E1477 – もう一つのGoogleデジタル化 “Google Cultural Institute”

カレントアウェアネス-E

No.244 2013.09.12

 

 E1477

もう一つのGoogleデジタル化 “Google Cultural Institute”

 

 2013年8月19日,Google社は,広島平和記念資料館および長崎原爆資料館と協力し,両館が所蔵する原爆に関する歴史的資料を「Google歴史アーカイブ」で公開した。この歴史アーカイブに日本の歴史的資料が登場するのはこれが初めてという。図書館界でGoogle社のデジタル化と言えば,専らGoogleブックスによる資料デジタル化が取りざたされるが(CA1702E857E991E1162参照),Google社は図書館だけにとどまらず博物館や美術館等との共同デジタル化も積極的に行っている。ここでは,そのプロジェクトを担っているGoogle Cultural Instituteを紹介する。

 Google Cultural Instituteは,「アートプロジェクト」「World Wonders Project」,そして今回の「歴史アーカイブ(アーカイブ展示)」の3つのプロジェクトを主に進めている。アートプロジェクトは,現在Google Cultural Instituteの代表を務めるスード(Amit Sood)氏が2011年にGoogle社の社内ルール「20%プロジェクト」で始めたものである。米国のニューヨーク近代美術館(MoMA)やスペインの王立サン・フェルナンド美術アカデミー(Real Academia de Bellas Artes de San Fernando)等世界各国の250を超える美術館等と協力し,6,000人以上のアーティストの芸術作品数万点をデジタル化公開している。一部の絵画については,筆遣いが分かるほどの超高解像度画像を提供しており,またGoogleストリートビューの技術を用いた「ミュージアムビュー」という,ホワイトハウスや東京国立博物館などの内部を見て回ることのできる機能も公開している。

 World Wonders Projectは,古代や現代の世界遺産をストリートビューで見ることのできるというものである。このプロジェクトは,ユネスコやワールド・モニュメント財団等との協力で進められており,イタリアのポンペイ遺跡地域や日本の小笠原諸島等,地域別とテーマ別に見たい遺跡をその場にいるかのように楽しむことができる。特筆すべきは,小学校から高校までの教育現場での利用を想定した教員向けガイドや教材資料が用意されていることである。

 最後の歴史アーカイブは,主に20世紀の歴史に関する資料コレクションを世界各国の機関から提供を受け,ウェブ展示として公開するものである。各展示は,テキスト,写真,動画,(場合によっては個人的な体験)から構成されており,冒頭で挙げた広島平和記念資料館と長崎原爆資料館の資料もここに含まれている。その他にも,例えば,ヒトラー政権下のドイツにおけるユダヤ人排斥をテーマにした「永遠のユダヤ人」,冷戦を背景にドイツ再統一を架空の人物の日記を通じて見る「変化の時代」,1968年の五月革命を経験した歴史家自身のオーラルヒストリーをテーマとした「五月革命と歴史家」等64点の展示があり,それらの展示アイテム数は617万点にも及ぶ。

 これら3つのプロジェクトのコンテンツについては,利用者による活用を促すいくつかの仕掛けが用意されている。Google+等のソーシャルメディアでの共有機能,任意の2つの資料を比較できる機能,アートプロジェクトと歴史アーカイブで公開されている資料画像を保存してウェブ上に自分だけの“美術館”を作れる「マイギャラリー」機能が提供されている。

 Google Cultural Instituteでは上記の他にもいくつかプロジェクトが進められている。イスラエルにあるヤド・ヴァシェム記念館(Yad Vashem Memorial and Museum)と協力し,ホロコースト関係資料のデジタル化を進めたり,同じくイスラエルのイスラエル博物館と死海文書のデジタル化も行っている。それらの成果の一部は歴史アーカイブで確認できる。その他,ヴェルサイユ宮殿の3D化や17世紀のフランスの立体地図をGoogle Earthで見ることのできるプロジェクト等も実施している。

 Google Cultural Instituteはこの9月に,パリにあるGoogle France社の1階に物理スペースを構えると報道されている。ミュージアムではなく意見交換等のためのスペースとのことだが,そのスペースの責任者にはこれまでヴェルサイユ宮殿で技術担当だったガヴォー(Laurent Gaveau)氏が就任するという。ウェブからリアルへと場を移すGoogle Cultural Instituteの今後の展開が気になるところである。

(関西館図書館協力課・菊池信彦)

Ref:
http://googlejapan.blogspot.jp/2013/08/google_19.html
http://www.google.com/culturalinstitute/home?hl=ja
http://www.youtube.com/culturalinstitute
http://www.ted.com/talks/amit_sood_building_a_museum_of_museums_on_the_web.html
http://artscape.jp/study/digital-achive/10029828_1958.html
http://www.nytimes.com/2011/11/21/technology/quietly-google-puts-history-online.html?_r=0
http://www.artmediaagency.com/en/71778/google-cultural-institute-to-open-in-paris-in-september/
http://www.telecompaper.com/news/google-to-open-cultural-institute-in-paris-in-september–961341
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