E2036 – YouTubeが国際標準名称識別子(ISNI)の登録機関に

カレントアウェアネス-E

No.349 2018.06.28

 

 E2036

YouTubeが国際標準名称識別子(ISNI)の登録機関に

 

 2018年1月,国際標準名称識別子(ISNI)国際機関は,動画共有サイトを運営するYouTubeが新たにISNIの登録機関になったことを発表した。ISNIは,著作,実演,研究,出版といった創作活動の分野を問わず,メディアコンテンツの生産,流通,管理に従事している個人や団体に使われることを想定したクリエイター識別子の国際規格(ISO 27729:2012)で,付与対象はクリエイターの「公開アイデンティティ」である(E1773参照)。登録機関は,ISNI国際機関の管理の下,特定領域や特定地域において自身が管理するデータのみならず他機関が管理するデータについてもISNIの付与を行う権限が与えられている。2018年6月25日現在,登録機関は,各国国立図書館や共同書誌作成機関等19機関で,登録されたISNIの総数は約986万件である。YouTubeは,音楽コンテンツにISNIを付与する初めての登録機関であり,ISNIにとっては,ウェブ上の音楽配信サービスにおけるユースケースを示す絶好の機会が与えられたことになる。

 ISNIの発表によれば,YouTubeは今後,YouTubeのプラットフォームで作品を配信するすべてのクリエイターに,グローバルに一意の永続的識別子であるISNIを付与し,プラットフォーム上に登録されたデータの正確性や帰属の確認に利用するとされている。また,各レーベルやコンテンツ公開における提携先とISNIを共有し,音楽配信業界全体におけるISNIの普及を図るとされている。

 YouTubeのテクニカルプログラムマネージャーであるFX Nuttall氏は,ISNIを採用するメリットを次のように説明する。「ISNIを付与することで,アーティストやソングライターを明確に識別することができ,YouTube上での発見や追跡が容易になる。ISNIというオープンな標準を音楽界に導入することで,クリエイターはより正確なクレジットを得ることができ,ファンは作品をより容易に発見することができる。産業全体の透明性にも貢献するだろう。」

 今回のISNI参加の背景としては,YouTubeが進めている音楽配信サービス全体の合理化の取組があるようだ。YouTubeは,複数のチャンネルで提供されているアーティストの音楽ビデオやライブ映像を,アーティストごとにOfficial Artist Channelとして統合することを目指しており,主要レーベルとの合意も形成された。このような文脈の中で,クリエイターに有益な仕組みの一つとしてISNIへの参加が決定されたと推察される。

 YouTubeは,YouTube上で作品を提供するクリエイターの大多数についてISNIで識別できる状態になることを目指している。しかし,およそ300万から500万のISNIの新規作成が見込まれることから,技術的課題は大きい。これまで,ISNIは国立図書館等を主な登録機関として,図書や論文の著者の識別に利用されてきた。その際,ISNIが提供するデータの品質(完全性,正確性,同定精度)を高めるため,登録機関における提出前のデータの品質管理とともに,ISNI側においても,新たに提出されたデータと既存データとの機械的な同定作業を複数の方法で行い,必要に応じて目視確認や手作業でのデータの統合分割を行うなどして,品質を担保してきた。ISNIが音楽界においても有効な識別子となるためには,同様の品質管理や精度の高い同定作業を音楽データについてどのように行うかという課題がある。登録機関となったYouTubeは,自ら蓄積している関連データに基づき,ISNIに提供しようとするデータについて第一段階のフィルタリングを事前に行うことが求められる。その上で,ISNI側においても,提出されたデータについて様々なパターンマッチングや類似性に基づくファジーマッチング等の機械的な手法による同定作業を行い,一定の信頼性が達成できて初めてISNIが付与される想定だ。

 また,クリエイターが自らISNI付与を望んだ場合の手続きについては,今後YouTubeで検討される必要がある。既に米国内でそのようなサービスを提供している登録機関であるNumerical Gurusは,クリエイターの自己申告に基づく情報について,裏付け調査を行った後,ISNIを付与している。

 ISNIは,今回のYouTubeの参加を,音楽界へのISNIの導入,大規模オンラインコミュニティへのISNI参入の嚆矢として重要視している。YouTubeにおいては,提供するコンテンツについて,帰属するアーティストが正確に管理できるようになれば,使用料の適切な配分が可能になることが期待されている。ISNIは,2012年に誕生した比較的新しい国際標準識別子であり,そのビジネスモデルはまだ確立途上にある。しかし,今回のYouTubeの参加により,ウェブ上のコンテンツ流通とデータ共有における存在感を一躍高めたと言える。音楽界では,国際標準レコーディングコード(ISRC)や国際標準音楽作品コード(ISWC)(CA1226参照)等の他の国際標準規格も用いられており,それらとの連携も期待される。今後もその動向に注目したい。

電子情報部電子情報流通課・奥田倫子

Ref:
http://www.isni.org/content/YouTube-adopts-isni-id-artists-songwriters
https://www.billboard.com/articles/business/8095869/YouTube-official-channels-isni-id-system-artist-songwriters
http://beyondthebookcast.com/YouTube-knows-who-you-are/
http://beyondthebookcast.com/transcripts/youtube-knows-who-you-are/
http://www.isni.org/content/YouTube-knows-who-you-are-ccc-podcast-tim-devenport
http://www.isni.org/content/data-quality-policy
http://numericalgurus.com/
E1773
CA1226