E2032 – ビブリオバトル方式の推薦入試

カレントアウェアネス-E

No.348 2018.06.14

 

 E2032

ビブリオバトル方式の推薦入試

 

 筑波大学情報学群知識情報・図書館学類は,2018年11月実施の推薦入試から,基礎的な知識の習得に加えて,思考力・判断力・表現力等の能力を多面的に評価することを目指して,ビブリオバトル方式の面接を導入する。ビブリオバトルは,「人を通して本を知る。本を通して人を知る」をキャッチコピーとして全国に広がっている本の紹介コミュニケーションゲームである(CA1830参照)。2018年4月に公表された第四次「子供の読書活動の推進に関する基本的な計画」でもビブリオバトルが取り上げられるなど,本に関わる活動として定着した感がある。一方,大学入試では,京都大学の特色入試,大阪大学の世界適塾入試,お茶の水女子大学の新フンボルト入試(E1717参照),早稲田大学の新思考入試,中京大学の高大接続入試など,新しい入学者選抜方式が模索されている。高大接続改革の中で高等学校教育・大学教育の改革と併せて,大学入学者選抜の改革が焦点となっていることが背景にあるが,基礎的な知識・技能,思考力・判断力・表現力等の能力,主体性・多様性・協働性という学力の三要素を多面的・総合的に評価することを社会から求められるようになった各大学が,それぞれの特徴をアピールするような個性的な入試を改革の目玉に据えようとしているようでもある。

 知識情報・図書館学類は学類独自の入学者選抜の改革として,推薦入試枠の拡大と面接方法の変更を決めた。学力評価に時間を取られがちな個別学力試験よりも,思考力・判断力・表現力等の能力をより丁寧に見るための工夫の余地が推薦入試では大きかったからである。もちろん,受験生を従来以上に集めることができるよう,本学類の魅力や個性を反映した選抜方法だとなお良いし,論理的思考力,コミュニケーション能力,説得力,豊かな発想を評価するという本学類の入学者受入方針に合致することも必要である。入学者受入方針に合致し,かつ本学類の特徴を活かした方式として候補にあがったのが,個別面接を廃し,グループディスカッションとしてビブリオバトルを実施するというアイデアであった。なお,推薦入試は小論文と面接による選考としており,小論文は従来通りの形式で実施する。

 ビブリオバトルは「ゲーム」であるので,「ルール」が明快である。公式ルールにしたがって実施すれば,受験生はどのように行われるか,何を準備すればよいのかを考えることができる。また,一般的なグループディスカッションではどんな話題で議論するかを事前に知らされないため,話題によっては議論に貢献できず,実力を発揮できないまま終わってしまう参加者もいる。ビブリオバトルでは部分的にせよ受験生自身が準備した話題についての質疑なので,実力を発揮できる機会が全員に均等に与えられる点も長所だと考えた。

 一方,誤解を招きそうな点は,ゲーム(ビブリオバトル)に勝つことと入試の合否の関係であろう。ビブリオバトルは最も読みたくなった本への投票結果で勝敗を決めるが,得票数は「論理的思考力,コミュニケーション能力,説得力,豊かな発想」の評価では無い。したがって入試としては,本の紹介と質疑で示される論理性やコミュニケーション能力等をビブリオバトルの勝敗とは切り離して面接員が評価する。受験生としては,ビブリオバトルに勝つことでなく,何か別の工夫が必要と考えるかもしれない。しかし,我々としてはビブリオバトルと入試の二重構造がビブリオバトルの本質を損なうとは考えていない。ビブリオバトルを考案した谷口忠大は「ゲームに勝ちたいと思うことによって,自分の視点だけでなく,みんなが興味を持つ本は何かという視点が入る」,「チャンプ本を決めるとなると,発表者は聞き手に一生懸命伝える努力をしなければならなくなる。チャンプ本を決めない書評会の場合,得てして,「自分はこの本が好き」というだけの,一方向的なトークに陥りがちになってしまう」と述べている。つまり,ビブリオバトルに勝つための工夫には,他者の理解という点でコミュニケーション能力が不可欠であるし,「読みたくなる」ための説得力,その裏付けとして論理性や発想力が必要であろう。入試としての特別な準備ではなく,ごく素朴にビブリオバトルの練習をし,勝つための工夫を考えることが,入試としての良い評価にもつながると考えている。

 知識情報・図書館学類は入学者選抜で求める人材を「知識スペシャリストにふさわしい豊かな発想と表現力をもった人材,知識ゼネラリストにふさわしい論理的思考力とコミュニケーション力をもった人材」としている。「人を通して本を知る。本を通して人を知る」ことができるビブリオバトルこそ,求める人材を選抜するにふさわしい方法と言えよう。

筑波大学図書館情報メディア系・宇陀則彦

Ref:
https://klis.tsukuba.ac.jp/assets/files/klis19.pdf
http://www.bibliobattle.jp/
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/30/04/1403863.htm
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I024377738-00
http://www.tsukuba.ac.jp/education/pdf/2018/ug_20.pdf
E1717
CA1830