E1362 - 関西館10周年記念国際シンポジウム<報告>

カレントアウェアネス-E

No.226 2012.11.15

 

 E1362

関西館10周年記念国際シンポジウム<報告>

 

 2012年11月9日,国立国会図書館(NDL)関西館において,国際シンポジウム「図書館サービスとe戦略」が開催され,151名が参加した。これは,関西館開館10周年を記念して行われた一連のイベントの最後を締めくくるものである(E1337E1343E1347E1356参照)。

 冒頭の大滝則忠NDL館長の開会挨拶に続き,英国図書館(BL)電子戦略情報システム部アーキテクチャ&開発部門長のマーティン(Sean Martin)氏から,基調講演「ストラテジーからサービス提供まで」が行われた。氏は,民間企業を経て2003年からBLで勤務し,同館のデジタルアーカイブシステム構築の責任者を担当しており,2011年の国際インターネット保存コンソーシアム(IIPC;E1185参照)議長も務めた人物である。

 基調講演はBLの職員等へのインタビュー映像を交えて進められた。まず,同館の「世界の知識を拡大させる」というミッションと,「世界の情報ネットワークを率いるハブとなる」という2020年までのビジョンが紹介された。そして,それらに基づく2011~2015年の戦略として,(1)将来世代のアクセスを保証する,(2)研究を望む者は誰でもアクセスできるようにする,(3)社会的・経済的利益に関わる研究コミュニティを支援する,(4)国民の文化生活を豊かにする,(5)世界の知識基盤の成長を先導し協調する,が説明された(E1163参照)。

 続いて,それぞれの戦略に位置づけられた数々の取組の中から,「イングリッシュ・オンライン」「カタール財団とのパートナーシップ」「ニュース&メディア」「ウェブアーカイブ」「デジタルライブラリーと画像ビューアー」について紹介があった。

 2014年開設予定のイングリッシュ・オンラインは,英文学を学ぶ学生や一般市民等を対象に,書籍,手稿,新聞,写真,音声等の英文学に関する様々なデジタル化資料を提供するウェブサイトである。初学者向けに分かりやすく編集された数百件のコンテンツ,中級者向けに選別された数千件のコンテンツを用意し,それ以外の大量の未選別コンテンツの利用へとつなげていくという考えのもとに設計されている。

 また,ニュース&メディアについては,同館のデジタル化した新聞を公開する“British Newspaper Archive”が紹介された。2011年11月に公開されたもので,著作権処理を含めたデジタル化作業はブライトソリッド社との提携によって行われている(CA1750参照)。また,紙版・電子版新聞やTVニュース,データ等の様々なニュースコンテンツを蓄積・提供する「ニュース&メディアセンター」の創設も今後予定されているという。

 ウェブアーカイブについては,2004年からウェブサイトの収集が開始され,2010年には“UK Web Archive”上でそれらの公開が始まった(CA1733参照)。現在のところは許諾を得ての収集であるが,2013年からは,非印刷出版物の法定納本に関する規則(E1167参照)の導入に伴い,英国内のウェブサイトを対象とした自動収集が行われる予定である。

 後半では,「e戦略で図書館の未来を切り開く」と題したパネルディスカッションが行われた。パネリストは,マーティン氏のほか,国際日本文化研究センター教授の荒木浩氏,専修大学文学部教授・出版デジタル機構取締役会長の植村八潮氏,地域資料デジタル化研究会副理事長・山中湖情報創造館長の丸山高弘氏,NDL関西館主任司書の柴田昌樹の5名である。

 パネルディスカッションでは,各パネリストからの発表に続き,BLの戦略を,収集と提供に関するもの(戦略1,2),社会からの支持につながるもの(戦略3,4),連携協力に関するもの(戦略5)に分け,それらを軸にして議論が進められた。パネリストの多様なバックグラウンドを反映して広範な話題が展開されていった。例えば,電子書籍の提供や保存について図書館と権利者の双方が納得できる仕組みの構築,デジタル化資料の二次利用に対して消極的にならないようにすること,国・言語によって様々に異なる出版文化をどのようにデジタルの世界に融合させていくかという課題,利用者の短期的なニーズにのみ着目しないこと,外部資金の獲得や,他機関との連携や棲み分け等について意見が交わされた。

 最後に,図書館に対する期待として,植村氏から,「今日は,目の前の現実に対するネガティブな議論ではなく,未来や理念について語ることができた。未来のために,図書館の現状の制度の中でどうするかではなく,図書館の本来なすべきことを考えて欲しい」と語られた。

(関西館図書館協力課・林豊)

Ref:
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/1195751_1368.html
http://www.bl.uk/2020vision
http://www.bl.uk/aboutus/stratpolprog/strategy1115/index.html
http://www.britishnewspaperarchive.co.uk/
http://www.webarchive.org.uk
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