E1070 – ディジタル図書館に関する国際会議JCDL/ICADL2010<報告>

カレントアウェアネス-E

No.174 2010.07.08

 

 E1070

ディジタル図書館に関する国際会議JCDL/ICADL2010

 

 2010年6月21日から25日にかけて,ディジタル図書館に関する代表的な国際会議であるJCDL(Joint Conference on Digital Libraries)とICADL(International Conference on Asia-Pacific Digital Libraries;E587E744, E873参照)がオーストラリア東部のゴールドコーストで共同開催された。名称は,Joint JCDL/ICADL International Digital Libraries Conference(JCDL/ICADL 2010)である。JCDL/ICADL 2010には初めての試みが幾つかあった。まずJCDLが初めて北米以外の地で開催されたこと,ICADLが初めてオーストラリアで開かれたこと,そしてJCDLとICADLが初めて共同開催されたことである。

 JCDL/ICADL 2010の構成は,初日に4つのチュートリアルとドクトラル・コンソーシアム,2日目から3日間が本会議での採択論文の発表,そして最終日に4つのワークショップというものであった。JCDL/ICADLの採択率は29%でJCDLには32のフルペーパー,13のショートペーパー,13のポスターペーパー,そして8のデモペーパーが採択され,ICADLでは21のフルペーパー,9のショートペーパー,そして7のポスターペーパーが採択された。本会議中には幾つかのパネル・ディスカッションも開かれ活発な意見交換が行われた。併設された企業や諸団体の展示場も出版,レファレンスデータベース,図書館システム,可視化技術,とバラエティに富んだ内容であった。

 本会議の3日間の始まりにはそれぞれ招待講演があった。インディアナ大学のベルナー(Katy Börner)による初日の講演は,科学活動の可視化に関するもので,大規模な科学活動データを様々な側面から分析し可視化する研究事例が,ディジタル図書館へのビジュアルインタフェースという主題で論じられた。スタンフォード大学図書館のローゼンタール(David Rosenthal) による2日目の講演は,現在の出版会社に依存したディジタル図書館モデルを見直し,より独立した運営をしていく上での主要課題を,自身の長年に渡る経験を元に 論じるものであった。その中には,オープソース技術の導入や論文へのアクセス頻度分析による費用の分散,サービスの透明性とブランディングのバランス等が含まれていた。3日目のマイクロソフト・リサーチのウォン(Curtis Wong)の講演は,1990年代に開発した電子博物館のシステムに始まり,“World Wide Telescope”という宇宙空間を探索できる最近のプロジェクトまで,実例を多く取り入れた発表であった。そこでは特に情報資源の利用を促進する手段として,豊富なガイドツアーを提供することの重要性が強調されていたのが印象的であった。

 筆者にとっては初めてのディジタル図書館に関する国際会議であったが,特にJCDLやICADLという枠にとらわれずに,自分の興味にあった発表を聴きに行けたことは,共同開催の素晴らしい点であると感じた。反面,本会議中は常にセッションが並列しており,各発表に対して異なるコミュニティによる意見交換になかなか発展しないのは,共同開催で大きくなった会議の弊害とも捉えられる。

 筆者が携わってきた情報検索分野の会議と比べた場合のディジタル図書館のコミュニティの特徴を考えてみると,一つには,情報を整理整頓しユーザに提供するという専門職に就く人々がコミュニティにいるという点が挙げられるのではないかと思われる。会議中のパネル・ディスカッションでも,そのようなプロフェッショナルとの共同研究を促進する仕組みを国際会議に取り入れてはどうか,という提案もなされていた。ただ,これは強みであると同時に,難しい問題でもあるようである。特にJCDLに関してはACMとIEEEという2つの技術系の学会に支援されているために,テクニカルな論文が採択される傾向にあるという意見も出された。これは根の深い問題であるが,逆に言えば,そのあたりにICADLが地域性以外の特徴を出す機会があるのかもしれない。

 JCDL 2011は2011年6月にカナダのオタワで,ICADL 2011は同年10月に中国の北京で開催される予定である。

(筑波大学・上保秀夫)

Ref:
http://www.jcdl-icadl2010.org/
E587
E744
E873