E1858 – 英国研究者の教育・研究実践に関する2015年調査報告

カレントアウェアネス-E

No.314 2016.11.10

 

 E1858

英国研究者の教育・研究実践に関する2015年調査報告

 

 2016年6月15日,米国のIthaka S+Rは,英国のJisc,英国研究図書館コンソーシアム(RLUK)と共同で実施した“UK Survey of Academics 2015”の調査結果を公表した。2012年以来2回目の調査となる今回は,2015年10月から12月にかけて行われ,英国の高等教育機関の研究者6,679名から有効回答を得た。

 報告書は「資料探索」「資料へのアクセス」「研究実践」「研究成果の普及」「教育」「図書館の役割」の章から成り,2012年/2015年,人文科学/社会科学/自然科学/医学・獣医学の4分野別,RLUK/非RLUK機関所属者の観点から質問に対する比較分析が行われている。並行して実施された2016年4月公表の“US Faculty Survey 2015”と章立ては同一であるが,米国調査は主に4分野別の観点から分析が行われている。本稿では主に研究データ保存,オープンアクセス(OA),研究成果の普及について取り上げる。

 研究データを自分で管理する研究者は80%だが,医学・獣医学系研究者は割合が少し低めである。所属機関もしくはクラウド上の保存サービスを利用する研究者は約3分の1で,医学・獣医学系研究者の53%を筆頭に,自然科学系研究者では37%,人文科学系研究者では24%である。所属機関や図書館が研究者に代わり研究データ管理を行うと回答した研究者は5%に満たない。研究データの維持管理サポートについては,無料のソフトウェア,所属機関の分野もしくは部門ごとのリポジトリ,所属機関のIT部門の順に有用であると評価されている。医学・獣医学系研究者は,他分野と比較してリポジトリやIT部門を評価するが,人文科学系研究者は民間出版社・大学出版社,学会を評価する割合が高い。プロジェクト終了後の研究データの保存先は,2012年は商用もしくは無料のサービスを利用する割合が60%であったが,2015年はその割合が減少し機関等のオンラインリポジトリを利用する割合が増加している。また,所属機関の図書館が保存したり,成果報告の際に出版社が保存したりする割合も増加している。

 研究成果を広める対象については,2012年と比較して,自分野の専門家,他分野の研究者,学部生,一般市民に広めることを重要と考える割合が,分野に関わらず増加している。社会科学系研究者と医学・獣医学系研究者は自分野の専門家に,また,人文科学系研究者は学部生に,研究成果を広めることが重要と考える傾向がある。これら3分野の研究者は自然科学系研究者に比べて,一般市民へも研究成果を広めることが重要と考えている。研究成果を広める媒体については,2012年調査と比較して2015年調査では他の選択肢にほとんど変化が見られないのに対し,ブログあるいはソーシャルメディアも利用すると回答した割合の増加が目を引く。査読誌の割合が最も高いのは4分野共通だが,人文科学系と社会科学系の研究者は,専門書,査読無しの一般雑誌,一般書を利用することもある。自然科学系と医学・獣医学系の研究者は,会議録,あるいはクリエイティブ・コモンズのライセンスでオンライン公開する傾向がある。

 論文を公開する雑誌の特徴として重視する点は(1)自らの専門分野で研究者に広く流通・購読されていること(2)インパクトファクターが高く,優れた学術的評価を得ていること(3)その雑誌が扱う分野が自らの研究分野と隣接していることであるが,アクセスと保存について重視する傾向も,2012年調査に比べて増加している。医学・獣医学系研究者は他分野の研究者と比べて,その雑誌がインターネット上で無料公開されており入手や購読に費用がかからないことや,先進国だけでなく発展途上国からもアクセス可能であることを重視している。オンラインで無料公開する場合,査読誌又は会議録,査読誌のプレプリント版で公開する割合が高いが,社会科学系研究者はワーキングペーパーで,自然科学系研究者はソフトウェアやコード,データや画像等の形式であることもある。査読誌又は会議録,査読誌のプレプリント版で公開する場合は,分野別リポジトリや他のサービスを利用するよりも,所属機関の機関リポジトリを利用することが多い。

 英国では,2012年6月にいわゆる「Finchレポート」でOAに対する提言が行われ,同レポートを受けて英国研究会議(RCUK)が新OA方針を2013年4月から施行している。また,2014年3月に英国高等教育助成会議(HEFCE)が新OA方針を発表し,2016年4月から適用されている。紙幅の都合上APCや図書館の役割に関する項目には触れていないが,本調査は2012年からの変化を探る点で意義深いと思われる。

関西館図書館協力課・高城雅恵

Ref:
http://www.sr.ithaka.org/publications/uk-survey-of-academics-2015/
http://www.sr.ithaka.org/blog/exploring-the-research-practices-of-academics-in-the-uk/
http://www.rluk.ac.uk/news/increasing-numbers-of-uk-academics-now-utilise-university-online-capabilities/
https://www.jisc.ac.uk/news/increasing-numbers-of-uk-academics-now-utilise-university-online-capabilities-15-jun-2016
http://www.rluk.ac.uk/about-us/blog/the-impact-of-open-access-mandates-looking-at-trends-in-the-uk-survey-of-academics/
http://www.sr.ithaka.org/publications/ithaka-sr-us-faculty-survey-2015/