カレントアウェアネス-E
No.245 2013.09.26
E1481
大学図書館による研究データ公開支援にむけて:英国調査報告
国外では大学図書館が研究データの公開や共有を支援する例が増えてきた。しかし,大学図書館が支援を行う理由やサービスの構築方法は日本からは分かりにくい。そこで筆者は筑波大学の研究交流(派遣)制度を利用して,2013年8月6日と7日に早期から研究データの公開支援に取り組むエディンバラ大学とグラスゴー大学,およびデジタルキュレーションセンター(DCC)を訪問し,各機関の担当者にインタビュー調査を実施した。
そもそも,なぜ大学図書館が研究データの公開を支援することになったのか。DCCのディレクターであるアシュレイ(Kevin Ashley)氏によれば,英国内外のオープンデータの推進と,特にここ2年間の助成機関によるデータ公開の義務化の動きに対応するためにそのニーズが拡大し,「データセンターがない研究分野は(助成機関から義務付けられているデータ公開を)大学図書館が支援するしかない」という。エディンバラ大学のルイス(Stuart Lewis)氏は「資料を記述し,保存してきたエキスパートとして期待されている」と,グラスゴー大学のデイビッドソン(Joy Davidson)氏は「(図書館は)研究者の意思決定やデータ公開を援助することが可能だから」と,これまでの実績から図書館が支援に乗り出した経緯を語った。
では,大学図書館は研究データの公開支援をどのようにはじめれば良いのか?筆者が尋ねるとルイス氏は,「エディンバラ大学が2011年に英国で初めて作成したデータ管理のポリシーが役立つだろう」と薦めてくれた。そのポリシーには,研究データ登録や責任者についての10の指針が示されている。エディンバラ大学には,情報サービス部門の下に図書館,そしてEDINAという英国のデータセンターと大学独自のデータライブラリーを併せ持つ数十名のスタッフ組織がある。一方,グラスゴー大学は少人数ながら,図書館やITサポートなどの学内部門が協力し,DCCの研修プログラム等を活用することによって多くのニーズに対応している。アシュレイ氏は,先行事例を参照しながら図書館がリーダーシップをとって大学の規模や研究者の要求に応じたポリシーの策定に着手するよう助言してくれた。なお,DCCはデータ管理計画のチェックリストやFAQも公開している。
図書館員は研究データの公開支援に必要な技術や知識をどこで身に付けているのだろうか?ルイス氏は「新しい領域なので,ライブラリースクールで完全に教えるのは難しい」と答え,MANTRAやRDMRoseという公開オンライン教材を紹介してくれた。EDINAが提供するMANTRAは,データのファイル形式や著作権,管理計画,セキュリティなどについて解説する,研究者や図書館員向けの実践的なマニュアルである。JISCの助成を受けて開発されたRDMRoseは大学の講義のような形式で,8つのセッションによって図書館員や情報サービス担当者が研究データ管理に関する体系的な知識を得ることができる。また,DCCは無料の研修プログラムを提供しており,英国のほぼすべての大学で実施済みだという。
それでもなお,図書館員が研究データを選択し,メタデータを構築するためには専門分野の主題知識が必要ではないだろうか?この問いかけに対して,アシュレイ氏はすでに標準化されたメタデータの活用を提案してくれた。DCCのウェブサイトには,分野別のメタデータディレクトリが公開されており,「図書館員は適切なメタデータの選択を支援する」という。また,DCCのホワイト(Dr. Angus Whyte)博士らは図書館員が保存すべきデータを選択するためのガイドを作成している。
研究データの公開支援にかかるコストは大きい。エディンバラ大学は「1.6ペタバイトのデータストレージに数百万ポンドを費やした」そうだ。また,DCCのランス(Jonathan Rans)氏は「隠れたコストがたくさんある」と語る。しかし,いずれの機関においても,コストに見合った効果が得られたかどうかを測定するためのデータは,まだ充分に蓄積されていないという見解だった。これから研究データ管理を開始する機関にとって,数値化された効果は予算獲得のための重要な材料となるだろう。グラスゴー大学はデータ公開のコスト分析を行う4Cプロジェクトにも参加しているので,今後の進展を見守りたい。
デイビッドソン氏は,研究データ公開の大きな課題はデータリポジトリの統合だという。英国では,2020年までに統合検索システムを開発する予定であること,データリポジトリの統合における研究者識別子ORCIDや研究データにDOIを付与するDataCiteの重要性についても語られた。
インタビューを通じて,英国ではDCCが各大学の活動を集約し援助することによって,研究データの公開が効率的に進められていると感じた。デイビッドソン氏は将来図書館員となる学生が研究データの公開を支援するために身に付けるべき最も重要なスキルは「コミュニケーション」だという。日本においても大学図書館が研究者や国内外の機関と密なコミュニケーションをはかり,先行事例を活用することによって,研究データの公開が進展することを願う。
(筑波大学大学院図書館情報メディア研究科・池内有為)
Ref:
http://www.dcc.ac.uk/
http://www.ed.ac.uk/home
http://www.gla.ac.uk/
http://www.ed.ac.uk/schools-departments/information-services/about/policies-and-regulations/research-data-policy
http://www.ed.ac.uk/polopoly_fs/1.101179!/fileManager/UoE-RDM-Roadmap130722.pdf
http://www.ed.ac.uk/schools-departments/information-services/about/organisation/edl
http://www.ed.ac.uk/polopoly_fs/1.109258!/fileManager/StaffChart_Mar13-NoGrades.pdf
http://www.dcc.ac.uk/resources/data-management-plans
http://datalib.edina.ac.uk/mantra/
http://rdmrose.group.shef.ac.uk/
http://www.dcc.ac.uk/training
http://www.dcc.ac.uk/resources/metadata-standards
http://4cproject.net/