E1356 – 建築家・陶器二三雄氏による関西館10周年記念講演会<報告>

カレントアウェアネス-E

No.225 2012.10.25

 

 E1356

建築家・陶器二三雄氏による関西館10周年記念講演会<報告>

 

 2012年10月19日,国立国会図書館(NDL)関西館開館10周年記念行事の一環として,関西館の設計を行った陶器二三雄氏による講演会が開催された。関西館の設計は,1995年度から1996年度にかけて行われた建築設計競技(国際コンペ)において493作品の中から最優秀に選ばれた陶器氏の作品によるものある。講演会は,「私のめざす公共建築-国立国会図書館関西館,森鴎外記念館の経験を経て」と題し,関西館に具現化された設計思想や,公共建築の設計者選定に関する考え等が語られた。

 冒頭において,陶器氏の目指す公共建築についての考えが示された。そのメッセージは,「個人の住宅も含めて全ての建築は公共性が問われる」というものであり,個人にも,街並みの公共性に配慮し,建築に興味を持ち,美しい街をつくることに関心を寄せてほしいとの思いが述べられた。日本の都市では,ゆるい景観規制,経済性の優先,設計者の見識の低さ等に加え,市民が建築に対して無関心であり,ごみごみとした街並みとなっているとの指摘がなされた。

 続いて,関西館設計の課題として,デジタル情報と図書館のあり方,大規模施設における省エネルギー建築の2点が述べられた。デジタル情報と図書館のあり方については,陶器氏の設計に対し「デジタルの形をしていなければならないのではないか」との批判があったことを明かしつつ,そのような考え方に対し,デジタル情報はすぐに当たり前のものになってしまうものであり,建築の役割はデジタル情報を使う人たちのために良い環境を用意することであると考えたこと,そしてそれは,自然の移ろいを感じられる,心地の良い,広々とした空間であると考えたことが説明された。大規模施設における省エネルギー建築については,当時はまだ省エネというキーワードが注目され始めた時期であったが,省エネ建築を強く意識し,屋上緑化,地中に埋まっている書庫,自然光を必要とするものだけを地上に出す構造,地上に出ている建物にはその中に熱が入らない仕組み等を構想したとの説明がなされた。

 続いて話題は,建築の陳腐化という問題と,設計において常に心がけていることへと移った。建築が陳腐化せず,いつまでも魅力的なままであるために重要なことは,「比例」と「軽やかさ」と「品格」であり,比例すなわちプロポーションが計算しつくされている建物には,軽やかさと品格が備わるということが述べられた。それらはルネサンス時代の建築にも表れており,自分の目で作るのではなく計算で作ること,特に正方形で割り切れるように作っていくのが基本になっていることを,フィレンツェの建築を例にして説明がなされた。そして,関西館の建築も正方形を基本として欧州のプロポーションを意識しながら創ったものであることが紹介された。さらに,そのような陳腐化しない設計において常に心がけていることとして,「中庸」「余白」「シンプル」という3つのキーワードが示された。恣意的デザインを戒め端正な建築を創ること,自分の気持ちを制御しながら単純明快な形を心がけて造形していくことにより静かで凛とした建築になる,との考えが述べられた。その上で「中庸」「余白」「シンプル」という考えが,関西館の外観,閲覧室や吹き抜けにおける面と線,手摺り等のディテールに至るまで,隅々まで気を配り練り上げられているとの説明がなされた。

 このような建築思想の説明の後,陶器氏は,設計者の選定において,設計案を選ぶコンペ方式と設計者(人)を選ぶプロポーザル方式があることに話題を移した。プロポーザル方式がそれまでの実績や人物重視の選定であるのに対し,コンペ方式は若い人が仕事を得るチャンスとなることを説明し,陶器氏自身が夢を実現するために,40歳で独立したのち,コンペばかりに長きにわたり挑戦し続けたこと,その努力が実り関西館の仕事を得たことにより「シンデレラボーイ」と呼ばれたこともあるといったエピソードを披露した。現状99%がプロポーザル方式にある中,夢のある仕事をこれからの設計者が得られるようコンペ方式を考えてほしいと述べた。

 後半では,11月1日にオープンする森鴎外記念館の建築や,アムステルダム市立図書館の紹介がなされた。また最後の質疑応答では,公共建築における施主の役割について質問があり,これに対し陶器氏は,建築家と施主が実現する方向を共有していることの重要性を述べ,また,関西館の設計においてもサインの大きさについて施主と議論を戦わせた当時の思い出を語りつつ,建築家と情熱を持って議論を戦わせられることが良いものを作るフィールドになる,と述べた。

(関西館図書館協力課・依田紀久)

Ref:
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/1195655_1368.html
http://www.ndl.go.jp/jp/service/kansai/about/history_199608.html
http://www.ndl.go.jp/jp/service/kansai/guide/v_tour/tour/tour_01.html
http://moriogai-kinenkan.jp/