E1125 – 紙の本をなくした学校図書館のその後(米国)

カレントアウェアネス-E

No.184 2010.12.02

 

 E1125

紙の本をなくした学校図書館のその後(米国)

 

 2009年に,米国マサチューセッツ州の私立高校Cushing Academyが図書館から紙の本をなくし電子資料を利用するデジタル図書館に移行したことが注目を集めたが(E1025参照),2010年11月6日付けのBoston Globe紙にその後の様子を報じる記事が掲載された。記事の内容を基に,同校の様子を紹介する。

 同校の図書館は,2万冊の蔵書のほとんどが撤去され,大型モニターやPC対応の閲覧席,コーヒーショップ等を備えたラーニングセンターとしてリニューアルされた。生徒が各自のノートPCからアクセスできるウェブ上の電子書籍やデータベースとともに,オフラインでの読書用のKindle等の電子書籍リーダーも200台用意されている。館内には広いスペースが取られており,座りごこちのよい椅子が並べられ,授業やグループ学習,あるいは生徒のおしゃべりの場として使われている。静かに勉強するための小部屋も用意されている。

 同校は全寮制の学校ということもあり,図書館の開館時間は,月曜から木曜は7時半から22時まで,金曜は7時半から16時まで,日曜は14時から22時までとなっている。生徒は宿題をする際,Wi-Fiにより寮からでもインターネットを利用できるが,寮の部屋では孤独感があるためか,リニューアル後は図書館に集まって勉強するようになったとのことである。図書館は人が集まる「ハブ」となり,校内で「最も使われていない建物」から「最も使われる建物」になった。

 このリニューアルは生徒にはおおむね好評のようで,「すごくたくさんの情報が手に入るようになる。勉強しやすくなる」「みんな気に入っている。そもそも本をあまり使っていなかった」等のコメントが紹介されている。また,授業で紙の本を使うか電子書籍を使うかは生徒が選択できるようになっているが,ある生徒は「英語の授業では紙の本がいいけど,歴史や科学の授業ではオンラインが便利」とコメントしている。

 一方,教員や図書館員にもデジタルリテラシーの向上が求められており,自主的な研修を行う教員もいるとのことである。また,デジタル図書館への移行に伴い発生した多くの質問等に対応するため,図書館員が1名増員された。問い合わせにはメールやチャットで対応しているとのことである。

 同校校長のトレーシー(James Tracy)氏によると,批判もあるが教育関係者からの好意的な反応もあり,大学や高校,さらにはユネスコからも問い合わせがあったとのことである。しかし,今のところ追随する動きはないようである。記事では,他の私立高校の関係者の「紙の書物の持つ価値は古びることがない」というコメントや,ハーバード大学図書館長ダーントン(Robert Darnton)氏の「図書館はデジタルとアナログの両方面で進化しなければならない。一方を犠牲にしてもう一方のみに集中するのは間違いとなるであろう」というコメントも紹介されており,同校の取組みをめぐる議論は今後も続きそうである。

Ref:
http://www.boston.com/news/education/articles/2010/11/06/cushing_academys_bookless_library_is_a_popular_spot/
http://www.cushing.org/library
http://www.boston.com/news/local/massachusetts/articles/2009/09/04/a_library_without_the_books/
E1025