E1550 – データが変える研究,教育,ビジネス,社会:IDCC14

カレントアウェアネス-E

No.257 2014.04.10

 

 E1550

データが変える研究,教育,ビジネス,社会:IDCC14

 

 研究データの共有や活用をテーマとする第9回国際デジタルキュレーション会議(International Digital Curation Conference: IDCC)が,2014年2月24日から27日までサンフランシスコにて開催された。主催は英国のデジタルキュレーションセンター(DCC),共催はカリフォルニア大学キュレーションセンター(UC3)とネットワーク情報連合(CNI)である。

(1)大学図書館の事例報告
 データ共有に関する図書館の主なサービスとして,データリポジトリの提供と「データマネジメント計画(Data Management Plan: DMP)」作成支援に関するいくつかの報告があった。

 たとえばUC3のエイブラムズ(Stephen Abrams)氏は,カリフォルニア大学のデータリポジトリDataShareについて紹介した。DataShareは研究者による“セルフサービス・キュレーション”ができるよう工夫されている。データはドラッグ・アンド・ドロップで登録でき,研究者自身がメタデータを付与し,ライセンス処理も行える。登録されたデータは,EZIDというシステムでDOIが付与され,Ex Libris社のPrimo,DataCite,トムソンロイター社のDCIによるハーベスティングが行われる。

 ミシガン大学のグリーン(Jen Green)氏とニコルス(Natsuko Nicholls)氏は,DMP作成のためのワークショップやウェブサイトによる情報提供といった支援活動について報告した。DMPは米国国立衛生研究所(NIH)や米国科学財団(NSF)など多くの助成機関によって提出が義務付けられており,同大学では教員の78%が執筆経験をもつという。

 また,デモンストレーションではDMPの作成支援ツールである英国のDMPonlineと米国のDMPToolの新しいバージョンが紹介され,参加者の関心を集めていていた。

(2)デジタルキュレーションのための人材創出:iSchoolの視座
 パネルディスカッションでは,インフォメーションスクール(iSchool)や図書館情報学(LIS)課程における教育についての討論が行われた。ピッツバーグ大学のラーセン(Ronald L. Larsen)氏は,米国の2006年から2013年の求人情報の調査結果として,データ分析,データ管理者(data steward),データキュレーターといった5年前には存在しなかった求人が増加していることを示した。こうしたデータ関連業務のニーズに応えるためには,コンピュータサイエンスに加えてSTEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)をはじめとする専門分野の知識が必要である,という点について議論が白熱した。パネリストや会場からは,STEMの学生をLISに呼びこむ,ポスドクを図書館で活用する,学生を各分野の研究室に送り専門知識を身につけさせるといった意見が出た。一方で,大学図書館の現場では自身の専攻とは違う分野で働いている職員もいる,といった疑問も投げかけられた。

(3)新たな学術出版モデル
 Ubiquity Pressのホール(Brian Hole)氏は,“メタジャーナル(Metajournal)”という新たなOA出版モデルを紹介した。研究者はデータやプログラムコードをDryadやzenodoなどのオープンリポジトリに登録した上で,データのDOIと方法(Methods)などを記載した短いペーパーをメタジャーナルに投稿する。読者は関心領域のメタジャーナルを通じて世界中のデータリポジトリに分散したデータから有用なものを探して再利用することができる。さらに,DOI経由でそのデータを用いた文献,およびSNSやWikipediaでの言及を追うこともできる。また,出版社がデータサーバを持たないかわりにAPC(論文加工料)は一件あたり40ドルに抑えられているとのことだった。

 このビジネスモデルが前提としているのは,データにDOIが付与されているということである。データにDOIを付与し,引用,追跡,評価の仕組みを整備しようとする活動はDataCiteやCODATAをはじめとする諸機関によって推進されている(E1537参照)。折しも開催期間中にFORCE11がデータ引用原則の最終版(Joint Declaration of Data Citation Principles – FINAL)を公開した。データの公開と引用をテーマとしたワークショップでは,カリフォルニア電子図書館(CDL)やオランダのデータアーカイブ(DANS),NSF,F1000 Research誌やScientific Data誌などの取り組みや見解が紹介され,データのインパクトの測定や査読についての議論が行われた。

 データ公開の進展によって図書館を取り巻く環境は大きく変化しているが,会期中は情報交換に加えて「機関リポジトリにデータが集まらない」「MOOCや電子教科書にも対応しなければならない」といった現場の悩みや,PLOSの新しいデータ公開ポリシーなどについての議論も盛んに行われており,協力して問題解決にあたろうとする勢いが感じられた。

 日本では,文部科学省が研究における不正行為や研究費の不正使用への対策として,研究データを一定期間保存・公開することを義務づける方向でガイドラインの改訂を検討している。機関リポジトリがデータ公開の役割を担う場合には,こうした先行事例や知見が役立つだろう。

筑波大学大学院図書館情報メディア研究科・池内有為

Ref:
http://www.dcc.ac.uk/events/idcc14
http://www.dcc.ac.uk
http://www.cdlib.org/services/uc3/
http://www.cni.org
http://guides.lib.umich.edu/engin-dmp
https://dmponline.dcc.ac.uk/
https://dmp.cdlib.org/
http://www.dcc.ac.uk/sites/default/files/documents/IDCC14/Panels/RonLarsen_Panel.pdf
http://www.diglib.org/archives/5585/
http://www.ubiquitypress.com
http://datadryad.org
https://zenodo.org
http://www.datacite.org
http://www.codata.org
http://www.force11.org/node/4769
http://www.cdlib.org
http://www.dans.knaw.nl/en
http://blogs.plos.org/everyone/2014/02/24/plos-new-data-policy-public-access-data-2/
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/gijyutu/021/index.htm
E1537