E1167 – 非印刷出版物の法定納本に関する規則案をめぐる動向(英国)

カレントアウェアネス-E

No.192 2011.04.28

 

 E1167

非印刷出版物の法定納本に関する規則案をめぐる動向(英国)

 

 英国では,2010年9月30日から2011年1月11日までの間,オンライン出版物等の非印刷出版物(non-print publications)の法定納本図書館への納本に関する規則案について,英国図書館(BL)等の納本図書館,出版社,関係団体等からの意見聴取が行われていた。2011年4月5日に,文化・メディア・スポーツ省(DCMS)は,意見聴取の結果を踏まえ,この規則案の実施を見送り,再度の検討を行うことを発表した。提案されていた規則案の概要と,それに対する反応等について紹介する。

 英国では,「2003年法定納本図書館法」により,従来の印刷物に加え,CD-ROM等のオフライン出版物や電子ジャーナル等のオンライン出版物を含む非印刷出版物についても,納本制度の対象とすることができる枠組みとなった。その実現に向け,法定納本諮問委員会からの提言に基づき,オンライン出版物等を含む全ての非印刷出版物の納本に関する規則案が作成され,今回の意見聴取が行われた。

 規則案は,次のような事項が含まれているものであった。

  • オフライン出版物は,BLに対しては出版後1か月以内(他の5つの納本図書館に対しては,その図書館から請求があってから1年以内)に納本しなければならない。
  • 無料かつアクセス制限のないオンライン出版物は,納本図書館からの書面での請求後に,実務上可能な限り早く納本しなければならない。この場合の書面での請求は,通常はハーベストプログラムにより行われる。
  • 有料又はアクセス制限のあるオンライン出版物は,納本図書館からの書面での請求後,原則として3か月以内に納本しなければならないが,場合によってはそれ以降でも可となる。
  • オンライン出版物は,いずれかの納本図書館に一部納本すればよい。その後,納本図書館間で共有される。
  • 納本図書館での資料の閲覧は,図書館の建物内に限定し,一つの図書館で閲覧できるのは一台の端末に限定する。
  • 同じ作品が紙と非印刷媒体の両方で出版されている場合,どちらを納本するかを納本図書館と出版社が協議して決めることができる。
  • 納本後に資料を一定期間利用できないようにする制限(エンバーゴ)については,出版社が納本図書館に対し書面で請求し,不利益が発生することを示せば,可能となる。
  • 納本図書館は,保存のための複製やフォーマット変換を行うことができる。

 この規則案に対し,図書館,出版社,大学等の62機関から意見が寄せられた。DCMSの発表によると,納本図書館を始めとする図書館界は概ね賛成の意見であったものの,出版社側からは,資料へのアクセス,コスト,データの安全性等に関して,大きな懸念が示されたとのことである。「2003年法定納本図書館法」では,出版社への負担が納本による公衆の便益と均衡を失しないことが求められているが,提案された規則案については,出版社に過度の負担がかからないということが明確ではないことから,この規則案のままで施行することは困難であるとDCMSは判断した模様である。

 DCMSは,新たな方針として,オフライン出版物とハーベストプログラムで収集できるオンライン出版物を対象とした規則案の作成するとしている。また,紙の出版物と同内容のオンライン出版物に関しては,オンライン出版物を納本対象として紙資料の納本義務を撤廃し出版社の負担を減らすという案も検討されているようである。今後数か月の間に,納本図書館や出版社と協議をし,新たな規則案を作成する予定とのことである。

Ref:
http://www.culture.gov.uk/publications/8029.aspx
http://www.culture.gov.uk/consultations/7449.aspx
http://www.culture.gov.uk/consultations/8031.aspx
http://www.culture.gov.uk/images/publications/Cons-non-print-legal-deposit-2011.pdf
http://www.culture.gov.uk/images/publications/draft-regulations-legaldeposit-nonprint-publications.pdf