カレントアウェアネス-E
No.348 2018.06.14
E2030
司書の仕事を小説で紹介:著者・監修者・編集者インタビュー
2018年4月,司書業務の内容紹介を絡めながら公共図書館の新人司書・稲嶺双葉の成長過程を描く小説『司書のお仕事:お探しの本は何ですか?』が刊行された。『カレントアウェアネス-E』事務局では,著者である東海学園大学人文学部准教授の大橋崇行氏,監修者である犬山市立図書館(愛知県)の小曽川真貴氏,編集を担当した勉誠出版株式会社の萩野強氏にお話を伺った。
――この作品の企画のきっかけを教えてください。
大橋:
私から,勉誠出版さんに企画のご相談をしました。日本近代文学の研究者としての仕事をしている中で萩野さんと知り合う機会があり,勉誠出版さんで図書館についての書籍を刊行しているのを存じ上げていたので,その中の「ライブラリーぶっくす」シリーズの中に今回のような本があったら面白いかなと考えたためです。勤め先の大学に司書課程があるのですが,初年次教育を担当している学生の中に,毎年必ず数人,司書課程を履修している学生が入ってきます。そうした学生たちとの面談で話をしたり,オープンキャンパスで資格関連の質問に来る高校生と話をしたりしていると,司書の資格を取った後図書館にどうやって就職するのか,就職した場合にどのような仕事をするのか,学生・生徒がなかなかイメージできないということがわかりました。そうした学生・生徒が読めて,司書の仕事がどういうものか,司書の方がどういう思いでお仕事をされているかについて,できれば1冊で大体のイメージが掴める本がほしいと考えたのがきっかけです。一方で,司書の具体的な仕事については私自身知らない部分も多かったので,監修の小曽川さんをはじめ,他の司書の方にもご相談して,書き進めながら教えていただく企画にしました。
――小説形式とすることにしたのはなぜでしょうか。
大橋:
司書の仕事について書かれた本をいくつも読んでみたのですが,概説書や,現役の司書の方へのインタビュー形式のものが大半で,中高生,大学1年生が手に取りにくいように感じました。この年代が手に取る活字の本はまず小説になります。また,図書館を題材にした小説,マンガ作品も多くありますが,そこを訪れた人たちの人間模様やレファレンス・サービスをめぐる物語など,利用者から見える範囲をベースに描かれていることが多いように見受けられます。そこで,中高生や大学1年生を一番の想定読者とし,利用者からは見えないところで司書の方がどういう仕事をされているのかが,もっと詳しくわかる本にしたいと思いました。
――小説形式で出版するにあたり,苦労された点はありますか。
大橋:
ストーリー部分と,司書についての知識の部分とのバランスです。ストーリー部分を重視しすぎたり,日常ミステリ小説としての要素を強めてしまったりすると,司書の仕事を説明する部分が少なくなってしまいます。特に今回の本は,1冊の中でできるだけ多くの司書の仕事が具体的に伝わるようにすることがコンセプトなので,いわゆる「ライト文芸」を中心に流行している「お仕事小説」とも少し違っています。「お仕事小説」では,どうしても仕事の内容よりも,主人公が「お仕事」をする日常の中に入り込んだ非日常を描き,そこで起きた事件の謎解きがストーリーの中心になることが多いように思います。一方で,小説形式にした以上,読者の方が興味を持って面白く読めるという点は欠かせません。それをどうやって両立させるかが難しいところで,何の話題を,どこに,どう組みこむかで苦労しました。本文の中に注を入れたり,解説を挟み込んだりする形は,萩野さんのアイディアです。
萩野:
今回の企画は,弊社の図書館学の書籍シリーズ「ライブラリーぶっくす」でも初の小説でした。弊社は普段,研究書を多く手掛けている出版社でして,小説を出版するのは社内的に新しい挑戦でした。ただ,ラジオ関連の仕事など,職業にまつわる書籍は過去にも出版しており,職業で司書というジャンルはなかなか類書が無いので少し強行に社内を説得しました(笑)。
――著者,監修者の選定においては,どのような経緯や背景があったのでしょうか。
小曽川:
もともと大橋さんのことは,著書を読んで存じ上げておりました。知人のいる公共図書館でヤングアダルト向け講座の講師を探していることから大橋さんと連絡を取り,今回のご縁に繋がりました。
大橋:
講師として紹介していただいたときに小曽川さんとお話をして,司書業務についての知識が豊かであるのはもちろん,お話もとても面白い方だったので,企画を立てた段階でぜひ小曽川さんに監修をお願いしたいと思いました。また,その講座を行った公共図書館の司書さんからも,いくつもエピソードを頂いています。
