E1722 – ビッグデータ,リトルデータ,ノーデータ<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.290 2015.10.15

 

 E1722

ビッグデータ,リトルデータ,ノーデータ<文献紹介>

 

Borgman, Christine L. Big Data, Little Data, No Data: Scholarship in the Networked World. MIT Press, 2015, 400p, ISBN 978-0-262-02856-1. 

 近年,ビッグデータの活用やオープンサイエンスを支える基盤としてのオープンデータに世界的に注目が集まっている。このような中でカリフォルニア大学ロサンゼルス校のボーグマン(Christine L. Borgman)氏は,データの収集,分析及び利用を扱う「データ・スカラシップ」に関する注目すべき著作を発表した。

 本書は次のような問題意識から出発する。「ビッグデータ」は,膨大な発見と洞察の機会を学者に提供するが,適切なデータを持つ方が大量のデータを持つよりも合理的なことが多い。また,「スモールサイエンス」で利用される「リトルデータ」は「ビッグデータ」と同等の価値を持つとしている。さらに,「ノーデータ」というものもある。「ノーデータ」とは,具体的には,関連するデータが存在しないか,発見することができないか,あるいは,入手できないかのいずれかのことをさすという。データの共有は難しく,データ共有を行うインセンティブは極めて少なく,データの実際の取り扱いは,学問分野を超えて極めて多様であることが指摘されている。

 本書は10章から構成され,3つのセクションに分かれている。第1セクションではデータと学術(スカラシップ)を4つの章で扱い,データの概念,学術,知識インフラ及び実際の研究の多様性について述べている。第2セクションは,自然科学,社会科学,人文学におけるデータ利用の事例研究となっており,各分野を扱った各章が同じ構造で記述されていて,学問分野を超えたデータ利用の比較を可能にしている。第3セクションは研究のポリシーと実態に関わる課題を扱い,10章ではデータの公開,共有,再利用やデータの収集・作成に対する報償,データの帰属,発見・アクセス,維持するデータの対象とその理由を調査している。

 著者はデータが孤立していると価値もなく,意味もないと述べていて,データは,人間,慣習,テクノロジー,物質及び関係の生態系である,知識インフラの中で存在していると主張している。そして,長期間にわたってデータを管理し,活用するには知識インフラに対する大規模な投資が必要であると強調し,それが学術の将来を保証する,とまとめている。

 本書は新しい事象を探求するというよりは,優れた研究がどのような方法で行われているかについて,データ利用の観点から詳述しているものである。そのため,内容が非常に稠密なものとなっており,残念なことに読みやすくはない。しかしながら,データとその利用者や,学術情報流通で生まれつつある考え方,学者の実際の思考プロセスを理解する上で逸することのできない著作であろう。

秋田大学附属図書館・加藤信哉

Ref:
https://mitpress.mit.edu/big-data
E762