E1730 - 塩尻市立図書館で3Dプリンター利用をスタート

カレントアウェアネス-E

No.292 2015.11.12

 

 E1730

塩尻市立図書館で3Dプリンター利用をスタート

 

 塩尻市立図書館(長野県)は,2015年7月,3Dプリンターを導入した。夏休みを前に,館内の児童コーナーで3Dプリントのデモンストレーションをスタートさせ,併せて最初の事業として,夏休みに合わせた子ども向け講座「今年の夏休み工作は3Dプリンターでミニカーを作ろう」を開催した。

 デモンストレーションでは,夏休みに入って親と一緒に図書館に来る子どもたちが増える中,親子で立ち止まってその動きに見入り,子どもに説明をしている親の姿が印象的であった。

 講座は,ミニカーの車体作成を3Dプリンターで行うもので,1日目にパソコンで車体データを各自が加工し,1週間後の2日目に3Dプリンターで打ち出された車体と動力部を組み立て,当館が事前に3Dプリンターで作成しておいたコースを走らせた。1講座10名を定員に,2講座を募集して,いずれも早々に定員に達した。3Dプリンターでのプリントアウトは時間がかかるので,初日に1名分のみ実演し,残りはコースとともに図書館内で1週間かけて作成し,多くの来館者に見ていただいた。

 当館が3Dプリンター導入に踏み切ったきっかけは,立命館大学の常世田良教授から視察報告として頂いた米国のデトロイト公共図書館内で行われているファブラボの1枚の写真であった。

 ファブラボとは,fabrication laboratoryの略で,3Dプリンター,3Dスキャナー,レーザーカッターなどの各種工作機械を備えた,誰でも利用できる工房のことである。大量生産される近代的な工業製品に対して,市民が必要とするものを自らの手で作ることを可能にした施設であり,また,米国の多くの公共図書館に3Dプリンターが導入されていることは,図書館関係者にはよく知られている。その写真には,ファブラボの機能を館内で実現させ,3Dプリンターやレーザーカッターをはじめとする設備と向かい合う市民の姿があった。

 まだ実物をほとんど目にすることのない日本の図書館では,3Dプリンターを導入すればおもしろそうだとは思っても,導入した後の具体的な活用方法のイメージが描けなかったり,図書館に設置しても利用者には先端技術の広告塔としてしか受け取られなかったりする。しかし,デトロイト公共図書館を撮影したこの写真にうつしだされていたのは,開架書架を押しのけるように陣取った数台の機器によって,市民生活を支え,夢の実現を支援し,ビジネス支援に取り組む図書館の姿であった。日本の公共図書館でも始めるべきだ,と思った瞬間であった。

 市への予算要求でもこの写真は威力を発揮した。予算要求書に長々書くより,直接話した方がよいと判断し,その際の資料はこの写真とした。3Dプリンターなどを使ってものづくりに取り組む市民の姿は,明らかにものづくりのまち塩尻における新しい図書館サービスの姿を示していた。図書館は単に本を貸すだけの場所ではないと,常日頃発信していたことも理解を得る一助となった。当初は,十数万円で買える機種もあるということで予算要求の決断をしたものの,その後情報を得る中である程度の機能が必要との判断から,県の助成金「地域発元気づくり支援金」も獲得しつつ最終的に60万円ほどの機種の導入となった。

 利用提供が本格化するのはこれからとなる。10月に利用規定の整備が終わり,図書館が入る複合施設「えんぱーく」内での貸出利用がスタートした。電源の位置等の制約はあるが,館内の好きな場所で利用できる。「えんぱーく」にさえ来れば,誰でも借りることができ,会議室の貸出と同じ午前・午後・夜間の3区分での申込で,料金は時間の長さに応じて1,400円から1,800円となっている。パソコンも用意してあり,材料費も含まれているので,USBなどでデータだけ持ってくれば3Dプリンターで出力することができる。

 技術を持つ市民と一緒になって,3Dプリンターを使う体験プログラムの研究も進んでいる。また,まだあまり知られていないが,無料で利用可能な3Dデータやモデリングソフトがインターネットを介して多く提供されており,利用者の関心に合わせ発展させていく予定である。こうしたプログラム等によってさらに新たな利用を生み出していけるものと考えている。

 ファブラボに関しては,その活用メニューを図書館員が主導して考えていくべきものではない。むしろ,市民の発想を支援し,その具体化を応援する仕組みを整えるのが図書館の役割と考えている。また,今のところ当館には3Dプリンターが1台あるだけであり,しばらくはその存在と可能性を広報していくことも重要な取り組みとなる。目指すところはまだまだ遠いが,願うは商品の開発,企業など日本のものづくりを支える図書館機能の創出である。可能性も限りなく大きいものと信じたい。

塩尻市立図書館・伊東直登

写真 「今年の夏休み工作は3Dプリンターでミニカーを作ろう」の様子

Ref:
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