E1799 – 第4回SPARC Japanセミナー2015<報告>

カレントアウェアネス-E

No.303 2016.05.19

 

 E1799

第4回SPARC Japanセミナー2015<報告>

 

 2016年3月9日,国立情報学研究所主催の第4回SPARC Japanセミナー2015「研究振興の文脈における大学図書館の機能」が東京で,開催された。

はじめに,九州大学附属図書館の星子奈美氏から概要説明があった。内閣府の報告書「我が国におけるオープンサイエンス推進のあり方について」(E1681参照)の公開から1年が経過し,国内の大学等においてオープンアクセス(OA)ポリシーの採択が続出している今は,日本におけるオープンサイエンスの大きな転換点と言える。そのような中,オープンサイエンスの「灯台」となるような演者が登壇する,と紹介があった。

 東京大学附属図書館の尾城孝一氏からは,図書館機能の変化のひとつとして,電子ジャーナルなどの学術情報基盤の整備をはじめとする「読み手としての研究者支援」から,機関リポジトリの整備や研究成果発信を支援する「書き手としての研究者支援」があげられ,図書館は研究のワークフローに入り込むべきとの提言がされた。研究活動の動線上に位置づけることで,機関リポジトリは図書館員のシステムから研究ツールへと脱皮できるであろうとのことであった。

 京都大学図書館機構の引原隆士氏からは,現在の日本のOAポリシーの策定状況では,世界的に見てOAに関する発言権はないとの指摘があった。また,OAポリシーの策定は「市場を押さえると標準化される」という日本的な手法ではなく,「標準化をして市場を押さえる」という欧州的な手法が本来であり,日本のOAには必要な政策が提示されていないとのことであった。従来,図書館の資料は大学にとって「資産」であった。しかしながら,ビッグディール契約による多数の電子ジャーナルは価格高騰や本当に読みたい資料を読めているのかという点で,2010年代以降は大学執行部にとって「負債」として捉えられるようになってきている。学術情報が「負債」になりつつある今こそ,OAポリシーを策定した後に,それを「資産」に変えていくアイディアこそ必要である,とのことであった。

 「国際的動向を踏まえたオープンサイエンスに関する検討会」に携わる内閣府の真子博氏からは,サイエンスとは元来開かれているものであるにもかかわらず,日本の大学ではオープンサイエンスが進んでいない現状が指摘された。そして,オープンサイエンスが国際的に議論されているものであるからではなく,研究が国際的に展開しているからこそオープンサイエンスが必要であるとのことであった。リポジトリ事業などで図書館が果たし得る機能を明確にし,図書館が研究を支援する事務部門との連携を行い,かつ情報発信基地となることへの期待が述べられた。一方で,内閣府の「オープンサイエンス推進に関するフォローアップ検討会」における検討の中で,研究データの管理・公開を担う人材が不足しているという課題も示された。

 最後に,九州大学名誉教授の有川節夫氏からは,大学図書館には学習や教育・研究への「支援」から直接的な「貢献」が求められるようになっているため,大学図書館員の育成,確保が課題であることが指摘された。九州大学の図書館長,総長を務めた有川氏からは,同学では研究支援のひとつの形としての図書館と研究戦略部門との連携がうまく機能しているとの説明があった。自ら教育・研究する大学図書館の取組として,大学院(ライブラリーサイエンス専攻)や研究開発室の設置があげられ,教員として,研究者として活動する図書館員を期待しているとのことであった。

 講演に続いて,慶應義塾大学日吉メディアセンターの市古みどり氏をモデレーターとし,パネルディスカッションが行われた。大学図書館の役割や機能を整理することでオープンサイエンスにつなげられないか?という問いに対し,大学図書館の研究支援に対する機能や実績は十分である,との意見が出た一方,大学図書館はさらにその先に進んでいくべきであり,アピール方法を再考すべきとの意見もあった。これまでOAでは論文が評価対象の中心であったが,オープンサイエンスでは,データ作成者も評価対象となり,研究者にとってもチャンスであるとの意見が出た。一方で,データのオープン化を望まない研究領域もあり得る,という指摘もあった。図書館としては分野によって特性の異なる研究データを取り扱うことになるが,どのような能力が必要になるのかは考えていく必要があるとの意見があった。

 日本では,OAから一歩進んだ,オープンサイエンスの推進は緒についたばかりであり,これから様々な議論がされていくものと思われる。海外の真似ばかりではなく,海外の手法や時流を認識,把握することも大事であるとの意見は大変印象的であった。研究者や図書館員を含めた,学術情報流通に関わるすべてのステークホルダーが今後も活発に意見交換や議論をすべきと感じた。

東京歯科大学図書館・阿部潤也

Ref:
https://www.nii.ac.jp/sparc/event/2015/20160309.html
http://lss.ifs.kyushu-u.ac.jp:
E1681