E1792 – 研究データ管理のための資金源の長所と短所:米国の事例

カレントアウェアネス-E

No.302 2016.04.28

 

 E1792

研究データ管理のための資金源の長所と短所:米国の事例

 

 研究データの管理(Research Data Management,以下RDM)は,近年,研究にとって必須なものと認識され,米国のいくつかの研究図書館は,研究者や大学からの要望を受け,これを新しい役割として積極的に担うようになってきている。一方で,この事業のために追加の予算や人員が認められることは稀である。

 このような課題認識のもと,2016年1月,OCLC Researchが,“If You Build It, Will They Fund? Making Research Data Management Sustainable”と題する報告書を公開した。報告書では,米国の研究図書館がRDMを実施する際に考え得る7つの資金源をあげ,その長所と短所について次のようにまとめている。

(1)組織からの予算措置
 組織から予算を獲得することで,組織の資源として研究データを管理することが可能となる。しかし,米国では高等教育の予算が削減されているという現状があり,RDMのための継続的な予算が認められなければ,この事業を実施することは困難である。

(2)研究助成金から経費を負担
 この方法は,多くのRDMにおいて採用されている。RDMの経費を研究プロジェクトの予算に組み込むことで,助成要件にRDMを求める研究助成機関から,RDMに必要な経費も含めて助成されることにもつながる。しかし,研究期間中のRDMに係る費用は研究に直接関係する経費として助成されるが,研究期間終了後のRDMの経費に対しては助成されないという問題がある。また,研究者も,研究費の減少につながるため,研究費のなかからRDMの経費を捻出することを嫌う。研究において,RDMは間接的な作業なので,間接費として計上するのが最も合理的である。しかし,組織において,間接費の経費の計算は後回しにされることが多く,RDMを実施している部署に対して,迅速に十分な資金が提供される見込みは薄い。

(3)研究者への課金
 RDMの経費は,データを生成する研究者や所属する部署が負担するという考えである。しかし,助成期間終了後は,研究助成金から支出することができないため,特定の期間の維持費として課金するか,継続的費用を考慮した一括支払いのモデルを採用することになる。ただ,この方法では,研究者や彼らの属する部署にコストを再度割り当てるだけであり,また,資金を持たない研究者を除外してしまうという問題がある。

(4)データ利用者への課金
 研究データを利用することで利益を得た人が費用を負担するという考えである。組織外からの収入源となるが,需要が高いデータにしか課金ができず,また,多くの研究助成機関は,研究データへの無料でのパブリックアクセスを要求するため,この方法で,RDMに必要な十分な資金を確保することは難しい。

(5)寄付金の活用
 寄付金を活用することで,組織に所属する全ての研究者を支援することが可能であり,RDMに必要な継続的な経費に関する問題を解決することもつながる。しかし,優れた研究機関は寄付金を集めるであろうが,現在のところ,RDMに係る経費は,寄付金の額を超えている。また,組織によっては,事業年度を跨いでの支出ができないという問題がある。

(6)データリポジトリ開発予算の活用
 現在の多くのデータリポジトリの運用は,その開発予算を活用して着手されている。しかし,用途や支出できる期間が限定されているため,長期的なデータ管理が必要なRDMには不向きである。

(7)既存の予算を活用
 上記の方法で十分な資金調達が不可能な場合,既存の予算から捻出する必要がある。研究分野によっては,集中型のデータリポジトリによってRDMを支援しているが,そのような支援がない分野もあり,それらの分野のRDMは大学によって支援される必要がある。しかし,その経費を確保するためには,他のサービスをとりやめることが必要である。その他の方法として,外部のデータリポジトリにRDMを委託することも考えられる。ただ,研究データへのアクセスは提供されることになるが,登録する際には手数料が必要であり,また,研究データの長期的な保存が保証されないという問題がある。

 報告書は,最後に,各々の機関は,組織が研究データを確実に管理することで得られる利益と,そのための費用のバランスを考える必要性と,RDMの継続的な実施のために,常に複数の資金源の選択肢を考えながら,組織の指導部の議論に関与していく必要性を指摘している。

 付録では,オーストラリア・カナダ・香港・オランダ・ニュージーランド・英国におけるRDMの現状を紹介している。一読をおすすめしたい。

関西館図書館協力課・武田和也

Ref:
http://www.oclc.org/research/publications/2016/oclcresearch-making-research-data-management-sustainable-2016.html
http://www.oclc.org/content/dam/research/publications/2016/oclcresearch-making-research-data-management-sustainable-2016-a4.pdf
E1481
CA1818