E1025 – 学校図書館に印刷図書は必要か?賛否双方の見解(米国)

カレントアウェアネス-E

No.167 2010.03.10

 

 E1025

学校図書館に印刷図書は必要か?賛否双方の見解(米国)

 

 2010年2月10日付けのニューヨークタイムズ(New York Times)紙のオピニオン欄“Room for Debate”に,「学校図書館に図書は必要か?」(Do School Libraries Need Books?)という論題の記事が掲載された。生徒らがオンラインで効率的に情報を探し出しているため,書架に足を運ぶことが少なくなってきているという。また,2009年秋には,米国マサチューセッツ州の私立高校Cushing Academyが,印刷図書20,000冊のほとんどを撤去し,その代わりにAmazon社の電子書籍リーダーKindleやパソコンを用意して,撤去した図書を含む数百万冊の電子書籍データベースにアクセスできるようにしたことが話題になった。

 記事では,このような現状から浮かび上がった「学校図書館に図書は必要か?」という疑問に対して,5名の有識者が示した見解が紹介されている。最初の2名はデジタル技術があれば図書館に図書は不要であるとし,残りの3名はデジタル技術は図書に取って代わるものではなく,図書は不要にはならないとしている。これらの中から,デジタル技術と図書との関係に加えて,図書館という観点を含んだ,不要派,必要派,各1名の見解を以下にまとめた。

  • 不要派:トレイシー(James Tracy)氏(Cushing Academy校長)
     生徒らの情報探索行動の実際を反映させた21世紀型の学校図書館を作るためには,活用されていない図書の書架は必要ない。実際,書架を排除して新たに設計しなおした図書館は,共同学習エリア,検索サイトからデータを得るためのスクリーン,ネットカフェ,図書館員のサービスステーションなどが設置され,生徒と教員が共に学ぶ場として機能しており,キャンパス内で最もよく利用される空間となっている。デジタル情報へのアクセスに際して,教員や学生らは図書館員のサポートを必要としており,それに応えるためスタッフを25%増員した。この成功は,他の学校図書館に教育の新しいアプローチを考えさせる契機になるものであろう。
  • 必要派:グレイ(Liz Gray)氏(Dana Hall School図書館長,私立学校図書館員協会理事長)
     学校図書館員としての責務の一つに,学生らの情報リテラシーを向上させることがある。そのために,資料の電子的な利用に助けられることはあっても,それに取って代わられることはなく,どのオンラインコレクションもこれまでに築いてきた独自の図書コレクションに代わるものではない。また,別の責務として読書の推進がある。どの調査を見ても,学生らに読書への興味を抱かせているのは,オンラインの資料よりも印刷図書のほうである。Kindleやパソコンに比べて,図書は相対的に安価な情報伝達装置であり,機器や電力,回線容量に左右されない。図書館で購入した2台のKindleは人気があるが,図書に取って代わるものではない。デジタル技術か図書かどちらかを取捨選択することはなく,またそうすべきではない。

 2010年2月14日には,この疑問に対する学生らのコメントを紹介する記事が掲載された。教育の現場と密接に関係することもあり,学校図書館におけるデジタル技術の導入のあり方については今後も議論となることが予想される。

Ref:
http://roomfordebate.blogs.nytimes.com/2010/02/10/do-school-libraries-need-books/
http://www.npr.org/templates/story/story.php?storyId=120097876
http://roomfordebate.blogs.nytimes.com/2010/02/14/the-library-through-students-eyes/