CA875 – Native Americansのための図書館サービス:居留地図書館の報告から / 柳下み咲

カレントアウェアネス
No.165 1993.05.20


CA875

Native Americansのための図書館サービス
−居留地図書館の報告から−

英国人が入植する以前よりアメリカに住んでいたインディアンや,ハワイ諸島のハワイアンは,アメリカでは一般的にNative Americansと呼ばれている。彼らへの図書館サービスのあり方が問題となったのは,1970年代以降である。それまでは,論じられることもほとんどなく,特に居留地に住むインディアン部族の多くが図書館を利用していない状況にあった。

しかし,1960年代から1970年代にかけて,アメリカ・インディアンの復権運動の高まりに伴って,図書館の必要性が認識されるようになった。この動きを受けて,1984年にLSCA(図書館サービス及び建設法)第4章が改正され,Native Americansへの図書館サービスを規定する最初の法律として成立した。この法律は,毎年一定の補助金をNative Americansに対する図書館サービスに支出することを規定している。この法律によって支給される補助金の額は,十分であるとはいえない。しかし,彼らの図書館への関心や周囲の理解を喚起することに大きな役割を果たしているといってよい。

このような経緯をへたNative Americansに対する図書館サービスは,現在どのような問題を抱えているのであろうか。ここではアリゾナ,ニューメキシコ,ユタの3州に広がるナバホ(自称ディネ)族居留地の中にある図書館の例を紹介したい。

1941年にボランティアによる小さな図書館として始まった同地の図書館サービスは,現在2つの公共図書館と調査図書館,移動図書館,図書配布サービス(図書資料類を無料で団体や個人に配布するサービス)を持つ一大システム(ナバホ・ネイション図書館システム)に成長した。ここでは,ナバホ族の人々,土地,文化に関する基本情報を提供することを目的としている。各図書館は,ナバホに関する特徴的なコレクションをそれぞれ持っている。1991年度の貸出冊数は8,245冊,利用者は12,273人にのぼる。

同図書館の現状を,連邦議会の公聴会で報告したネルソン(I. J. Nelson)氏は,次の6点を問題点として挙げている。

  1. 居留地の広大さが,住民への図書館サービスを困難にしていること,ある北部居住地域から公共図書館までの距離は,317キロもある。
  2. 居留地全体の17万5千人の住民にサービスを提供するには,より多くの図書館施設が必要であること。
  3. すべての住民ヘサービスを提供するシステムが必要であること。例えば,同図書館では1990年夏以来,2台の移動図書館車による貸出を行っているが,このサービスにより約1,000枚の利用カードを新たに発行した。広範囲の利用者へのサービス提供は,移動図書館が最も効果的であるといえる。
  4. ここ3年間の連邦と州からの補助金が減少していること。
  5. 移動図書館と地域図書館に対する住民の明確な要求があること。これらの要求は,居留地住民から投書として多く寄せられている。
  6. 専門的な図書館スタッフが定着しないこと。この14年半の間に,図書館学の修士又は博士号を持つ10人のスタッフが辞めた。

この報告から,Native Americansのための図書館で今必要とされていることは,確実で豊富な資金であり,優秀なスタッフである。また,他のマイノリティーグループヘの多文化サービスとは異なる,民族の文化やアイデンティティのよりどころとしての役割も担うことが,今後期待されるであろう。

柳下み咲(やぎしたみさき)

Ref: Hearing before the Select Committee on Indian Affairs, Senate, 102nd Cong. 1st Sess. Native American Libraries, Archives, and Information Services. 1991
American Library Association. ALA Yearbook 1989. p.25-26
川崎良孝 Native Americansへの図書館サービス:概観 多文化サービス・ネットワーク (2) 7-13, 1990. 7