――執筆,監修はどのように行われたのでしょうか。
大橋:
各章ごとの大筋ができた段階で,こんな内容を入れたいというリストを小曽川さんにお渡しして,それを叩き台に内容を詰めていきました。また,小説本文の初稿を出版社に送る前に見ていただいて,用語などの説明が足りない部分を指摘していただいたり,図書館でよく起こる「あるある」ネタなどを教えていただいたりしました。小説の3章全てが揃った段階でコラムや解説の執筆をお願いし,こちらからも細かい部分の修正をお願いしました。
小曽川:
大橋さんと,本の装備,NDC分類など,必要な項目について相談しながら進めました。また,最終的に小説が仕上がった時点で,選書会議など,いくつか追加のトピックがありました。そのため,コラムや注は複数回に分けて執筆しており,私が書いた下書きに,大橋さんが手を入れたものが完成原稿となっています。なお,本文に関しては,「図書館の本に貼ってあるフィルムコートを何と呼ぶか」「それを本に貼る業務はどう呼ぶか」など,主に業務上の用語について整理しました。余談ですが,23ページの写真で本を装備しているのは私です。
――各章で主に取り上げられている内容はどのような意図で選定されたものでしょうか。
大橋:
まず全体の構成の土台として,利用者からはなかなか見えない司書の仕事で,特に中高生や大学生にぜひ知ってほしい部分を,文部科学省ウェブサイトの「図書館の振興」のページに掲載されている各種答申なども参考にしながら,各章に1つずつ核として入れることを先に決めました。具体的には,分類と目録の作成,選書,学校図書館との連携の3つです。
分類と目録の作成に関連して,古典籍の調査については,国文学研究資料館が進めている「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画(歴史的典籍NW事業)」が2023年度に最終年度を迎えるにあたり,今後,各公共図書館により大きく求められることが予想される司書の仕事として取り上げています。また,学校図書館との連携は,中高生に馴染みがある話題ですし,2020年度から実施される新学習指導要領に沿った国語教育で読書指導が今までの学校教育に比べて非常に重要視されており,その際に学校図書館と公共図書館がどう連携をとっていくのかがとても大切になっていくと考えられます。今後10年間でより広がっていく図書館の役割,そのなかで図書館に関わることになる学生・生徒に向けた話題の選定にあたり,少し先の未来に何が図書館に求められるのかという点を強く意識しました。
それらをストーリーに沿って各章の中心に置いた上で,BL(ボーイズラブ)とライトノベルの扱い,図書館イベント,レファレンス・サービスなど,現在取り組まれている仕事や話題を織り交ぜていく形で構成しています。できれば,中高生や大学生だけでなく,現役の司書の方にも興味を持っていただけるような内容にしたかったのですが,なかなか難しかったかもしれません。もし続編を書くことがあれば,今回は脇に回してしまった話題を中心に据えたり,今回は扱えなかった話題を中心にストーリーを展開したりすることを考えています。
――この作品にどのような思いをお持ちでしょうか。
三者:
読者の方から,主人公とカフェでおしゃべりをしながら,お仕事の近況報告を聞いている感じという感想を頂いたのですが,まさにそのように気軽に読める小説です。まずは手に取っていただけましたら幸いです。インターネットが普及して膨大な情報が手に入るようになった現代だからこそ,そのなかで情報を整理して,より的確に利用者に伝える役割を果たす司書は,重要性を増していると思います。司書と図書館をめぐってはさまざまな面で厳しい話が聞こえてくることが多いですが,司書の方がどのような仕事を,どういう思いでされているかを書くことで,より多くの方に司書という仕事のやりがいや魅力が伝われば,この本を出した意味があったように思います。
協力:東海学園大学人文学部・大橋崇行
犬山市立図書館・小曽川真貴
勉誠出版株式会社・萩野強
編集・聞き手:関西館図書館協力課調査情報係
Ref:
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I082948823-00
http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/index.htm
https://www.nijl.ac.jp/pages/cijproject/
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1383986.htm