術」というテーマのもと,合計6件の発表が行われた。

  さらには,特別セッションとして,大場利康氏(NDL),大向一輝氏(東京大学),福島幸宏氏(慶應義塾大学)による「鼎談『ビジョン2021-2025国立国会図書館のデジタルシフト』からライブラリーの未来を考える」が行われた。最初に大場氏からは,「ビジョン2021-2025」について4つの基本的役割と7つの重点事業等の説明があった。次に,大向氏から「すべてがNDLになる」と題する報告があった。現在のGAFAなどのプラットフォームを図書館の世界に置き換えて考えたとき,個別の図書館で取り扱う情報が複雑化するにつれて,主要なプラットフォームの大規模化は避けられなくなる。その役割は,日本においてはNDLであり,例えば重点事業にも取り上げられているデジタル化,オープン化,デジタル収集と長期保存など,どこまでも行きつく所まで行けば,NDLにつながっているという内容であった。これらを受けて,福島氏の巧みなファシリテーション・スキルが功を奏し,Slackに書き込まれた参加者からの意見を巡って,活発に意見交換が行われた。

  そのほか,ライトニングトーク(開催当日に発表募集する5分間の短いプレゼンテーション)は,合計16件の発表が行われた。また,各自が希望するテーマについて同じ関心を持つ人たちと語らうアンカンファレンスも開催された。カンファレンスの当日のほぼすべての映像は,例年どおりカンファレンスのウェブサイトで公開予定である。

  次回のカンファレンスは,2022年9月3日,4日に,今回同様,完全オンラインでの開催が予定されている。次回は10回目の記念大会であり,図書館に関心があれば誰でも参加できるので,より多くの人に気軽に体験してもらいたい。

Ref:
Code4Lib JAPAN.
https://www.code4lib.jp/
“Code4Lib JAPAN Conference 2021”. Code4Lib JAPAN.
https://wiki.code4lib.jp/wiki/C4ljp2021
“C4ljp2021/program”. Code4Lib JAPAN.
https://wiki.code4lib.jp/wiki/C4ljp2021/program
“Next-L Enju 1.3.5”. GitHub.
https://github.com/next-l/enju_leaf/releases
UDトーク.
https://udtalk.jp/
ビジョン2021-2025 国立国会図書館のデジタルシフト. NDL.
https://vision2021.ndl.go.jp/
田辺浩介.Code4Lib JAPANカンファレンス2020,オンラインにて開催<報告>.カレントアウェアネス-E.2020,(396),E2289.
https://current.ndl.go.jp/e2289
saveMLAK COVID-19libdataチーム.現在(いま)をアーカイブする:COVID-19図書館動向調査.カレントアウェアネス-E.2020,(395),E2283.
https://current.ndl.go.jp/e2283
川内淳史. 被災資料を救う:阪神・淡路大震災からの歴史資料ネットワークの活動. カレントアウェアネス. 2011, (308), CA1743, p. 2-3.
https://doi.org/10.11501/3192155