E2040 – 神奈川県立川崎図書館の移転・再開館について

カレントアウェアネス-E

No.350 2018.07.12

 

 E2040

神奈川県立川崎図書館の移転・再開館について

 

 神奈川県立川崎図書館(以下「当館」)は,工業専門図書館としての性質を有する神奈川県第2の県立図書館として1958年12月に川崎市川崎区富士見で開館して技術開発等を支援し,また,地域住民にとっては公共図書館の機能も果たしてきた。当館は開館から60年間同じ建物を使用していたため,施設の老朽化が進み,雨漏りの発生を招き,エレベーターもなく,利用者にはご不便をおかけしていた。さらに,当館は川崎市の管理する都市公園内に立地し,同市の富士見周辺地区整備実施計画上でも現地での建て替えは難しい状況にあった。

 移転先については,市内での産業情報機能の存続という川崎市の意向も踏まえ,川崎市高津区坂戸に所在し,当館の強みを活かせるかながわサイエンスパーク(以下「KSP」)に決定した。そして移転・再開館にあたっては,「ものづくり技術を支える」機能に特化した専門的図書館として全国的にも例のない特色ある図書館を目指すこととなった。

●移転 ハード面の整備

 2018年4月1日,当館は,KSP西棟2階に閲覧室を,R&D棟2階に書庫兼事務室を整備して移転した。以前の建屋は地上4階地下1階建てで1階,3階,4階の3フロアを閲覧室にしていたが,移転後はワンフロアで以前の閲覧スペースと同規模の広さを確保した。閲覧席数は少なくなったが,ゆったりとしたキャレルデスク席やグループで利用するディスカッションルームなどにより快適に調査研究を行える環境を整え,資料管理面では,ICタグを導入した。そして,5月15日に開館した。

●新たな機能(1)電子ジャーナル

 同じ公共図書館である県立図書館と市町村立図書館の役割分担を考えると,県民に必要とされているが,市町村立図書館では提供できない資料を県立図書館の役割として提供することが重要である。当館ではこれまで収集・蓄積してきた技術・工学系の専門資料,特許・規格関係の資料を提供する機能を維持しつつ,新たに「ものづくり技術」を支える情報としてデジタル情報の提供を検討した。

 資料については神奈川県立図書館(横浜市西区紅葉ケ丘)と当館とで分担収集しているが,当館の分担である科学技術分野の先端技術に関する情報については紙媒体から電子媒体への移行が他の分野よりも顕著であり,特に,ものづくり技術に関する情報ではその動きが速まっている。また,利用者アンケートやカウンター等で聴取した利用者の意見でも,学生時代に大学図書館で利用していたが社会人になって使えなくなった,個人では導入の難しい電子ジャーナルへの期待が多かった。

 電子ジャーナルを導入するにあたって,収録している情報量が多く利用しやすいことと,ものづくり技術を支えるという当館の機能に適うものであることを念頭に,事前の利用者アンケート等を参考にして検討した。オープンアクセス(OA)ジャーナルを含む様々な学術誌の抄録・引用文献を7,000万件以上収録しているElsevier社のScopusと,人工知能(AI)やIoT(Internet of Things),ロボット等の分野の基本文献を収録している米国電気電子学会(IEEE)のコンテンツを導入することとした。IEEEは米国の公共図書館への導入実績があり,導入の基準が整備されていたため,比較的容易に交渉が進んだ。ほかにも多様なコンテンツを用意したかったが,開館当初は,この2つのコンテンツを提供し,利用者の反応をみることとした。今,開館から2か月経ち,毎日継続的な利用はあるが,まだまだ,提供している内容等が認知されていない。今後,広報を強化するとともに,利用者のニーズや専門家の意見を参考に,コンテンツの追加も検討していきたい。

●新たな機能(2)各種団体との連携

 専門的図書館として当館が所蔵する資料群を活用するため,各種団体との連携事業を新たに実施する。

 これまでは,神奈川県資料室研究会,一般社団法人神奈川県発明協会,公益社団法人けいしん神奈川,そして,蔵前理科教室ふしぎ不思議(くらりか)と連携して,それぞれ職員研修,発明相談,創業・経営相談,科学普及事業を行ってきた。移転後はこれらの事業の充実に加えて,新たに日本弁理士会関東支部神奈川委員会や特定非営利活動法人NPOブルーアースと連携し,知的財産相談,科学普及事業等で連携することとした。また,神奈川県立産業技術総合研究所やハード面とソフト面の起業支援者としての機能を有する株式会社ケイエスピーと当館の三者で行う新たな連携事業について,検討を進め,ものづくり技術を支える企業や産業団体等との連携・協力関係を構築していく。さらに,神奈川県立産業技術短期大学校や県立の職業技術校等の教育機関との連携・協力も進めていく。

●最後に

 当館は,キャッチフレーズについても以前に使用していた「科学と産業の情報ライブラリー」から「ものづくり情報ライブラリー」へと変更した。ものづくりを志す人たちにとって,より身近で頼りになる図書館になるよう職員一同精進していきたい。

神奈川県立川崎図書館・古根村政義

Ref:
https://www.klnet.pref.kanagawa.jp/kawasaki/
https://www.klnet.pref.kanagawa.jp/kawasakiksp/information/0330happyou.pdf
https://www.klnet.pref.kanagawa.jp/kawasaki/guide/guide.htm