カレントアウェアネス-E
No.367 2019.04.18
E2129
第15回レファレンス協同データベース事業フォーラム<報告>
2019年2月15日,第15回レファレンス協同データベース(レファ協)事業フォーラムを国立国会図書館(NDL)関西館で開催した。本フォーラムは,レファ協に関心を持つ人々を対象に,専門家の講演,参加館の実践報告等を通じて事業への認識を深め,あわせて関係者相互の情報交換,交流の場とすることを目的として2004年度から毎年度開催されている。
今回は「編集して届ける ―潜在的な知的好奇心に働きかけるために―」をテーマとした。自分が何を知りたいかがあまり明確でない人に,図書館のレファレンス・サービスや情報資源をどのように届けられるのかについて,レファ協の活用可能性も含め,幅広い観点から報告や意見交換が行われた。
観光家,コモンズ・デザイナー,社会実験者の陸奥賢氏による「コモンズ・デザインから考える図書館」と題した基調報告では,同氏が考案した「直観讀みブックマーカー」という,本を用いた遊びを参加者同士で行った。一つの「問い(例:愛って何ですか?)」を設定し,各人が直観で開いた本の一節をその「答え」とみなすもので,偶然抜き出された思いがけない文章に笑いが起き,活発なコミュニケーションがなされた。同氏は「直観讀みブックマーカー」を,本を読まない人も参加できる気軽な本の試食であり,普段は手に取らないような本との出会いにもなるとし,図書館や学校での実施を提案した。
続いて,奈良県立図書情報館の乾聰一郎氏による基調報告「図書館と編集力」が行われた。同氏は,利用者が「こんな情報や人に出会いたかった」と思う図書館でありたいと述べ,そのために,人や情報を編集する(独自の視点や切り口で関連付けて示す)こと,編集の際にどのようなキーワードを引き出して物語を生み出すかが重要であるとした。最後に,レファ協が物語を引き出す種本として活用できるのではないかと提案した。
レファ協事務局による発表「レファ協のコンテンツ・活用法紹介」では,レファ協は,公式Twitterへのユーザーの反響から,様々な「問い」と回答内容・情報源への評価が高く,かつレファレンス・サービスを知り敷居を下げるきっかけを提供していることを紹介した。またレファ協登録データのカテゴリーの一つである「調べ方マニュアル」を取り上げ,自館の強みなど各館が届けたい情報を発信できる枠組みであることを説明した。
続いて,実際に「調べ方マニュアル」を積極的に活用している3つの参加館から事例報告がなされた。徳島市立図書館の佐野望氏からは,市民や外部の人への地域の魅力の発信を意識して郷土に関するパスファインダー作成をしており,そのためにレファレンスに関する研修会を開催し,レファレンスの記録を日常的に行い,スタッフの知識の蓄積に努めているとの報告があった。近畿大学中央図書館(大阪府東大阪市)の上野芳重氏は,授業型の各種ガイダンスでレファ協のデータを紹介していること,「学生に魚(回答)を与えるのではなく,「釣り方」(調べ方)を伝えることも大事」であるため,調べ方マニュアルの作成・更新に力を入れていることを報告した。清教学園中・高等学校学校図書館(大阪府河内長野市)の山﨑勇気氏からは,生徒が一年をかけて論文を書く授業において,図書館を活用し,問いを深めていく過程で自身の潜在的な知的好奇心に気づくこと,その調査結果を調べ方マニュアルに登録することで他者と学びの共有がなされていることが報告された。
続くレファ協事務局による「IFLA参加報告 ―海外から見たレファ協―」では,2018年8月にマレーシアで開催されたIFLA年次大会(E2078参照)でのポスター発表とレファ協に類似する海外のデータベースの概況について報告した。レファ協は館種を超えてレファレンス事例を共有できるユニークな枠組みであるが,調べ方の共有が盛んな海外の動向も参考にして,レファ協でも他館の調べ方マニュアルの転載許諾を取った上で再利用することも考えられると言及した。
最後に,基調報告者と事例報告者の全員が再度登壇し,フリートークが行われた。レファ協企画協力員で関西学院大学図書館(兵庫県)の井上昌彦氏がコーディネーターを務めた。まず各自の発表の補足がなされた。陸奥氏は,図書館は,専門性を深める縦軸の知識と,直観讀みブックマーカーのような,自分が興味のない他分野,他領域,他者へと問いが広がっていく横軸の知性の両方を捉えたサービスがあると面白いと述べた。乾氏は,どんな立場の職員も自分の興味関心を深めることに注力することが大事であり,そうすることで,図書展示でも自然と工夫が生まれ利用者に響くものになることを話した。佐野氏からは駅前という立地の良さを活かして地域の人とイベント・連携事業を開催していること,上野氏からはレファ協に公開することでデータは公共財になり,東日本大震災のときにも役立ったこと,山﨑氏からは,自分たち図書館員が好きなテーマを持ち楽しんで仕事をしていることは生徒にも伝わるとの話があった。
続いて乾氏は,ここ20年ほど図書館は社会の役に立つことを強調してきたが,人生が豊かになる図書館というのを掲げてはどうかと話した。上野氏は,マンガと文庫・新書を一緒に置いた近畿大学のアカデミックシアター(E1959参照)に触れながら,調べ方マニュアルもニーズに対応して作るだけではなく,ニーズを生み出すことを意図して遊び心を持って作ることが広く許容されたらいいと話した。また上野氏及び山﨑氏は,利用者の質問に隠れている本当の問いやニーズを引き出すのがレファレンスの腕の見せ所と述べた。
その後,図書館員の自己研鑽や働き方に話題が移った。乾氏はルーチンワークを見直して企画の時間を作り出すことが重要である,佐野氏は業務時間外に関心を広げることや外部の人と接することが図書館の企画に役立つ一方で,図書館が職員の研修受講をサポートする必要もある,と述べた。
最後に,まとめに代えて各登壇者から参加者へメッセージが送られ,フォーラムは終了した。
関西館図書館協力課・レファレンス協同データベース事業事務局
Ref:
https://crd.ndl.go.jp/jp/library/forum_15.html
http://tyokkannyomibookmarker.info/
E2078
E1959
E1999