E2138 – 文化資源学フォーラム「コレクションを手放す」<報告>

カレントアウェアネス-E

No.369 2019.05.30

 

 E2138

文化資源学フォーラム「コレクションを手放す」<報告>

 

 2019年2月17日に東京大学本郷キャンパスで開かれた「第18回文化資源学フォーラム コレクションを手放す―譲渡・売却・廃棄―」について記す。なお,紙幅の関係上,ここでは当日の様子を概説するに止めたい。全容に関心のある方は,東京大学大学院文化資源学研究室ウェブサイトに掲載予定の「報告書」を参照されたい。

 本題に入る前に,文化資源学フォーラムについて説明したい。当研究室では,2001年度から毎年文化資源にかかわるテーマをとりあげて「文化資源学フォーラム」を開催している。2003年度以降は,学生を中心に企画・運営を行っている。今年度も筆者を含めた修士課程1年(当時)の学生が企画・運営に携わった。

 このテーマになった経緯についても軽く触れておきたい。テーマ決めを行っていた当時,本学生協食堂に展示されていた画家の宇佐美圭司氏の絵画が廃棄された問題が話題になっており,それにまつわるテーマが候補に挙がっていた。そして,北栄みらい伝承館(鳥取県北栄町)で,収蔵庫の容量が限界に達したことから,収蔵品を希望者に譲渡する「お別れ展示」が行われたという報道が決め手となり,今回のテーマになった。

 次にフォーラム当日の内容について概説したい。まず,当研究室の中村雄祐教授の挨拶と平田陽子(学生)による趣旨説明の後,北栄町生涯学習課課長で北栄みらい伝承館関係者の杉本裕史氏による講演が行われた。講演では,「お別れ展示」に至った経緯とその反響について説明された。そして,この企画は苦渋の末に行われたものであり,安易に模倣するべきではないと述べた。

 続いて東京ステーションギャラリー学芸員の成相肇氏による講演「作品の公共性とアクセシビリティ」が行われた。成相氏は2018年8月にギャラリーのタケニナガワ(東京都港区)で開催された,美術作品の公共性とアクセシビリティをテーマにした展覧会「Optional Art Activity: 404」を企画しており,その事例から,コレクションにおける公共性の対概念は「独占」ではなく「忘却」や「秘匿」であると述べた。

 この2つの講演を受け,佐野智彦による学生報告を行った。報告では,海外の事例や分析手法を概観し,「お別れ展示」から何が導き出せるのかについて述べ,続くパネルディスカッションへの橋渡しの役割を担った。

 パネルディスカッションには,杉本氏,成相氏と当研究室から松田陽准教授と風間勇助(学生)が登壇した。まず,松田准教授がこれまでの講演を受けて,本テーマは,ミュージアムのコレクションを手放すことを奨励するかのような誤解を招きやすいテーマであるものの,今,ミュージアム側が先手を打って議論しなければ,外部者の思惑に引きずられ,ミュージアムにとって不利益になるだろうと述べた。ディスカッションでは主に,今後のコレクションの在り方について議論され,具体的には特定の場所を構えず移動可能な博物館等を指す「モバイルミュージアム」や,ミュージアム(コレクション)同士のネットワークシステムの可能性などが挙がった。

 当日は,140人の参加者が来場した。その中には,博物館・美術館の関係者も多く,極めて実際的な問題であることを改めて実感した。アンケートの内容を見ると,概ね好評であった。その中で,このフォーラムを始点とし,「コレクションを手放す」ことに関する議論を繰り返し行っていくべきであるという意見が散見された。筆者個人としても,この意見には賛成である。こうした議論を今後行おうと考えている方々や組織にとって,本稿や「報告書」が参考になれば幸いである。

東京大学大学院人文社会系研究科・佐々木啓介

Ref:
http://www.l.u-tokyo.ac.jp/CR/forum/forum18.html
http://www.l.u-tokyo.ac.jp/CR/index.html