E2049 – 東洋文庫ミュージアムでのコスプレイベントについて

カレントアウェアネス-E

No.352 2018.08.09

 

 E2049

東洋文庫ミュージアムでのコスプレイベントについて

 

●開催の経緯

 SNS(TwitterやInstagramなど)の利用者の拡大により,公益財団法人東洋文庫では「モリソン書庫でコスプレイベントを開催したら素敵な写真を撮れるのでは」という意見が多数寄せられるようになった。モリソン書庫は,東アジアに関する欧文書籍等約2万4,000点のモリソンコレクションを排架する書庫であり,人気の展示室である。3面を覆う本棚は,訪れた人を物語の世界に誘う,魅力的な空間であるようだ。

 東洋学の専門図書館・研究所である東洋文庫では,国宝・重要文化財を含め,貴重な歴史資料の数々を所蔵しており,ミュージアムではそれらを身近に感じられるよう,親しみのある展示を心がけている。しかし,一度も訪れたことのない方からすると,いかにも堅苦しい,敷居の高い施設に思われてしまうジレンマがあった。そこで,資料の魅力の前に,空間の魅力から興味を持ってもらおうということで,思い至ったのがコスプレイベントである。本物の歴史資料の重厚さと,フォトジェニックなミュージアムの空間,そして世界でも注目を集めているコスプレイヤーのパワーを融合させることで,SNSを通した新しい層の東洋文庫の認知度アップを図りたいとの考えから企画し,開催する運びとなった。

●開催方法

 コスプレイベントを開催したいと思っても,文庫職員には全くノウハウがないので単独開催は無理と判断し,コスプレイベント開催実績のある団体に協力を仰ぐこととした。今回協力を得たのは,重要文化財指定されている建物を含む歴史的建築物でのコスプレイベント開催経験がある,株式会社ココフリカンパニー(以下「ココフリ」)である。

●資料の安全確保のために

 持込可能な撮影機材をサイズで限定した。コスプレの小道具としての剣や杖,三脚,レフ板などは1メートル程度まで持込可能とした。この根拠は,モリソン書庫の書架から結界までの距離を1メートルとしていることからである。

 また,東洋文庫ミュージアムでは日頃よりフラッシュを使わない写真撮影は可能としている。今回はイベント開催時間に限り,モリソン書庫,1階展示室でのフラッシュ,ストロボ使用を可能とし,その他の展示室は従来通り不可とした。モリソン書庫,1階展示室でのフラッシュ,ストロボ撮影は,近年の照明機材はLEDであること,デジタルカメラであれば紫外線・赤外線はおおよそカットされていること,撮影主体は人物であるのでフラッシュ等は資料からかなり距離が離れていること,撮影は短時間であることなどを考え可能とした。

 イベントは,まず休館日に短時間での試験開催を2回(2018年4月10日(火)と4月24日(火)),本開催を開館日の6月17日(日)に1回,合計3回開催することとなった。

 試験開催の目的は,一番人気があるだろうモリソン書庫での撮影をどのように運営するかのシミュレーションと,参加者の動きの把握,ココフリスタッフの理解の促進がある。また,試験開催をすることで撮影機材の持込制限などが適正であるかどうかを判断するという狙いもあった。

 上記のことを確認することに重きを置いたため,試験開催では,撮影可能場所をモリソン書庫を含む2階の展示室とロビー付近に限り,1階展示室と屋外は不可とした。

 試験開催で人の動きが把握できたので,本開催日は十分なスタッフ数を確保することができた。本開催日は1展示室につき1名のスタッフを配置することとした。また,本開催日は午後3時で閉館し,その後貸切でイベントを開催した。なお,試験開催・本開催共に講演室を更衣室とした。

●参加者の反応

 試験開催の2回は,コスプレイヤーとカメラマンを合わせて各40名程度の参加,本開催では80名程度の参加があった。

 イベント開催前に,多くの参加者が通常入館で下見に訪れ,当日の撮影計画を練っていた様子がTwitterを通して見受けられた。参加者は「本物の資料を前に写真を撮ること」に価値を感じ,資料を尊重しその保護にとても気を遣っていた。ルールを順守しつつものびのびと撮影を行っていた。「素敵なロケーションでとても楽しかった」「次の開催があったら,また絶対に参加します」といった,イベントへの満足感がうかがえる声はもちろんのこと,撮影の合間に展示をじっくりと見る様子が多数見受けられ,「撮影ではない時にまたじっくり見に来ます」といった声がたくさん寄せられたことから,「空間の魅力を呼び水に,東洋学へ興味をもってもらう」という目的は十分に達成できたといえるだろう。

●イベント後の影響

 参加者へは「#ココフリ」「#東洋文庫」2つのハッシュタグをつけ,TwitterなどSNSに当日撮影した作品を投稿してもらえるようお願いした。これらの作品にはたくさんの反応がついており,「とてもいい空間だ」「行ってみたい」といった投稿が増加した。イベントが終了して1か月たった今なお「コスプレイベントに参加した方の写真を見て興味をもった」という投稿が散見され,普段東洋学への関心のない方への普及につながっている。

東洋文庫・篠木由喜,児玉真起子

Ref:
http://www.toyo-bunko.or.jp/museum/museum_index.php
https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=1760615653961588&id=288267604529741
http://cocofuri.net/event-3/toyobunko2.html
https://twitter.com/search?q=%23ココフリ%23東洋文庫