E1814 - アーカイブサミット2016<報告>

カレントアウェアネス-E

No.306 2016.06.30

 

 E1814

アーカイブサミット2016<報告>

 

 2016年6月3日,千代田区立日比谷図書文化館で「アーカイブサミット2016」が文化資源戦略会議により開催された。本稿では,そのなかの昼と夜にそれぞれ開催されたシンポジウムについて報告する。

◯シンポジウム「著作権消滅。‐社会資本としてのパブリックドメイン‐」(昼の部)

 パブリックドメインの社会・経済・文化的な意義と課題について,3名の登壇者によって意見が交わされた。

 青空文庫の大久保ゆう氏は,パブリックドメインの作品を収録する青空文庫において公開された作品が朗読劇等で利用された事例などをもとに,パブリックドメインの社会・経済的価値を示した。また,北米日本研究資料調整協議会(NCC)の活動を引き,パブリックドメインとなっている研究資料情報へのアクセスの確保が海外の日本研究推進においても重要であるとし,学術的な価値についても強調した。

 弁護士の野口祐子氏は,米国をはじめとする諸外国でのパブリックドメインの利活用と推進に関する実例紹介のなかで,作品の著作権を放棄し,パブリックドメインとして提供することを示すCC0で公開された大崎駅西口商店会のマスコットキャラクター「大崎一番太郎」を取り上げた。キャラクターの営利目的を含めた二次創作や二次利用は利用者だけでなく,クリエイター・権利者側にもメリットがあると指摘した。

 劇作家・演出家/東京藝術大学の平田オリザ氏は,年齢や居住地域にかかわらず文化資本を享受できる環境整備の必要性を訴え,文化資源のデジタルアーカイブ化が文化資本の地域間格差の緩和や文化による社会包摂(文化的活動を通じて社会的弱者の社会参加を果たすこと)に役立つのではないかと期待を寄せた。また,TPP協定による著作権保護期間延長問題については,延長した20年分の著作権料を国際機関に寄付する,発展途上国は著作権料を無償にする,といった欧米にはない戦略をとり,日本がこれまで欧米から受けてきた恩恵を他国に還元することで,長期的な国益獲得や世界平和につながるのではないかと述べた。

 司会の東京大学の吉見俊哉氏は,これらを受け,パブリックドメインの広まりやデジタル化は新たな経済的価値を生む可能性を持つと同時に,公共的価値や文化の価値に重きを置く社会への距離を埋める契機になるのではないか,として議論をまとめた。

◯シンポジウム「アーカイブ資本論:「本当に使えるアーカイブ」を求めて」(夜の部)

 社会資本としてのアーカイブの利活用を促進するための課題と方策について3名の登壇者によって議論がなされた。

 ヤフー株式会社の映像エグゼクティブ・プロデューサーである宮本聖二氏は,近年いくつかの東日本大震災関連のデジタルアーカイブが利用の少なさゆえに人的資源や予算が維持できず閉鎖に追い込まれていることに触れ,個々のデジタルアーカイブをつなぐナショナルデジタルアーカイブを設置し,デジタルアーカイブ全体で利用者を増やすことの必要性を唱えた。そして,自身が「NHKデジタルアーカイブ」の構築・運営に携わった経験から,コンテンツの選択,収集や教育利用などに関し,利用者を増やす具体的方策を提示した。

 漫画家の赤松健氏は,アーカイブ活用の問題点として,新しい試みを行う際に現れる「善意の検閲者」や,「正義をふりかざす無関係なひと」,「わずかな間違いも認めない完全主義者」といった人々に言及し“日本を席巻する「コンプライアンス至上主義」”を指摘した。また,既存の著作権者不明等の場合の裁定制度の改善策として(1)柔軟な権利制限規定,(2)円滑なライセンシング体制,(3)名目より「実益」を取る覚悟とその常識化,を挙げた。

 日本写真著作権協会の瀬尾太一氏は,著作権者不明の孤児著作物(orphan works)の問題解決こそが日本のコンテンツが利活用されるうえで急務であるとし,その解決策として拡大集中許諾(拡大集中処理),裁定制度の拡張,現状の裁定制度の3つを組み合わせた制度設計を提案した。そして,その際には欧米のような契約社会・訴訟社会ではない日本社会にあった“アジア的なグラデーションのある対応”が望まれると述べた。

 加えて,司会の弁護士の福井健策氏からは,現在の裁定制度の課題として,ほとんど現れない権利者のために多額の供託金が必要となる点が指摘された。

 最後に2020年までに行うべき方策が議題となった。宮本氏はデジタルアーカイブの思想やその価値を広く国民で共有するため,著作権保護期間満了後も所有者が権利を主張する「所蔵権」問題の解決や,メタデータ整備,多言語対応,人材育成,スマートフォン向けアプリへの対応などの必要性を指摘した。また,瀬尾氏は全国のアーカイブの中心となる組織の設置を提言した。

 7時間に及ぶプログラムであったにもかかわらず,昼夜ともに所定の時間をこえて議論が交わされ,昼の部では立ち見が出るほど盛況であった。論点は多岐にわたったが,パブリックドメイン及びデジタルアーカイブの価値の共有・醸成,法改正を含む環境整備が共通の課題として認識された。

東京大学大学院学際情報学府・逢坂裕紀子

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E1645