E2114 – 新沖縄県立図書館のオープン

カレントアウェアネス-E

No.365 2019.03.14

 

 E2114

新沖縄県立図書館のオープン

 

●新沖縄県立図書館の開館の経緯

 沖縄県立図書館は今年で110年目となる。沖縄学の父とも呼ばれる伊波普猷(いはふゆう)を初代館長として,1910年8月に開館した。当初は当時の沖縄県庁内に館を構えていたが,戦争によってすべての資料は一度失われてしまった。戦後に県内の各地を転々としつつも,1964年3月に那覇市寄宮に開館し,1983年11月に同地に新館開館した。しかし,その後30年以上の月日がたち,施設は老朽化し,資料保存のための空間の不足等が問題となっていた。また,近年の高度情報化や社会の変化により,利用者が図書館に求める機能も多様化・専門化し,当館の果たすべき役割や機能を見直す時期となっていた。そのような課題に対応するため,2014年3月に「新県立図書館基本計画」を策定し,2018年12月15日,現在の那覇市泉崎に移転し,新オープンした。

 那覇市泉崎を移転地としたのは,県庁や市役所の立地する行政の中心地であり,多数の企業・団体のオフィスが集中するビジネスエリアであること,バスターミナルとモノレール駅も併設する交通の結節点であることなど,立地のポテンシャルがかなり高いからである。また,当館が「知の拠点」としての役割を果たすためのネットワークを構築することを期待されているからでもある。

 「新県立図書館基本計画」は琉球・沖縄の「知と心 文化創造のランドマーク」を新しいコンセプトとして,7つの基本方針を掲げている。(1)県民が気軽に利用でき,県民の多様なニーズに応える図書館,(2)琉球・沖縄の知識や文化継承・発展の中核となる誇りうる図書館,(3)地域や県民の課題解決を支援する図書館,(4)「アジアの中の沖縄」としての国際色豊かな図書館,(5)雇用・就業・ビジネスを支援する図書館,(6)地域のセーフティネットの役割を果たす図書館,(7)進化型,持続可能な施設の図書館である。これらをもとに,「知の拠点」として未来に呼応する新しい図書館としての展開を持つことが期待されている。

●沖縄県立図書館の施設概要

 新沖縄県立図書館はカフーナ旭橋A街区という複合施設の中に所在する。1階はバスターミナル,2階は沖縄観光情報センターと商業施設が入り,モノレールとの連絡路もある。3階には半分は商業施設が入り,もう半分が当館となっている。3階を入口として,5階までが当館である。また,6階には生活から就職までをワンストップで相談できるグッジョブセンターおきなわも入居している。さて,当館の3階エントランスの自動ドアをくぐると,5階までの吹き抜け空間が目に入り,思わず見上げてしまうだろう。とても広々とした印象を与える。旧館と比較して,延べ面積は2倍(約1.3万平方メートル)となり,収蔵能力は3倍(約216万冊)となっている。約50万冊を収蔵可能な自動化書庫を導入し,長期間の収蔵も可能なように設計されている。座席数も約2倍(約500席)になっており,ゆったりと読書や調査・研究を行うことができる。館内では無料Wi-Fiが整備されており,パソコン等を使った調査・研究のために電源の供給できる座席も50席ある。これらは旧館でも求める声が多かった部分である。

●各階の設備と蔵書・各種コーナー

 当館は各階に特色を持たせており,設備や排架している本も異なっている。

 3階は交流を生み出すことを目的としたスペースになっている。エントランスホールでは飲食エリアを設け,複合施設内で購入した軽飲食を利用することができる。広くとられた展示エリアでは,当館の企画展示だけではなく,外部団体による持ち込み展示も行われる。また,ホールも設けており,様々なイベントが行われる予定である。蔵書については,児童書を中心にティーンズ向けの資料と子育て関連資料を揃えている。また,おはなしの森という読み聞かせや親子の交流を行う空間では,畳敷きになっている。多くの親子が図書をあいだに楽しく話している光景に,ほっこりする空間となっている。

 4階には交流ルームとビジネスルームという,各種イベントに使用できるセミナールームのような部屋を新設した。また,利用者の話し声があることが前提とされているこれらの空間に対して,静かにするための空間としてサイレントルームがある。そこは読書のみを行う場所として,静寂を求める人のためのスペースになっている。蔵書は一般書や参考書に加えて,ビジネス書を揃え,新聞や雑誌を排架している。旧館でもビジネスコーナーを設置していたが,新館では県内発行のビジネス関連雑誌を排架し,各種データベースも利用できるビジネスエリアを設置した。また,多文化エリアとして,英語,韓国語,中国語の資料を集めた各種コーナーを設置して,多文化の情報を知り,共生に資するための資料を多く排架した。

 5階には沖縄の郷土資料専用の展示書架を設けている。また,4階との間の階段壁面には,当館所蔵の「琉球国之図」(国指定重要文化財)の複製が大きく貼られ,思わず立ち止まってしまう魅力がある。3階と4階の書架は白を基調としているが,5階は茶系を基調としており,重みのあるシックな雰囲気である。この階には郷土資料を置き,貸出可能な資料のエリアと閲覧のみの資料のエリアをガラスにて隔てたフロアとなっている。また,新しいコーナーとして移民資料コーナーがある。2017年度地方創生レファレンス大賞で文部科学大臣賞を受賞した「沖縄県系移民一世ルーツ調査」(E1981参照)をきっかけに設置された。

●沖縄県立図書館のこれから

 当館の目指す図書館像は,前述のとおり「琉球・沖縄の「知と心 文化創造のランドマーク」」である。伊波普猷は「是,図書館は沖縄の心である。図書館は全てに開かれている」という言葉を残している。県民主体の図書館として,蔵書の充実だけではなく,多角的で多様なイベントや展示により,沖縄県の交流と共生を活性化していける図書館を目指したい。

沖縄県立図書館・垣花司

Ref:
https://www.library.pref.okinawa.jp/
E1981