E1651 – RECODE:研究データのあるべきオープンアクセス方針とは

カレントアウェアネス-E

No.275 2015.02.05

 

 E1651

RECODE:研究データのあるべきオープンアクセス方針とは

 

 海外では,助成機関が助成を行った研究について,その成果の公開対象に研究データも含める動きが広がりつつある。助成機関は,研究機関は,出版者は,研究データをオープンアクセス(OA)にするために,どのような方針を策定すればよいのだろうか。本稿では,研究データのあるべきOA方針策定のための提言を行う欧州のプロジェクト“Policy RECommendations for Open Access to Research Data in Europe(RECODE)”が,2015年1月13日に公開したブックレットをとりあげ,そのプロジェクトの成果を紹介したい。

 RECODEプロジェクトは,欧州連合(EU)による2007年から2013年までの第7次研究開発計画(FP7)のひとつである。研究データのOAにおいては,さまざまなネットワーク,プロジェクト,コミュニティが存在するが,それぞれ,学問分野や地理的要因により分断され,孤立し,課題を抱えているという。RECODEは欧州において,そのような課題を共有し,検討するための場として設定された。RECODEは,研究データのOAの状況について,OAを継続的に実現するエコシステムが存在しないこと,学問分野固有の研究プロセスやデータ収集等への配慮に欠けていることが課題であると認識した。そこで,研究や政策に関する文献調査に加えて,物理学,医学,生物工学,環境学,考古学の5つの学問分野に係るインタビュー調査を元に,関係者にとってのOAの価値とエコシステム,法的・倫理的な課題,インフラと技術的な課題,学術・研究機関における課題の4点を検討し,あるべきOA方針を策定するための10の提言として取りまとめた。

(1)研究データのOAのために,連携して包括的な方針を策定する
 助成機関,研究機関,出版者はオープンサイエンスの実現に向けて,研究データを原則としてOAとする,国家的な政策に沿った方針を策定すべきである。

(2)研究データのOAのために,適切な資金を確保する
 OA方針やOAの義務化により期待した効果を得るには,適切な資金源による裏付けが必要である。また,長期的に持続可能なOAを実現するには,研究者,図書館員,技術スタッフを教育するためのインフラ開発への資金も必要である。

(3)高品質のデータを提供した研究者に報酬を与える方針を策定する
 助成機関や研究機関は,高品質のデータを提供した研究者に適切な報酬(助成獲得や昇進等)を与える,公的な仕組みを設ける必要がある。

(4)主要な関係者や関連するネットワークを把握し,持続的に研究データのOAを可能にするエコシステムの構築に協力して取り組む
 持続可能なエコシステムには組織を越えた協力が不可欠である。また,関係者の役割・責任範囲を明確にし,重複や損失を防ぐ,リソースの適切な配分が必要である。

(5)OAデータの長期的な管理・保存の計画を策定する
 OAデータへの長期的なアクセスを可能とするためには,共同モデルによる適切な管理と保存が必要である。

(6)高品質な研究データへのアクセスと長期保存を実現するため,技術面,インフラ面で広範囲にわたる協力的な解決策を検討する
 さまざまな学問分野で必要とされる事項やデータの多様性,メタデータおよびデータの標準化について検討する必要がある。

(7)研究データの技術的,科学的な品質基準を検討する
 研究データの技術的な品質基準に加えて,学問分野固有の実践や基準に沿った科学的な品質基準についても合意を形成する必要がある。ジャーナルにおけるピアレビューと同様の,評価の仕組みの検討が必要である。

(8)統一的でオープンなライセンスの枠組みを利用する
 クリエイティブ・コモンズのように,どの研究データについて,何(アクセス・共有・再利用)が可能なのかを記述した条項を含むオープンなライセンスを利用する必要がある。

(9)研究データをOAにすることから生じる法的・倫理的な課題を体系的に検討する
 研究データをOAにすることで生じる法的な課題としては,知的財産権(著作権,企業秘密やデータベースの権利),プライバシー,データ保護が挙げられる。倫理的な課題としては,意図に反する二次利用・剽窃・商用利用,研究成果の不平等な流通等が考えられる。関係者で課題を洗い出し,教育や技術的な解決手段を検討する必要がある。

(10)研究データのOAを実現するため,教育カリキュラムの開発や研修を行う
 研究者やデータ管理者への教育や研修が必要である。

 なお,ブックレットでは,これらの提言を補う形で,助成機関,研究機関,データ管理者,出版者のそれぞれに対する提言もなされている。また,提言にもとづき,助成機関,研究機関,出版者を対象に,方針策定のポイントと方針に含めるべき項目も簡潔にまとめられており実践的なガイドとなっている。

関西館図書館協力課・篠田麻美

Ref:
http://www.whitehouse.gov/blog/2013/02/22/expanding-public-access-results-federally-funded-research
http://www.gatesfoundation.org/How-We-Work/General-Information/Open-Access-Policy
http://www.sherpa.ac.uk/juliet/index.php?la=en&mode=simple&page=browse
http://recodeproject.eu/wp-content/uploads/2015/01/recode_guideline_en_web_version_full_FINAL.pdf
http://recodeproject.eu/resources-project-publications-other-projects-links-etc/recode-publications/
http://recodeproject.eu/research/