E1821 – 成人の図書館利用の実態(英国)

カレントアウェアネス-E

No.307 2016.07.14

 

 E1821

成人の図書館利用の実態(英国)

 

 公共図書館(以下図書館)に関する調査の実施,図書館界に対する指導性の発揮,図書館サービスの再活性化支援を目的にコミュニティ・地方自治省に設置されている英国のLibraries Taskforceが,2016年4月28日,成人(16歳以上)の図書館利用の実態について調査した報告書“Taking Part, focus on: libraries”を公開した。

 この報告書では,文化・メディア・スポーツ省が毎年実施している,国民の文化・スポーツ活動への参加状況に関する調査“Taking Part”の2015/16年調査のデータに基づき,過去1年間の図書館利用の有無,利用方法,利用者の属性,利用目的,サービスへの満足度等を分析している。本稿では,その分析結果の概要について紹介する。

 まず,利用の有無であるが,利用したことがある成人は33.9%で,2005/06年調査の48.2%から大幅に減少している。特に16~24歳の年代では,51.0%から25.2%と減少が著しい。同日に公開された縦断的調査の報告書“Taking Part: Longitudinal Report 2016”では,図書館を利用しなくなった理由として,自由に使える時間の減少,購入等その他の方法での資料の入手,電子書籍の利用が挙げられている。

 利用方法では,94.8%が直接来館をあげており,ウェブサイト・OPAC・データベース・電子書籍等ウェブサービスの利用(17.9%),電子メール・電話・FAX・手紙によるサービスの利用(9.7%),資料配達等アウトリーチサービスの利用(0.9%)など,非来館型サービスの利用割合は少ない。

 サービスに対しては,94.2%が「とても満足」「おおむね満足」と回答しており,2010/11年調査(92.5%)から漸増している。一方,「不満足」の回答率は減少し,2.6%に過ぎない。不満足の理由としては,資料の選定内容と状態を挙げる人が最も多く(49.2%),次に職員が不親切(30.3%)であることが挙げられている。

 次に,利用者の属性であるが,性別では,男性(29.4%)より女性(38.1%)の利用が,年齢別では,25~44歳(39.4%)の年代の利用が多い。報告書では,子どもの頃に図書館の利用経験があると成人した後も図書館をよく利用することが指摘されており,実際,子どもの頃に図書館を利用した経験のある人の割合は,性別では女性が(男性68.0%,女性79.3%),年齢別では25~44歳の割合が最も高い。白人(31.8%)より,黒人・少数民族(49.3%)の利用が多く,その差は,2005/06年調査より拡大している(17.5%)。また,下位の社会経済的階層(30.2%)より上位の階層(36.4%)の,就業者(31.3%)より無職(37.8%)の利用が多くなっている。

 利用目的では,大多数の94.5%が余暇活動のためとしており,研究(9.6%),仕事(2.6%),ボランティア活動(0.6%)による利用は少数派である。ただし,研究目的での利用については,16~24歳(43.5%),無職(11.3%),黒人・少数民族(20.2%)では,他の属性と比べて高くなっている。

 報告書では,子どもの有無と図書館利用に関する分析も行われている。図書館を利用している人の割合は,子どもがいない成人(28.9%)に比べ,子どもがいる成人のほうが高いと指摘されている(子どもが1人:39.9%,2人:49.7%,3人以上:47.5%)。上述の縦断的調査においても,図書館を頻繁に訪れるようになった成人の利用目的では,「子どもに読書を薦めるため」の割合が最も高い(20%)。

 最後に,調査年度が異なることに留意しつつ,日本(国立国会図書館:2014年)(E1667E1747参照),米国(Pew Research Center:2013年,2015年)(E1519E1740参照),韓国(文化体育観光部:2015年)で行われた同種の調査と英国の調査を簡単に比較してみたい。

 まず,過去1年間の図書館利用の有無では,利用した人の割合は,英国:33.9%,日本:40%,米国:48%(2013年),韓国:28.2%となっている。利用者の属性では,英国では,女性,社会経済的上位層,無職の利用が高かったが,日本でも女性,高所得者層,退職者,生徒・学生の利用が多く,同種の傾向を示している。また,英国の調査で示された,子を持つ親のほうが図書館を良く利用するという結果は,日本の調査データを用いた分析においても指摘されている。次に,利用方法では,英国では直接来館,ウェブサービスの利用の順で多かったが,米国の調査(2015年)においても,同じ結果が報告されている。日本や韓国の調査でも,書籍の貸出・返却を目的に図書館を利用していると回答する割合が高く,両国においても直接来館して図書館を利用していることが多いことが示唆される。最後に,図書館を利用しない理由としては,英国では,自由に使える時間の減少,購入等その他の方法での資料の入手,電子書籍の利用が指摘されたが,韓国では,必要性を感じない,仕事で忙しいことが理由とされている。

 さらに詳細に比較することで何か見えてくるものがあるかもしれない。

関西館図書館協力課・武田和也

Ref:
https://www.gov.uk/government/groups/libraries-taskforce
https://librariestaskforce.blog.gov.uk/
https://www.gov.uk/government/collections/taking-part
https://librariestaskforce.blog.gov.uk/2016/05/10/changing-patterns-of-library-use/
https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/519675/Libraries_short_story_-_FINAL.pdf
https://www.gov.uk/government/statistics/taking-part-longitudinal-report-2016
https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/519629/Taking_Part_Year_10_longitudinal_report_FINAL.pdf
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/9373202
http://www.mcst.go.kr/web/s_data/research/researchView.jsp?pSeq=1590
E1667
E1747
E1519
E1740
http://current.ndl.go.jp/FY2014_research
http://current.ndl.go.jp/files/presentation/2015capforum_presentation2.pdf