E1677 – 仏・独における電子版博士論文のOAに関する調査<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.281 2015.05.21

 

 E1677

仏・独における電子版博士論文のOAに関する調査<文献紹介>

 

Joachim Schopfel et al. A French-German Survey of Electronic Theses and Dissertations: Access and Restrictions. D-Lib Magazine, 2015, 21(3/4)

 2013年と2014年に,フランスのGERiiCo研究室(リール第3大学)と,ドイツの科学的ネットワーク機関(オルデンバーグ大学)が共同研究プロジェクト“Electronic Theses and Dissertations: Access and Restrictions”(以下EDAR)を開始した。EDARによる調査では,(1)電子版博士論文“electronic PhD theses and dissertations”(以下ETDs)のオープンアクセス(OA)に関するデータの収集,(2)欧州における研究開発プログラムH2020(E1666参照)での調査に備えた,サンプリング及び調査の手法の検証と実証データの入手,(3)大学図書館及び大学院における博士論文のOAへの関心の向上,という3点が目的とされた。EDARによる調査結果を元に,フランス,ドイツにおけるETDsのOAによる公開についての現況と傾向,両国の相違点と課題,問題点等が示されている。

◯EDARによる調査の概要
 フランス,ドイツの大学図書館及び大学院60機関をサンプルとして,研究分野に偏りなく抽出された。回答率は52%で,機関数の内訳は,大学図書館が23(フランスが12,ドイツが11),大学院は8(フランスが6,ドイツが2)であった。

 また,調査では2009年から2012年までの4年間のETDsの公開に関し,各機関の状況を尋ねている。回答があった機関の博士論文の総数は,フランスが6,961,ドイツは9,547であり,そのうちETDsの数はフランスが2,139,ドイツが4,119であった。

◯調査結果とOA,ETDs等に関するフランスとドイツの現状と傾向及び相違点

(1)両国のシステムとOA方針
 フランスは75%の大学図書館がETDsを受理しており,国立のシステムである“STAR”を用いている。また,50%の大学図書館がOA方針を定めていると回答した。

 ドイツは,“DissOnline”(E922参照)を用い,全ての大学図書館においてETDsを受理している。一方で,OA方針を定める大学図書館は36%にとどまった。ドイツでは,ETDsが提出されると,まず,それぞれの機関のOA機関リポジトリ(OA-IR)において公開し,ドイツ国立図書館(DNB)に送信する。加えて,本文が利用不可でも,全ての博士論文のメタデータは各大学図書館の目録に保存される。また,大学のOA-IRは全て,DINI(CA1490参照)に基づき,DINIのリストに登録される。

(2)博士論文全体に占めるETDsの比率
 フランスは4年間の累計では31%だが,2009年の20%から,2012年は45%と大幅な値の上昇が見られる。一方,ドイツは4年間の累計は43%とフランスに比べて高いが,各年を見ると40%台前半でほぼ一定である。

(3)OAのETDs
 調査対象期間(4年間)の累計はフランスが1,165,ドイツは4,072であった。博士論文全体に占めるOAのETDsの割合は,フランスが17%である一方,ドイツは43%である。加えて,ETDsに占める割合もフランスは54%に過ぎないが,ドイツは99%である。

 フランスにおけるOAのETDsの数は4年の間に,207から447へと2倍に増加した。一方で,ETDsの数を母数とした割合では,60%から52%へとポイントが減少した。対照的に,ドイツにおいては博士論文全体に占めるOAのETDsの割合は,4年間で40%程と大きな変化がなく,ETDsに占める割合も,99%で一定している。

(4)OAではないETDsとアクセス制限について
 フランスでは,OAではないETDsの数は4年間累計で420であった。また,2009年の22(博士論文全体の1%)から,2012年は329(17%)へと増加した。11の大学図書館が学内限定アクセスを認めていて,うち9つの館が,「6か月」から「2年以上」までのエンバーゴ期間を管理しているという。また,アクセス制限を設ける理由は,ETDsのうち14%が「学内限定」(on-campus only),3%が「エンバーゴ」,2%が「機密」(confidential),26%については「利用不可」(no data available)という結果である。

 一方で,ドイツの大学図書館では,ETDsへのアクセス制限やエンバーゴを機関の方針として設定することはなく,アクセス制限は全て著者の要望によって課されている。

 調査について留意すべき点として,(1)回答した図書館はOAやETDsの収集に積極的なので,結果にバイアスがかかっている,(2)ドイツの大学図書館は自館のリポジトリへの登録数を回答していて,実際には一部のETDsは図書館の機関レポジトリには登録されずに他の場所で公開されることもあるため,論文数が過少申告されている,という2点についての可能性が指摘されている。

 また,調査結果から,それぞれの国の課題として,フランスは,冊子体から電子版への移行期にあって経験などが不足していること,知的財産法による保護が強力で,博士論文を公開するには学生本人の正式な許可が必要であること,大学図書館と大学院の連携協力が不足していること,などが挙げられている。一方,ドイツは,大学図書館,博士号取得予定者などの関係者間の情報共有が不足していること,学生に論文のOAに関する全ての決定権があり,図書館員は博士論文の公開に関して一時的にしか関与しないため,著作権やOAイニシアチブ等に関する知識・関心が不足していること,専門家,図書館員,学生の間で経験を共有したり交換したりするネットワークが無いことが挙げられている。

 ETDsのOAに関する問題点は,各国でエンバーゴやアクセス制限を推進している状況にあるとされ,ETDsのOAに関する現状の把握と啓発をはじめ,EUや各国の政策レベルでのロビー活動や関係者間の包括的なコミュニケーション,研修教材の活用などが肝要であると指摘されている。

関西館図書館協力課・葛馬侑

Ref:
http://dx.doi.org/10.1045/march2015-schopfel
E922
E1666
CA1490